021 平行線上のありゃりゃ
文字数 1,924文字
ノキオへと、照壬は思いきり顰 めっ面 を向けてしまう。
「地獄だっての間違いなくっ。さっきの会話からして、悪人なんかオレは始めて間近にしちまった。元いた世界じゃ接点がなかったし、接点をもたずに生活できる世界だったんだ」
「そうでしたか。しかしながら本性に気づかないというだけで、あの程度のゴロツキはどこにでもいるのではありませんか? テルミは悪も穢れも一切ない浄土から来たのでしょうか?」
「まさかだろ。魔物っぽいのはウジャラケてたけど、悪も穢れも気づかずにいられる平和さだったっ……てか、三日後にまた休憩場で落ち合って、ヤバげな取引でもするような口ぶりだったし、来る人数も増えそうじゃないかよ。巻き込まれないようにしないとガチでっ」
「……では、それまでに斬り離していただけるようワタクシはガンバります。加えてテルミ、ワタクシに剣捌 きを、闘い方の御教授もお願いできないでしょうか? 動けるようになって尚、抗えずに耐えるのみということだけは避けたいので」
「だよな。了解だ、不敗の極意を教えてやるって。でもまず断っておくが、オレが齧った流派は、悪も穢れも事ともしない卑怯上等だからな」
「卑怯が上等なのですか? 意味がわかりませんけれども」
照壬は手早に、バッグパックを寝床に決めた太枝が重なる幅広い部分へ下ろし終え、ノキオの根が地面から出ていない箇所を確認して軽らかに飛び下りた。
「てか、相手が強いから卑怯な手を使うしかなくなるわけで、なら、最初から使っちまえば効率が良いだろ? 実用的すぎて邪道じみた撃退手法ってカンジかな」
「それで卑怯も上等となるわけなのですね」
「つまりは敵への賛辞って解釈だな。卑怯な手段で勝ちきって誇ったり、トドメを刺したりせず、相手が身がまえを立てなおしている間に、その場からそそくさ立ち去っちまえばいい。どうせ追いつめられた時限定、その場凌ぎの遁避ワザなんだから」
「それゆえ不敗の極意ですか。負けないけれども勝ってもいけない、最初から逃げることを目的とした闘い方で、最後まで卑怯者らしくふるまい、卑怯が当然であると正当化させてしまおうという発想でしょうか?」
頻りに頷くノキオだったが、頷くたびに後頭部が幹から剥離しているために頷くことができるようになったという感じ。
「ん~、てかオレは端から闘いたくないんだし、闘いをムリ強いして来た相手も卑怯はお互い様ってことだな。闘う必要なんて大概ないし、暴力自体が卑怯なんだから正正堂堂もないっての。殴っても殴られても痛いしな。オレのいた世界には蓋 し名言があるんだけど、こっちにはないのか?」
「そうですね……
ノキオはできる限界まで首をヒネり回し、着地点で剣の素振りをし始めた照壬を視界の中心して見据える。
「……ダメか? なら、オレにはノキオを納得させられそうもないなぁ」
「いえ。確かに、テルミのいた世界の方が合理的で平和的ですね。もしや、テルミは天国から堕とされて、テルミ自体が神もしくは天使だったのではありませんか?」
「は? 何でそうなるんだよ」
「今も結構な高さから飛び下りたというのに、足に痺れも走らないようですし。身軽なのではなく、自身の体重を軽くできたりするのでは? 飛べないまでも、風に乗ることくらいは可能なのではありませんか?」
「オレは人間、それも残念ながら凡人だ、堕天するわけがないっての……てか、なんとなくイヤ~な予感はしていたけど、このバッシュがオシャカになったらガチで地獄だな。これまであたりまえだった動きがムリになるどころか、ケガまでしちまいかねないわけかよぉ」
「どう言うことでしょうか?」
「……オレがいた世界は、こっちより科学の技術レヴェルが高かったってだけ、全てはオレが履いているこのクツの衝撃吸収性能。ノキオがサイズを合わせてくれたら貸すんで試してみるといいよ。世界の違いと、リアルに地獄って意味が実感できるかもだ」
「はい。是非そうさせてください」
「ちなみにオレのいた世界では、合理的と、
「……そう、なのですか?」
照壬はニヤリと、しかし心寂しげに一笑、下ろしていたлсДを中段にかまえなおしつつノキオの正面へと向かう。
「さぁて。では、もう怒られることはないんで封印解除、禁じ手から教えていくな。しっかり憶えて、オレが祖父サマたちへ残せなかった子孫の分まで、末永く継承してくれ」
「地獄だっての間違いなくっ。さっきの会話からして、悪人なんかオレは始めて間近にしちまった。元いた世界じゃ接点がなかったし、接点をもたずに生活できる世界だったんだ」
「そうでしたか。しかしながら本性に気づかないというだけで、あの程度のゴロツキはどこにでもいるのではありませんか? テルミは悪も穢れも一切ない浄土から来たのでしょうか?」
「まさかだろ。魔物っぽいのはウジャラケてたけど、悪も穢れも気づかずにいられる平和さだったっ……てか、三日後にまた休憩場で落ち合って、ヤバげな取引でもするような口ぶりだったし、来る人数も増えそうじゃないかよ。巻き込まれないようにしないとガチでっ」
「……では、それまでに斬り離していただけるようワタクシはガンバります。加えてテルミ、ワタクシに
「だよな。了解だ、不敗の極意を教えてやるって。でもまず断っておくが、オレが齧った流派は、悪も穢れも事ともしない卑怯上等だからな」
「卑怯が上等なのですか? 意味がわかりませんけれども」
照壬は手早に、バッグパックを寝床に決めた太枝が重なる幅広い部分へ下ろし終え、ノキオの根が地面から出ていない箇所を確認して軽らかに飛び下りた。
「てか、相手が強いから卑怯な手を使うしかなくなるわけで、なら、最初から使っちまえば効率が良いだろ? 実用的すぎて邪道じみた撃退手法ってカンジかな」
「それで卑怯も上等となるわけなのですね」
「つまりは敵への賛辞って解釈だな。卑怯な手段で勝ちきって誇ったり、トドメを刺したりせず、相手が身がまえを立てなおしている間に、その場からそそくさ立ち去っちまえばいい。どうせ追いつめられた時限定、その場凌ぎの遁避ワザなんだから」
「それゆえ不敗の極意ですか。負けないけれども勝ってもいけない、最初から逃げることを目的とした闘い方で、最後まで卑怯者らしくふるまい、卑怯が当然であると正当化させてしまおうという発想でしょうか?」
頻りに頷くノキオだったが、頷くたびに後頭部が幹から剥離しているために頷くことができるようになったという感じ。
「ん~、てかオレは端から闘いたくないんだし、闘いをムリ強いして来た相手も卑怯はお互い様ってことだな。闘う必要なんて大概ないし、暴力自体が卑怯なんだから正正堂堂もないっての。殴っても殴られても痛いしな。オレのいた世界には
逃げるが勝ち
って「そうですね……
剣を抜かずに死中をぬける
であるとか、死んだフリで命拾い
などの言葉が意味として近いと思われます。デウツクランでは男も女も、負けを認めない限り逃げませんので、勝ち
とは決して結びつかないのです」ノキオはできる限界まで首をヒネり回し、着地点で剣の素振りをし始めた照壬を視界の中心して見据える。
「……ダメか? なら、オレにはノキオを納得させられそうもないなぁ」
「いえ。確かに、テルミのいた世界の方が合理的で平和的ですね。もしや、テルミは天国から堕とされて、テルミ自体が神もしくは天使だったのではありませんか?」
「は? 何でそうなるんだよ」
「今も結構な高さから飛び下りたというのに、足に痺れも走らないようですし。身軽なのではなく、自身の体重を軽くできたりするのでは? 飛べないまでも、風に乗ることくらいは可能なのではありませんか?」
「オレは人間、それも残念ながら凡人だ、堕天するわけがないっての……てか、なんとなくイヤ~な予感はしていたけど、このバッシュがオシャカになったらガチで地獄だな。これまであたりまえだった動きがムリになるどころか、ケガまでしちまいかねないわけかよぉ」
「どう言うことでしょうか?」
「……オレがいた世界は、こっちより科学の技術レヴェルが高かったってだけ、全てはオレが履いているこのクツの衝撃吸収性能。ノキオがサイズを合わせてくれたら貸すんで試してみるといいよ。世界の違いと、リアルに地獄って意味が実感できるかもだ」
「はい。是非そうさせてください」
「ちなみにオレのいた世界では、合理的と、
平和的
は結びついても、平和
そのモノとはどうにも結びつききらないんだよな……」「……そう、なのですか?」
照壬はニヤリと、しかし心寂しげに一笑、下ろしていたлсДを中段にかまえなおしつつノキオの正面へと向かう。
「さぁて。では、もう怒られることはないんで封印解除、禁じ手から教えていくな。しっかり憶えて、オレが祖父サマたちへ残せなかった子孫の分まで、末永く継承してくれ」