002 憎めないヤツって、そのとんでもなさが理由かも

文字数 1,971文字

 照壬を大きく避けておこうと、廊下のフリーズも照壬が近づく毎にそそくさと解除されていく。
 ややもすると、ほかのクラスから出て来た何も知らない生徒たちが散り交じり、照壬が漂わせていた険険しいムードもすんすん散かされてしまう。

 階段口へと曲がる際に来た方へ一瞥をくれた照壬は、思わず浮かんだ苦笑を、階段を降り進むたびに心底からの嘲笑いへと変えずにはいられなくなる。

 指神は、棒立ったまま寺井を見下ろし続けていただけ。
 倒れたままの寺井にしても、寄りついて来る者は誰一人ないあり様で、その二人を、同学年連中の徹底された日和見主義と、知らないしぃ‐関係ないしぃ‐どうしていいかわかんないしぃの

が、時の流れと連れ立って、色褪めて見えたほど置き去りにしていたせいだった。

 そして──、どことなくいじくれた普段の不興顔に戻りつつも、足どりは実に軽やかに校門を出た照壬だったが、そこを待ちかまえていたかのような歩み出しで、笑みの眉を全開にした同年代男子が寄って来る。

 日本人ではないことだけは一目で判断できる長めの銀髪、透き通るような白い肌。
 服装も慧斗にはあり得ない奇抜さで、ヴィヴィッドな青のハーフコートに、芥子色とベージュとレンガ色を組み合わせた迷彩にならないウッドランド迷彩柄のワークパンツ姿。
 ブルースウェードのスニーカーも、デザインからブランドロゴまでが慧斗には目新しい。

 そんな男子が、アメジストの輝きを放つ瞳で愛敬を取りながら照壬に並ぶ。

「やあ。見てたよさっきの、偶然だけど一部始終。なんか凄い、いや凄まじいとしか言いようがないねキミ、もう完全に興味が向いてた先を根刮ぎ奪われちゃった」

「は? ……えっと、誰かと思いっきり間違えてるな。日本語はできるみたいだけど、オレの言ってることは通じているか?」

 身長も体格もほぼ同じくらいだが、照壬は半歩遠退き間隔を広げた。
 相手の異色さに気圧されたと言うよりも、ホックも開けずにきっちり制服を着ている自分までが、疎らながら帰宅生徒の流れから浮いてしまうとの思いからの反射的行動。

「間違えてないさ、えぇ~っと……照壬慧斗クンでしょ。チョット話をさせてもらえない? ボクはアレル・Э・キーノ、勿論ナメてなんかいないよ全然、敬愛の意を込めて慧斗と呼ばせていただくしさ」

「……何でオレの名前を?」 
 
「チョット索ったのさ。何だって索れるよ、お近づきの印しにこれをプレゼントさせてもらっちゃうし~。ホントにホント、ナメてたらできないことでしょう?」

 アレル・Э・キーノが照壬に差し出したのはブリスターケースに入った海外メイカーのミニカー。
 照壬のこづかいでも集められるワンコイン価格だが、日本では食玩あつかいで根気よくスーパーマーケット巡りをしなければ欲しいモノが入手できない難堪(なんかん)が異趣でもあり、しかも照壬がここ(しばら)く探し続けていた一台だった。

「どしてそれまで? ……何者だあんた一体? てか、一部始終見ていたってどうやって? 
その服装なら気づかないはずがないし、第一、校舎にまでは入れないだろ?」 
 
「その辺もザックリ話すからさ、ね、いいでしょう? 歩きながらも話すのも何だし、この通りから少しはずれて、座れる店にでも入るかい? 勿論、慧斗が好きなナポリタンでもホットケーキでもパインピーチパフェでも奢っちゃうよ~」

 好物も、出す店が限定されるパインピーチパフェまで言い当てられ呆然としてこざるを得ない照壬は、その手に強いつけられたミニカーも漫然と受けとってしまい、アレル・Э・キーノに促されるまま、ちょうど青に変わった横断歩道まで渡りそうになる。

「待ってくれっ。歩きながらなら話につき合う、遅れられない用事があるんだ。このミニカーの代金は、定価でいいなら支払うし」

「ウン、慧斗がいいなら全然いいよ。代金だっていい、ミニカー一つで聞く耳をもってくれてボクも大助かりさ、どうぞ遠慮なくもらっちゃって~」

「そ? ならどうも、まぁスーパー巡りは従姉に言いつけられ続けるんだろうけどな」

「遅れられない用事ってそれなの?」

「いや……この足で従姉の娘たちを迎えに行ったあと、祖父さんの出迎え。帰って来るバスの時間が決まっているんでな」

「フ~ン。それでソッコー帰りだったのかぁ……いろいろと押しつけられちゃってるみたいだねぇ……」

「てか、オレのことより、まずはザックリあんたの種明かしをしてくれ」

「そうだった~。じゃぁまずザックリ、知ろうとすれば一応何だって索れるでしょう? 見ようとすれば何だって見れちゃうんだよね、タイミングさえのがさなければさ」

「ガチにか……」

「慧斗にはまだまだ身近じゃないんだろうけど、何て言うか、そんな技術があって使い易くアプリ化みたくもされててさ、ボクはそれを使ってるカンジなんだ」
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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