056 ドライド・ステート・サヴァイヴァー
文字数 1,993文字
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途中、ヴォロプの目路の端にかかった野ウサギや、草っ原に転がる岩の上で、体温上げの日光浴をしていた太やかなトカゲを狩っては捌き、岩塩を擂り砕いてペペリを塗すという、食肉調達も怠らない道行きとなった。
その作業の合間以外は、休憩もとらずに歩いたために、今日のベストな到達目的地には、まだ陽が沈みきる前に辿り着くことが叶う。
この世界は、魔族と強暴な鬼族も国とまでは呼べないながら、勢力下に置くテリトリーとして跳梁跋扈 する広大な土地が処処方方に存在する。
それゆえに、完全な世界地図を描ききることが未だ叶わず、各国単位でも国土の全体像を把握できてはいなかった。
基本的には、越えるのが困難な山脈や大河が国境となっているため、国を跨いで旅をする場合にも、そうした場所へと行き当たり、越え渡って風趣や慣習や言葉といった変化を肌で感じて始めて、別の国まで踏破したと判断するしかないとヴォロプは言う。
二人がウタビィからもらった地図も、大雑把すぎる道筋に、給水ポイントと、村や町が丸印のサイズで規模の大きさを手書きしただけの紙数枚を綴じた物でしかない。
各ポイント間の距離がどのくらいあるのかは、こういった図取りに慣れたヴォロプの勘に頼る以外になす術がない照壬とっては、歯痒いばかりであった。
しかし、お世辞にも閑雅な好景とは言えないながら、到着した澄んだ水をたぶやかに湛えた静穏な湖沼を、夕映えの中で見渡せば、照壬は正直、はたたかなまでに眉が自ずと開きだすとともに、どうにかやって行けそうだと感奮もしてきてしまう。
ウサギはまだしも、トカゲの処理までもをヴォロプにすっかり任せてしまった手前、夕食は照壬が腕を振るわないわけにはいかない。
ノキオへ相談しつつ、調理油がとれる植物の実、揉み扱 けば小麦粉代わりに使えそうな枯れ穂、調味料や香味料になる草葉を走り集めて、真っ暗にならない内に焚き火竈 も手器用に拵えて料理にとりかかる。
「甘かった~、旅すなわちサヴァイヴァルだとは思っていなかったもんな。まぁ食材に事欠かないで済みそうなのがまた、タチが悪すぎる地獄の福禄だよな」
「理解拒否~。もう初日から疲れきっちゃってるわけ? そんな自家撞着に陥った状態で、美味しい夕食なんてガチにつくれるのかしらぁ?」
「疲れきっても矛盾もしちゃいない。餓死なんて生易しい責め苦じゃ、この世界は満足してくれやしないと言ったまで」
「そ。勝手に言ってればぁ?」
照壬はスグ横の沼から小鍋に水を掬い、戻って火にかけながら問い返す。
「ウサギ肉は柔らかいからピカタ風にして、硬そうなトカゲ肉は、もたされた膨れる豆と一緒にスープにしようと思うんだけどいいかな?」
「任せるぅ。テルミの腕前は、昨晩の試食でわかってるもの」
「まぁ初めての食材ばっかなんで、ヴォロプの舌を満足させられるかはわからないけどな、満腹感だけは得られるようにするって」
「アタシだって山辺の物は食べ慣れてないから、満足なんてどうでもいいもの。アァ~海が恋しいわぁ、早く見える所まで行かないと、ガチでアタシ干乾 びちゃうぅ」
「メシができあがるまでに、水浴びして来れると思うけどな……ってまさか、海沿いまで早く出たくて急いでいたわけなのか?」
「さぁ水浴びして来ちゃいましょっと──」ヴォロプはすっくと立ち上がり、焚き火竈の前から離れて自分の旅嚢の中をガサゴソと漁り始める──「覗いてもいいけど、目が潰れることを覚悟して来てよね~」
「……それ、オレの国では
「理解拒絶ぅ。そんな約束できないもの~」
「てか、ヴォロプが凄いのはもう、覗くまでもなく目に物見せられてら。ここから絶対に動かないから、オレじゃなく、ほかを厳重警戒しながら済ましてくれよな。そんな隙を突かれてヴォロプに何かあったら、目も当てられない」
「そ? ま、いいけどぉ……そうそう、なんかクサクサもしちゃうと思ったら、アタシ鬘を被ってたんだわ~。このせいだったのね、まったくぅ」
ヴォロプは無造作に頭から黒髪を剥ぎとると、扇ぐように一振りしてから、旅嚢の上へと丁寧に置く。
そしてほぼ五分刈りの、赤い坊主頭を現 かし、レインコート同様に手放さなかった大判の今治タオルを右肩に引っ下げて、ススキに似た草が群ら立つ水辺へと向かいだす。
けれども、決してヴォロプは、照壬の興を咲かせた視線を見のがさない。
「何よ~、そんなに、アタシの目潰しをお見舞いされてみたいわけなのっ?」
「てか、豪爽快濶たぁこれ如何にだなっ。イケてるってかなり、リバウンド王っぽくて」
無論、その意味などまるで理解されてはいないものの、ヴォロプが手加減ナシで振り回すバスタオルによるバッチンを、照壬は横っツラの全面に喰らうハメになる。
途中、ヴォロプの目路の端にかかった野ウサギや、草っ原に転がる岩の上で、体温上げの日光浴をしていた太やかなトカゲを狩っては捌き、岩塩を擂り砕いてペペリを塗すという、食肉調達も怠らない道行きとなった。
その作業の合間以外は、休憩もとらずに歩いたために、今日のベストな到達目的地には、まだ陽が沈みきる前に辿り着くことが叶う。
この世界は、魔族と強暴な鬼族も国とまでは呼べないながら、勢力下に置くテリトリーとして
それゆえに、完全な世界地図を描ききることが未だ叶わず、各国単位でも国土の全体像を把握できてはいなかった。
基本的には、越えるのが困難な山脈や大河が国境となっているため、国を跨いで旅をする場合にも、そうした場所へと行き当たり、越え渡って風趣や慣習や言葉といった変化を肌で感じて始めて、別の国まで踏破したと判断するしかないとヴォロプは言う。
二人がウタビィからもらった地図も、大雑把すぎる道筋に、給水ポイントと、村や町が丸印のサイズで規模の大きさを手書きしただけの紙数枚を綴じた物でしかない。
各ポイント間の距離がどのくらいあるのかは、こういった図取りに慣れたヴォロプの勘に頼る以外になす術がない照壬とっては、歯痒いばかりであった。
しかし、お世辞にも閑雅な好景とは言えないながら、到着した澄んだ水をたぶやかに湛えた静穏な湖沼を、夕映えの中で見渡せば、照壬は正直、はたたかなまでに眉が自ずと開きだすとともに、どうにかやって行けそうだと感奮もしてきてしまう。
ウサギはまだしも、トカゲの処理までもをヴォロプにすっかり任せてしまった手前、夕食は照壬が腕を振るわないわけにはいかない。
ノキオへ相談しつつ、調理油がとれる植物の実、揉み
「甘かった~、旅すなわちサヴァイヴァルだとは思っていなかったもんな。まぁ食材に事欠かないで済みそうなのがまた、タチが悪すぎる地獄の福禄だよな」
「理解拒否~。もう初日から疲れきっちゃってるわけ? そんな自家撞着に陥った状態で、美味しい夕食なんてガチにつくれるのかしらぁ?」
「疲れきっても矛盾もしちゃいない。餓死なんて生易しい責め苦じゃ、この世界は満足してくれやしないと言ったまで」
「そ。勝手に言ってればぁ?」
照壬はスグ横の沼から小鍋に水を掬い、戻って火にかけながら問い返す。
「ウサギ肉は柔らかいからピカタ風にして、硬そうなトカゲ肉は、もたされた膨れる豆と一緒にスープにしようと思うんだけどいいかな?」
「任せるぅ。テルミの腕前は、昨晩の試食でわかってるもの」
「まぁ初めての食材ばっかなんで、ヴォロプの舌を満足させられるかはわからないけどな、満腹感だけは得られるようにするって」
「アタシだって山辺の物は食べ慣れてないから、満足なんてどうでもいいもの。アァ~海が恋しいわぁ、早く見える所まで行かないと、ガチでアタシ
「メシができあがるまでに、水浴びして来れると思うけどな……ってまさか、海沿いまで早く出たくて急いでいたわけなのか?」
「さぁ水浴びして来ちゃいましょっと──」ヴォロプはすっくと立ち上がり、焚き火竈の前から離れて自分の旅嚢の中をガサゴソと漁り始める──「覗いてもいいけど、目が潰れることを覚悟して来てよね~」
「……それ、オレの国では
女子のお約束
と言って、かなり恥ぃことなんだよな。気をつけてくれないと、オレはお約束返しにつき合いきれないからな」「理解拒絶ぅ。そんな約束できないもの~」
「てか、ヴォロプが凄いのはもう、覗くまでもなく目に物見せられてら。ここから絶対に動かないから、オレじゃなく、ほかを厳重警戒しながら済ましてくれよな。そんな隙を突かれてヴォロプに何かあったら、目も当てられない」
「そ? ま、いいけどぉ……そうそう、なんかクサクサもしちゃうと思ったら、アタシ鬘を被ってたんだわ~。このせいだったのね、まったくぅ」
ヴォロプは無造作に頭から黒髪を剥ぎとると、扇ぐように一振りしてから、旅嚢の上へと丁寧に置く。
そしてほぼ五分刈りの、赤い坊主頭を
けれども、決してヴォロプは、照壬の興を咲かせた視線を見のがさない。
「何よ~、そんなに、アタシの目潰しをお見舞いされてみたいわけなのっ?」
「てか、豪爽快濶たぁこれ如何にだなっ。イケてるってかなり、リバウンド王っぽくて」
無論、その意味などまるで理解されてはいないものの、ヴォロプが手加減ナシで振り回すバスタオルによるバッチンを、照壬は横っツラの全面に喰らうハメになる。