018 災害級ア・ラ・カルト
文字数 1,964文字
「まず、ドラゴンの襲来です──」
「って! それ、いきなり例外どころじゃなくないか?」
「まぁそうですけれども、特に炎龍は烈火を吐きますので、遠くない町が焼滅するほどの被害を受ければ、熱い風がこの森へも吹き込んで気温を上げることになります」
「ガチかぁ、さすが異世界……」
「また、パズズや魃 が気紛れにへちまって酷暑にすることもあります。そして、ホレやスネグルーカの出現で雪が降ったり、冬将軍の逸遊による立ち寄りで、吹雪にまでなったりもするのです」
ドラゴンが町を襲って燃やし尽くすと言うことから懐疑心が湧いてしまう照壬なので、そのあとに並べ挙げられた怪異などほとんど聞き捨て。
しかし耳慣れた言葉には反応せずにはいられない。
「……冬将軍って、強烈な寒波じゃなく具象化された存在がいるわけか? まさか鎧兜のサムライ、てか武者姿ってわけじゃないよな?」
「白銀の甲冑に身を包んだ氷の騎士ですね。銀馬に乗り、氷の兵団を率いているのです、周辺を吹雪かせなくては融 けてしまいますので」
「……なんか、雪ダルマ、てか、スノーマンの偉い親戚とでも思うしかなさそうだよなぁ」
「よくわかりませんけれども、サムライのことは知っています。ニンジャとともに、はるか東方の島国にいたようです。ワタクシが生まれる以前に滅びてしまったので、今やサムライもニンジャも伝説の存在となっています」
「ガチ? 滅びたって何でだ?」
「北からラスフェドラ、西から大方華央に攻め入られて、無翼龍に似た長細い国土は、山影が美しい霊峰を境に二分されてしまったとのことです。現在もその山を奪い合って小競り合いが絶えず、国境線が定まりきらないようですけれども」
「やっぱ地獄だな……オレは、そこが滅びずに存続していた場合とたぶん似ているだろう文化の国で暮らしていたんだ。……でも滅びちまったんじゃ、そこを目指して旅をしようかって気にもならないな」
「サムライとニンジャたちの犠牲により落ち延びた末裔が、ディアブラリフェインの各地にいることでしょう。そうした歴史的背景から、困窮した時に頼っても無下にはされないのではありませんか?」
「かもな。……だけど数百年も経っているなら、もうわからないんじゃないかな? 日本人って、トコトン馴じみきるか、馴めずに滅び去るかみたいだからな」
そう自分で言っておきながら照壬は薄ら寒さを覚えてしまう。
今のところ、この世界に馴じみきれる自信などは皆無。それ以前に、馴じみたくもない確信だけは明らかなので。
「ニホンですか? こちらでは確かヤァポニアだったはずです。南西の隣国、ロマリア初の旅行記で紹介されたヅィーパンではないかと言う説もありますけれども……そうした違いが、どこまでテルミのいた世界との差異になるのかまではわかりませんね」
「やっぱ、スグにまるっと順応も適応もできそうにないんで、我 を曲げずに押し通る道を選ぶしかないな。なるべく人族とは関わらないようにしよっと、特に人素族とは」
「……そうですか。それも一案だとは思いますけれども」
「ディスロケーターだったよな? スグに正体バレしちまいそうだし、そしたら露骨に地獄も見そうだしな──」照壬は枝を移るのをやめると、屈んだり上体を差し伸ばして左見右見 し始めた──「ン~、この太い枝に細い枝が絡んでいる所がいいカンジ。ここに寝転がってみてもいいかな?」
「どうぞ。落ちないように注意してください、そこは下に枝が張り出していない上に、地面から浮き出てた根の一部が硬くなってもいますので」
「わかった、てか、こんなに大きくて枝もたくさんあるのに細部までわかるんだな? ってことはノキオには感覚があるわけだから、剣で幹の下を大きく斬ったりなんかしたら、激痛でショック死とかしちまったりしないのか?」
「……自分の体なので全てが受取できます。けれども痛みとしてはカンジませんので、そのショックシと言うのがどんなことかはわかりませんが、テルミが不安がるような結果にはならないと思います」
「そ? ならいいんだけど。じゃぁチョックラ失礼して……荷物も、今オレが立っている所に置かせてもらっちゃうな。並んでいる枝の隙間にちょうど嵌って安定しそうだから」
「かまいませんけれども、すみません、暫く黙っていてもらえるとありがたいのですが」
「え? わかった、ゴメンな……」
ノキオの機嫌を損ねてしまったと思い、照壬は下ろしかけたバックパックも背負いなおしてほかの枝へ目を向け始めたその時──照壬の耳に話し声が飛び込んできた。
ヤケに鮮明だが、それはノキオの声ではないために照壬は喫驚! この世界の人族ということになる。
照壬は悚悚 と辺りを見転 べかすも、首から下はフリーズしてしまい、幹に寄って少しでも身を隠そうとすることさえできない。
「って! それ、いきなり例外どころじゃなくないか?」
「まぁそうですけれども、特に炎龍は烈火を吐きますので、遠くない町が焼滅するほどの被害を受ければ、熱い風がこの森へも吹き込んで気温を上げることになります」
「ガチかぁ、さすが異世界……」
「また、パズズや
ドラゴンが町を襲って燃やし尽くすと言うことから懐疑心が湧いてしまう照壬なので、そのあとに並べ挙げられた怪異などほとんど聞き捨て。
しかし耳慣れた言葉には反応せずにはいられない。
「……冬将軍って、強烈な寒波じゃなく具象化された存在がいるわけか? まさか鎧兜のサムライ、てか武者姿ってわけじゃないよな?」
「白銀の甲冑に身を包んだ氷の騎士ですね。銀馬に乗り、氷の兵団を率いているのです、周辺を吹雪かせなくては
「……なんか、雪ダルマ、てか、スノーマンの偉い親戚とでも思うしかなさそうだよなぁ」
「よくわかりませんけれども、サムライのことは知っています。ニンジャとともに、はるか東方の島国にいたようです。ワタクシが生まれる以前に滅びてしまったので、今やサムライもニンジャも伝説の存在となっています」
「ガチ? 滅びたって何でだ?」
「北からラスフェドラ、西から大方華央に攻め入られて、無翼龍に似た長細い国土は、山影が美しい霊峰を境に二分されてしまったとのことです。現在もその山を奪い合って小競り合いが絶えず、国境線が定まりきらないようですけれども」
「やっぱ地獄だな……オレは、そこが滅びずに存続していた場合とたぶん似ているだろう文化の国で暮らしていたんだ。……でも滅びちまったんじゃ、そこを目指して旅をしようかって気にもならないな」
「サムライとニンジャたちの犠牲により落ち延びた末裔が、ディアブラリフェインの各地にいることでしょう。そうした歴史的背景から、困窮した時に頼っても無下にはされないのではありませんか?」
「かもな。……だけど数百年も経っているなら、もうわからないんじゃないかな? 日本人って、トコトン馴じみきるか、馴めずに滅び去るかみたいだからな」
そう自分で言っておきながら照壬は薄ら寒さを覚えてしまう。
今のところ、この世界に馴じみきれる自信などは皆無。それ以前に、馴じみたくもない確信だけは明らかなので。
「ニホンですか? こちらでは確かヤァポニアだったはずです。南西の隣国、ロマリア初の旅行記で紹介されたヅィーパンではないかと言う説もありますけれども……そうした違いが、どこまでテルミのいた世界との差異になるのかまではわかりませんね」
「やっぱ、スグにまるっと順応も適応もできそうにないんで、
「……そうですか。それも一案だとは思いますけれども」
「ディスロケーターだったよな? スグに正体バレしちまいそうだし、そしたら露骨に地獄も見そうだしな──」照壬は枝を移るのをやめると、屈んだり上体を差し伸ばして
「どうぞ。落ちないように注意してください、そこは下に枝が張り出していない上に、地面から浮き出てた根の一部が硬くなってもいますので」
「わかった、てか、こんなに大きくて枝もたくさんあるのに細部までわかるんだな? ってことはノキオには感覚があるわけだから、剣で幹の下を大きく斬ったりなんかしたら、激痛でショック死とかしちまったりしないのか?」
「……自分の体なので全てが受取できます。けれども痛みとしてはカンジませんので、そのショックシと言うのがどんなことかはわかりませんが、テルミが不安がるような結果にはならないと思います」
「そ? ならいいんだけど。じゃぁチョックラ失礼して……荷物も、今オレが立っている所に置かせてもらっちゃうな。並んでいる枝の隙間にちょうど嵌って安定しそうだから」
「かまいませんけれども、すみません、暫く黙っていてもらえるとありがたいのですが」
「え? わかった、ゴメンな……」
ノキオの機嫌を損ねてしまったと思い、照壬は下ろしかけたバックパックも背負いなおしてほかの枝へ目を向け始めたその時──照壬の耳に話し声が飛び込んできた。
ヤケに鮮明だが、それはノキオの声ではないために照壬は喫驚! この世界の人族ということになる。
照壬は