068 敵の話に耳を貸しちゃってる時点で勝負は

文字数 1,628文字

 一瞬フリーズしたものの、エシャは怒りとチカラを湧き上がらせるように、またふるふると足から全身を微振動させて、その体表面に立つ(さざなみ)を頭頂まで上げていく。

「……今ぁ一体、何をしゃあがったんだい坊や? まさか……」

「さてな。オレにもマジガチなところはわからないんだけど、ディスロケーターだからできちまうとしか、言いようがないんだよな」

「ほんに、出任せじゃあないのかいっ?」

「あぁ、マジガチと言ったろ。てか、オレもノキオと同じで、平穏‐和暢(わちょう)と過ごしていきたいだけだからな。不必要な殺生なんかしたくもないし」

「誰が、不必要に殺されるもんかいっ。坊やこそ、ここでムダ死にしちまいな!」

「てかさ、エシャはもう何をしようが完全に自由なんだよな。悠久の年月が自分に刷り込み、染み着かせちまっている、生まれもった生き方をする必要なんか全然ない。魔族として、堂堂とフツウに生きていけばいいじゃないかよ」

「……ほんに坊やがそうなら、ディスロケーターがそれを言うかいっ──」
 エシャは第二撃、今度は、両腕を振り回して左右からの同時攻撃を放った。

 それを察した照壬は一歩退き、伸びた両手先が、照壬の頭部があった位置で交わった瞬間を薙ぎ払う。
 今回はлсДを大きく振りぬけた分、エシャの伸ばした腕も、大きく斬り消すことができていた。

「だよなぁ。エシャは今や、オレとは違って裏街道を生きる必然がないってことだな。魔族から半端モノあつかいされたって、追いつめられて始末までされちまうわけじゃないんだろ?」

「やかぁしいねっ、いい加減にお黙り坊や!」

 エシャは今度、足を前後に広く開き大きく上半身を反らすと、頭をふり回して長い髪をさらに長く伸ばして攻め始める。

 けれども、これに照壬はもう一歩たりとも後退せずに、лсДを一振りするたび、半歩もしく一歩ずつ前進して、エシャへと躙り寄って行く。

「だからな、勝手を知っているだけの憎っくき奴隷商の真似事とか、変にグレずに魔族らしく生きりゃいいと言っているんだ。人族に深刻な被害までは出さない配慮をしてくれるなら、同じ半端モノ同士の(よしみ)で、オレはいつでもエシャの味方をしてやるし」

「お黙りお黙りっ、何なのさ一体このクソ坊やは!」

「……オレな、元いた世界で、人間不信に陥り気味になっていたもんだから、こっちでも、別に人族だからってだけの同族の誼なんてのは、全然もち合わせちゃいないんだよな」

「それが一体、何だって言うのさっ」

「実に即物的に、オレを助けてくれる相手が味方で、害を及ぼしてくる相手が敵。そのどっちでもなければ、道に転がってる大きめの石も同じってこと。蹴り飛ばしもせず、ただ無意識に避けるだけだな」

「そんなこたぁ知らないよっ。さっさとワチキにやられちまいな!」

「てか、それだけはイヤなんで、一先ず石になってみるってのはどうかな? って提案をしているわけ。オレなんかに斃されちまうなんて勿体ないって、折角つかめた自由じゃないかよ」

「あぁ、ぎみがまと耳囂(みみかしがま)しいんさねっ」

「エシャもさ、もう少し世間と人族のことを知れば、オレみたいなクソ坊やに、こうもやられやしないと思うんだよな」

「そんな減らず口に靡いちまうほど、オボコいワチキじゃないんだよっ」

「てか、そのムキ丸出しな反応が既にオボコいんだけどな。オレ、負けず嫌いなヤツ、こういう意味なら存外好きかも……ったく祖父サマも、これをオレから愉しんでいたわけかよ……」

「…………」

 エシャはもう言い返しをせずに攻撃のみへと集中しだす。

 それも当然のことで、出し続けてきた手数を次次と照壬に斬られ、消却されて、エシャの体は見る見るスレンダーに、背頃合も徐徐に低くなりつつある。
 このままでは、完全に斬り尽くされてしまうのも時間の問題……。

「オレもまだ知らないんだけどな、もっと愉しい場所で、もっともっと愉しく生きられるんだってエシャは」

「……くうっ」照壬の御託並べに、どうにも気が削がれてならないエシャだった。
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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