047 悪事バレを尻が割れると言いますが
文字数 1,999文字
この事態の、結構な重大さと厄介さもウタビィは再認識せざるを得なくなり、二人の向かいに腰を下ろしかけたがやめて、またヒゲを撫で撫で机の方へ歩き始めた。
「まぁそうね。けれど働いたニャけきちんともらえるから、遠い本拠舎の見映えニャンてどうでもいいわ。ラウサンネの本領館ニャンか、まるで要塞と言われているぐらいニャし……」
「……それでウタビィ、アタシたちを助けてくれるの?」
ヴォロプの率直な問いかけに、ウタビィは机の上に両手を突いて、正面の大ガラスを覗き込みつつ体を前後に揺らしだす。
ゴロゴロとノドを鳴らす音が、ウタビィの頭の中で鬩ぎ合うもて悩み具合を語っていた。
「央都へ戻るのニャらともかく……私にできるのは手助けくらいニャわね。道筋も、フィンテルンの物流網からハズレてしまうから、荷馬車に乗せてあげることすらできニャいし……」
ウタビィの体の揺れ幅が大きくなっていくのに堪えかねて、照壬もようやく、ウタビィに向けての口が開く。
「あのっ。オレの持物、貴族になら高く買ってもらえるとノキオに言われまして、これらを、ウタビィさんにどうにかしてもらうことはできませんか?」
後生大事と言うよりは、安心毛布代わりに抱えていたブランケットの包みを、ティーテーブルの上へ思い放った照壬は、さらに中身を見せるため解き広げにかかる。
体を揺らすのを止めたウタビィだったが、それには一瞥もくれず、大ガラスに真向かったまま返答を始めた。
「できるけれど、支払いがいつ届くかニャるかわからニャいし、その時に、あニャたたちにここにいられても困るし、そもそも待つはずがニャいわよね?」
「……そう言うことですかぁ……」
「フィンテルンの支舎がある町や、ここみたいニャ管領村を経由してくれるニャら、そこで支払額を引き出せるようにすることはできるわよ。それでよければ預かるけれど──」
卒然! ウタビィは枝切れを机の上にあったペンに持ち替えて、ふり向き様にヴォロプへと投げつけた。
それは、小マメにインクに浸けて書かなければならない先が鋭い金具のペン。
けれども、ヴォロプの弾けんばかりの胸に突き刺さる前に照壬が右手を伸ばし、その右手に当たる寸前に、背から下してソファーに寄せ掛けておいたлсДも反応──誰もいない側へと跳ね落とす。
「何するんですかいきなりっ」
宙に浮き止るлсДを手にして、思わず声を張ってしまった照壬と、上半身を倒し伏せての回避行動をとりおおせているヴォロプに、ウタビィは切れ長の大きな目を、三日月みたく細めて笑み傾いた。
「悪いことをしたわペンナを投げて。けれど、さすがは、まだ坊やでもディスロケーター、どうやらちゃんと守れそうじゃニャいのテルミ。自分を犠牲にし続けたのでは、フワム半島まで送り届けるニャンてムリニャから到底」
「はぁ……ペンナか、近いなペンに。てか、焦った~」
「とにかく、帰り道は私が幾つか選んでみるわ。旅費にニャるべく困らニャいようにしかしてあげられニャいけれど、愚盲に近道を進んだのでは、国の衛士だけでニャく、悪い連中に、また罠を仕掛け易くするだけニャからね」
「……よろしくお願いします。それと、最初からおわかりでしょうが、オレたちが今着ている服も、こちらでフツウとされる服と交換してもらえませんか? 材質が違いすぎるんで、できる限り目立たないように」
しかしこれには、ヴォロプがシャキーンと座りなおして照壬へ喰いかかる。
「イヤよっ。ジャージは体に合わないからしょうがないとしても、このレインコートは絶対交換しないもの。てか、テルミはガチでいいわけ? 大事な形見なのにっ」
「……いいって、祖父サマは、迷わず手放せと言う人だったからな。ヴォロプも変に気にかける必要なんてない」
「そ! けど、これだけはアタシが絶対着て帰るんだもの」
プイッと照壬から顔を背けると同時に、ウタビィへ向いた目で訴えるヴォロプだった。
「わかったわ。でもヴォロプ、絶対にやってもらわニャければ、ここから送り出せニャいことがあるんニャけれど、かまわニャい?」
「……勿論ですけど。アタシ駄駄っコなんかじゃありませんから」
ウタビィは、ニヤと笑壺に入った眼色を浮かべると、ヴォロプから照壬へと見次いで頼み出しもする。
「それとね、二人に会わせたいコがいるわ。やっぱり今日ここに助けを求めて来たんニャけれど、お尻が三つに割れたようニャ酷い傷を負っているのに、その理由を一切話そうとしニャいのよ。あニャたたちニャら、話す気にニャってくれるかも知れニャいから」
照壬の、лсДを帯剣ベルトへ収めていた手がヒクリ、止まらざるを得ない。
「その人の傷は、オレがやってしまいました。ノキオのツリーマンを斃された報復で……」
悪怯れる一方、心中で照壬は〈てかガチか~っ。やっぱ、殺しちまわなくて助かったよノキオォッ!〉と、思いの丈で呼号する。
「まぁそうね。けれど働いたニャけきちんともらえるから、遠い本拠舎の見映えニャンてどうでもいいわ。ラウサンネの本領館ニャンか、まるで要塞と言われているぐらいニャし……」
「……それでウタビィ、アタシたちを助けてくれるの?」
ヴォロプの率直な問いかけに、ウタビィは机の上に両手を突いて、正面の大ガラスを覗き込みつつ体を前後に揺らしだす。
ゴロゴロとノドを鳴らす音が、ウタビィの頭の中で鬩ぎ合うもて悩み具合を語っていた。
「央都へ戻るのニャらともかく……私にできるのは手助けくらいニャわね。道筋も、フィンテルンの物流網からハズレてしまうから、荷馬車に乗せてあげることすらできニャいし……」
ウタビィの体の揺れ幅が大きくなっていくのに堪えかねて、照壬もようやく、ウタビィに向けての口が開く。
「あのっ。オレの持物、貴族になら高く買ってもらえるとノキオに言われまして、これらを、ウタビィさんにどうにかしてもらうことはできませんか?」
後生大事と言うよりは、安心毛布代わりに抱えていたブランケットの包みを、ティーテーブルの上へ思い放った照壬は、さらに中身を見せるため解き広げにかかる。
体を揺らすのを止めたウタビィだったが、それには一瞥もくれず、大ガラスに真向かったまま返答を始めた。
「できるけれど、支払いがいつ届くかニャるかわからニャいし、その時に、あニャたたちにここにいられても困るし、そもそも待つはずがニャいわよね?」
「……そう言うことですかぁ……」
「フィンテルンの支舎がある町や、ここみたいニャ管領村を経由してくれるニャら、そこで支払額を引き出せるようにすることはできるわよ。それでよければ預かるけれど──」
卒然! ウタビィは枝切れを机の上にあったペンに持ち替えて、ふり向き様にヴォロプへと投げつけた。
それは、小マメにインクに浸けて書かなければならない先が鋭い金具のペン。
けれども、ヴォロプの弾けんばかりの胸に突き刺さる前に照壬が右手を伸ばし、その右手に当たる寸前に、背から下してソファーに寄せ掛けておいたлсДも反応──誰もいない側へと跳ね落とす。
「何するんですかいきなりっ」
宙に浮き止るлсДを手にして、思わず声を張ってしまった照壬と、上半身を倒し伏せての回避行動をとりおおせているヴォロプに、ウタビィは切れ長の大きな目を、三日月みたく細めて笑み傾いた。
「悪いことをしたわペンナを投げて。けれど、さすがは、まだ坊やでもディスロケーター、どうやらちゃんと守れそうじゃニャいのテルミ。自分を犠牲にし続けたのでは、フワム半島まで送り届けるニャンてムリニャから到底」
「はぁ……ペンナか、近いなペンに。てか、焦った~」
「とにかく、帰り道は私が幾つか選んでみるわ。旅費にニャるべく困らニャいようにしかしてあげられニャいけれど、愚盲に近道を進んだのでは、国の衛士だけでニャく、悪い連中に、また罠を仕掛け易くするだけニャからね」
「……よろしくお願いします。それと、最初からおわかりでしょうが、オレたちが今着ている服も、こちらでフツウとされる服と交換してもらえませんか? 材質が違いすぎるんで、できる限り目立たないように」
しかしこれには、ヴォロプがシャキーンと座りなおして照壬へ喰いかかる。
「イヤよっ。ジャージは体に合わないからしょうがないとしても、このレインコートは絶対交換しないもの。てか、テルミはガチでいいわけ? 大事な形見なのにっ」
「……いいって、祖父サマは、迷わず手放せと言う人だったからな。ヴォロプも変に気にかける必要なんてない」
「そ! けど、これだけはアタシが絶対着て帰るんだもの」
プイッと照壬から顔を背けると同時に、ウタビィへ向いた目で訴えるヴォロプだった。
「わかったわ。でもヴォロプ、絶対にやってもらわニャければ、ここから送り出せニャいことがあるんニャけれど、かまわニャい?」
「……勿論ですけど。アタシ駄駄っコなんかじゃありませんから」
ウタビィは、ニヤと笑壺に入った眼色を浮かべると、ヴォロプから照壬へと見次いで頼み出しもする。
「それとね、二人に会わせたいコがいるわ。やっぱり今日ここに助けを求めて来たんニャけれど、お尻が三つに割れたようニャ酷い傷を負っているのに、その理由を一切話そうとしニャいのよ。あニャたたちニャら、話す気にニャってくれるかも知れニャいから」
照壬の、лсДを帯剣ベルトへ収めていた手がヒクリ、止まらざるを得ない。
「その人の傷は、オレがやってしまいました。ノキオのツリーマンを斃された報復で……」
悪怯れる一方、心中で照壬は〈てかガチか~っ。やっぱ、殺しちまわなくて助かったよノキオォッ!〉と、思いの丈で呼号する。