010 山中模索でゴリゴリ霧中……
文字数 1,854文字
その飛び去る方向を丁 と睨 め殺さんばかりに追った照壬の目に、ムカつきもうち忘れる光景が飛び込む──草地の一箇所、その一面にびっちり、同じ小虫が群がり集 ってチロチロと赤光りに覆い尽くしていた。
「……ったく、ガチかよ……」
無数の小虫が集っている理由、それはおそらく大量の血液の広がりだと見て取った照壬は、лсДを両手持ちにしてかまえなおす。
死骸がなく、小虫が一箇所にのみ集中していることから、狩り斃した大型の獲物をそこで捌き、血抜きも済ませて運んだ跡だと照壬は推断。
その面積から一滴残らず血を抜いたとも思われ、それは、狩ったモノたちが住処へ戻る道筋に血を滴らせて天敵となる獣を呼び寄せないための配慮、とまで思い至らせた照壬はもう、完全に第二戦闘配備。
この森には、狩りを複数で連係して行い、使い道が多い骨と皮も持ち帰る知性あるモノだけでなく、それを襲って喰らう獣が間違いなくいる。
今現在、そのどちらかに自分が窺狙われているかも知れないと胸が騒いてしまった照壬は、視覚と聴覚の妨げになるフードを剥ぎ下ろしたものの戦戦恐恐、視界が開けて迎撃もし易い草地の中ほどまで首をふりふり三六〇度を警戒しながら速足で移動した。
知性あるモノが弓まで使うとすれば、射掛けられ易くもなってしまうが、その時は照壬が握るлсДのチカラが実証されるいい機会になってくれる上、身を隠した窮屈な体勢で射られても、まず命中などしないという知識も照壬にはあった。
また、絶体絶命の状況に陥ればアレルが、
照壬は特に、集る小虫が歪に描いている楕円形の長軸が通る二方向へ注意をはらう。
一〇メートル以上動いたお蔭で視点も大きく変わり、足跡らしき草地の荒れ具合が見て取れるようになっていたせいだった。
時計回りに辺りを見まわしながら進む照壬が後ろ歩きになった際の位置関係で、右手側から来た蹄をもつ獲物が仕留められ、そして左手側へと小集団が運び去ったことが推察できる。
獣の本能が、この地を右から左へぬける通り道にしていたならば、襲う場合も同様だろう。
また、狩った小集団が後備えを残していたり、背後の警戒を厳にしていれば襲撃は左側からくるに違いないとも照壬は読んで、くるりくるり体ごと向きを変え続ける。
けれども照壬は、スグ横にはっきりと残った足跡が目に留まると、回るのを止めてその傍へ急ぎ、しゃがみ込む──。
それは、踵の凹みが際立った足跡だったが、指もどうにか五本あることが確認できる。
しかし一本一本が骨張ってヤケに長く感じられ、人のモノとは思えない。
人がそもそもこんな場所へ裸足で踏み込む道理がないし、そしてとにかく小さい。踵の幅自体もだが、爪先までどう見ても二〇センチに届かない子供サイズであることが、照壬の身の毛を弥立 たせた。
「ゴブリンって夜目が利くんだったよな……外へ出て来るのは暗くなってからじゃないのか?
てか、この森くらいの薄暗さならイケちまうのかよ? イヌコボは洞窟とかでなければ出交さないはず、明るい内に脱け出さないとな。
弓を引かれる気配もないことから、照壬は周囲を見まわしながらの歩行をやめ、ジョギングで草地を突っきりだす。
とにかくこの森をぬけるか、地面の傾きがわかる所まで行かないことには、ここがそもそも山中なのかさえはっきりしない。
頭上を覆う枝葉がなく広範囲を見渡せる場所であれば、もっといろいろな情報が得られる。
斜面になれば、ひたすら下って谷底へ向かえばいい。 川が流れているに違いなく、その川を当て所にする以外に水を得られて町へも出られる術は、今のところ思いつけない照壬だった。
判断をグラつかせつつも直進することをおし張って来た照壬だが、徐徐に空を塞ぐ大樹が生える間隔が疎らになり昼間らしい明るさをとり戻した一方、やはりだいぶよくなった見晴らしから、目指す谷側ではなく、山頂側へと向かっていた大失態も明らかとなる。
しかも、もう山肌が波うつように切り立った断崖絶壁が待つ行き止まり近くまでつめ寄せてしまっていた。
そこから、峰辺までの峻険な景色をあんぐりと見上げている照壬には、これまでの気を張り続けた道のりが脳裏をよぎりまくり、バカ正直に踵を返すという踏んぎりなど、つけられる道理はあろうはずもない。
「……ったく、ガチかよ……」
無数の小虫が集っている理由、それはおそらく大量の血液の広がりだと見て取った照壬は、лсДを両手持ちにしてかまえなおす。
死骸がなく、小虫が一箇所にのみ集中していることから、狩り斃した大型の獲物をそこで捌き、血抜きも済ませて運んだ跡だと照壬は推断。
その面積から一滴残らず血を抜いたとも思われ、それは、狩ったモノたちが住処へ戻る道筋に血を滴らせて天敵となる獣を呼び寄せないための配慮、とまで思い至らせた照壬はもう、完全に第二戦闘配備。
この森には、狩りを複数で連係して行い、使い道が多い骨と皮も持ち帰る知性あるモノだけでなく、それを襲って喰らう獣が間違いなくいる。
今現在、そのどちらかに自分が窺狙われているかも知れないと胸が騒いてしまった照壬は、視覚と聴覚の妨げになるフードを剥ぎ下ろしたものの戦戦恐恐、視界が開けて迎撃もし易い草地の中ほどまで首をふりふり三六〇度を警戒しながら速足で移動した。
知性あるモノが弓まで使うとすれば、射掛けられ易くもなってしまうが、その時は照壬が握るлсДのチカラが実証されるいい機会になってくれる上、身を隠した窮屈な体勢で射られても、まず命中などしないという知識も照壬にはあった。
また、絶体絶命の状況に陥ればアレルが、
ドッキリ大成功!
宜しく姿を現す可能性も高まると見越しての行動でもある。照壬は特に、集る小虫が歪に描いている楕円形の長軸が通る二方向へ注意をはらう。
一〇メートル以上動いたお蔭で視点も大きく変わり、足跡らしき草地の荒れ具合が見て取れるようになっていたせいだった。
時計回りに辺りを見まわしながら進む照壬が後ろ歩きになった際の位置関係で、右手側から来た蹄をもつ獲物が仕留められ、そして左手側へと小集団が運び去ったことが推察できる。
獣の本能が、この地を右から左へぬける通り道にしていたならば、襲う場合も同様だろう。
また、狩った小集団が後備えを残していたり、背後の警戒を厳にしていれば襲撃は左側からくるに違いないとも照壬は読んで、くるりくるり体ごと向きを変え続ける。
けれども照壬は、スグ横にはっきりと残った足跡が目に留まると、回るのを止めてその傍へ急ぎ、しゃがみ込む──。
それは、踵の凹みが際立った足跡だったが、指もどうにか五本あることが確認できる。
しかし一本一本が骨張ってヤケに長く感じられ、人のモノとは思えない。
人がそもそもこんな場所へ裸足で踏み込む道理がないし、そしてとにかく小さい。踵の幅自体もだが、爪先までどう見ても二〇センチに届かない子供サイズであることが、照壬の身の毛を
「ゴブリンって夜目が利くんだったよな……外へ出て来るのは暗くなってからじゃないのか?
てか、この森くらいの薄暗さならイケちまうのかよ? イヌコボは洞窟とかでなければ出交さないはず、明るい内に脱け出さないとな。
ドッキリ
にしたって絶対にヤバげ、ったくアレルの奴、どんな山でもいいわけじゃない、オレにはここも都会のド真ん中と一緒だぞ……」弓を引かれる気配もないことから、照壬は周囲を見まわしながらの歩行をやめ、ジョギングで草地を突っきりだす。
とにかくこの森をぬけるか、地面の傾きがわかる所まで行かないことには、ここがそもそも山中なのかさえはっきりしない。
頭上を覆う枝葉がなく広範囲を見渡せる場所であれば、もっといろいろな情報が得られる。
斜面になれば、ひたすら下って谷底へ向かえばいい。 川が流れているに違いなく、その川を当て所にする以外に水を得られて町へも出られる術は、今のところ思いつけない照壬だった。
判断をグラつかせつつも直進することをおし張って来た照壬だが、徐徐に空を塞ぐ大樹が生える間隔が疎らになり昼間らしい明るさをとり戻した一方、やはりだいぶよくなった見晴らしから、目指す谷側ではなく、山頂側へと向かっていた大失態も明らかとなる。
しかも、もう山肌が波うつように切り立った断崖絶壁が待つ行き止まり近くまでつめ寄せてしまっていた。
そこから、峰辺までの峻険な景色をあんぐりと見上げている照壬には、これまでの気を張り続けた道のりが脳裏をよぎりまくり、バカ正直に踵を返すという踏んぎりなど、つけられる道理はあろうはずもない。