049 髪˷は˷女˷の˷命˷を˷助˷く
文字数 1,872文字
「へぇへぇ。身嗜 みには、気ぃつけやんすよ精精~」
「下卑た返事も、アタシをバッチンさせたくするから、気をつけて精精っ」
息衝 かしさから照壬は、再びベッドの膨らみ、それもがっちりと隠されて、逆に形が最もはっきり浮き出ている頭の方へ視線を投じた。
「オレも、あんたを、こんな目に遭わせちまった罪滅ぼしだと腹をくくって、不自由も甚だしい生活を耐え忍ぶから、あのウタビィさんにオレが取りつけておく約束と提案で、ガチ、てか真剣に更生することを考えてみてくれ」
「…………」
やはり、ワイヴァーン使いからは何のリアクションもナシ。
「ま、悪縁も縁の内だしな。復讐したいなら、いつでも受けて立ってやるけど、ケツの割れ目が増えるってことだけは覚悟しといてくれよな」
「…………」
ワイヴァーン使いの微動すらする気配も窺えない頑とした無反応に、照壬はとうとう伸しきるように息衝くと、見きりをつける一決を下してしまう果断もする。
「んじゃ行こうヴォロプ、言うことは言った。今日は、これからが働く時間だったウタビィさんを、これ以上待たせちゃマズいし、ここの司祭も村医者と兼務なんで忙しいはずだしな」
「……てかモォッ、何を言えばいいのか思いつけないだけでしょテルミは~」
「ま、な。まだ罵り足りないなら、オレを罵れよ。もうほんの少しヘタこいていたら、この人を過剰防衛で殺しちまってた極ヤバ人なんだからな、オレは」
照壬が左向け左、背中を丸め気味に歩きだすと、今将 ヴォロプも責め問うことには未練ナシと、快然とあとに続いた。
そればかりか、ベッドが並ぶ合間を足早に先廻りもして、ヴォロプはこれまでのムードまで一転させにかかる。
「……ねぇ何なの、そのゴクヤバってぇ? ちゃんと教えてちょうだいよね、都合の好さそうな言葉は、全部なんだから全部~」
「へぇへ──はいはい。何て言うか、極悪人まではいかないけど、限りなく近い奴ってカンジかな? ヤバいは、そもそも都合好すぎる言葉でな、何にでも使えちまって、説明するのが厄介なんだよなぁ……」
「それはヤバいじゃないの。厄介がらずに教えてよ」
「……早くも、使い熟せちまっているけどな」
──診察室もかねた応接室で、司祭相手に、ノキオと意思の疎通ができるようになった自慢話に花を咲かせていたウタビィに声をかけ、宿泊させてもらう部屋まであった行務棟へと戻る途中、唐突にウタビィへ問いかけだすヴォロプだった。
「治療のために、髪を売っちゃったのあのコ?」
「アラ、気がついた? けれど仕方がニャいの、ここの教会もフィンテルンが運営しているから、村民以外は実費負担にニャるのよ当然」
「やっぱりぃ……」
「それでも、メルクシウスの御加護がある分、治りは早まって、安あがりにはニャるんニャけれど」
ワイヴァーン使いが断髪していたなど、全く気色取れなかったことに、ウロがきてしまう照壬も、図らずして思ったまま、ほっかり口をはさんでしまう。
「……それって、ここの神様の名前なんですか?」
「そう。殖産興業の神と言えば聞こえはいいけれど、神話をあれこれと読み合わせれば、トリウネの繁栄のために、飽くなき開拓と殖民を推し進める侵略の神ね。ニャから、悪いことをしてでも稼ぎ出そうとする者にだって、神恩は利くはず。心配は要らニャいわ」
「ガチでかテルミ~? あのコ、アタシに名告ったイヴァン・ワーは絶対偽名に決まってるけど、女子が、あの長かった黒髪をバッサリやっちゃったことよりも、ヤバげな神が気になるなんて、男子として何たるヤバさなのっ」
透かすことなき女子丸出しなヴォロプの噛みつきに、照壬もたちまち「ヤバッ……」と我に返る。
「そうでしょ。激ヤバ、極ヤバ、鬼ヤバの閻魔ヤバも天魔ヤバよっ」
ヴォロプは早却、照壬から教わりたてホヤホヤな、ヤバいの比較変化まで乱用。
「……て言うか、男のオレからしてみれば、髪の毛が売れて羨ましいくらいなんだけどな。それで大ケガがとりあえず治療できるのなら御の字だし、ケツが三つに割れているのに、髪の長さがどうとか言っている場合じゃないだろ?」
「アタシからしてみれば、どっちも、どうにも言い尽しきれない場合なんだけどっ」
「だろうけどさ……でもまぁ、あの徹底した完無視の理由に、女子の羞恥心もあったとわかって、逆に安心できたよな」
「……まぁね。恥を知らない悪人に、改心なんてムリだもの絶対」
自分の言葉で、何かに思いを寄せて頷きながら舌鋒を収めてくれたヴォロプに、照壬はホッと一安堵。
また文句の鋒先が向かぬ内にと、間を置かず会話を再開させる。
「下卑た返事も、アタシをバッチンさせたくするから、気をつけて精精っ」
「オレも、あんたを、こんな目に遭わせちまった罪滅ぼしだと腹をくくって、不自由も甚だしい生活を耐え忍ぶから、あのウタビィさんにオレが取りつけておく約束と提案で、ガチ、てか真剣に更生することを考えてみてくれ」
「…………」
やはり、ワイヴァーン使いからは何のリアクションもナシ。
「ま、悪縁も縁の内だしな。復讐したいなら、いつでも受けて立ってやるけど、ケツの割れ目が増えるってことだけは覚悟しといてくれよな」
「…………」
ワイヴァーン使いの微動すらする気配も窺えない頑とした無反応に、照壬はとうとう伸しきるように息衝くと、見きりをつける一決を下してしまう果断もする。
「んじゃ行こうヴォロプ、言うことは言った。今日は、これからが働く時間だったウタビィさんを、これ以上待たせちゃマズいし、ここの司祭も村医者と兼務なんで忙しいはずだしな」
「……てかモォッ、何を言えばいいのか思いつけないだけでしょテルミは~」
「ま、な。まだ罵り足りないなら、オレを罵れよ。もうほんの少しヘタこいていたら、この人を過剰防衛で殺しちまってた極ヤバ人なんだからな、オレは」
照壬が左向け左、背中を丸め気味に歩きだすと、
そればかりか、ベッドが並ぶ合間を足早に先廻りもして、ヴォロプはこれまでのムードまで一転させにかかる。
「……ねぇ何なの、そのゴクヤバってぇ? ちゃんと教えてちょうだいよね、都合の好さそうな言葉は、全部なんだから全部~」
「へぇへ──はいはい。何て言うか、極悪人まではいかないけど、限りなく近い奴ってカンジかな? ヤバいは、そもそも都合好すぎる言葉でな、何にでも使えちまって、説明するのが厄介なんだよなぁ……」
「それはヤバいじゃないの。厄介がらずに教えてよ」
「……早くも、使い熟せちまっているけどな」
──診察室もかねた応接室で、司祭相手に、ノキオと意思の疎通ができるようになった自慢話に花を咲かせていたウタビィに声をかけ、宿泊させてもらう部屋まであった行務棟へと戻る途中、唐突にウタビィへ問いかけだすヴォロプだった。
「治療のために、髪を売っちゃったのあのコ?」
「アラ、気がついた? けれど仕方がニャいの、ここの教会もフィンテルンが運営しているから、村民以外は実費負担にニャるのよ当然」
「やっぱりぃ……」
「それでも、メルクシウスの御加護がある分、治りは早まって、安あがりにはニャるんニャけれど」
ワイヴァーン使いが断髪していたなど、全く気色取れなかったことに、ウロがきてしまう照壬も、図らずして思ったまま、ほっかり口をはさんでしまう。
「……それって、ここの神様の名前なんですか?」
「そう。殖産興業の神と言えば聞こえはいいけれど、神話をあれこれと読み合わせれば、トリウネの繁栄のために、飽くなき開拓と殖民を推し進める侵略の神ね。ニャから、悪いことをしてでも稼ぎ出そうとする者にだって、神恩は利くはず。心配は要らニャいわ」
「ガチでかテルミ~? あのコ、アタシに名告ったイヴァン・ワーは絶対偽名に決まってるけど、女子が、あの長かった黒髪をバッサリやっちゃったことよりも、ヤバげな神が気になるなんて、男子として何たるヤバさなのっ」
透かすことなき女子丸出しなヴォロプの噛みつきに、照壬もたちまち「ヤバッ……」と我に返る。
「そうでしょ。激ヤバ、極ヤバ、鬼ヤバの閻魔ヤバも天魔ヤバよっ」
ヴォロプは早却、照壬から教わりたてホヤホヤな、ヤバいの比較変化まで乱用。
「……て言うか、男のオレからしてみれば、髪の毛が売れて羨ましいくらいなんだけどな。それで大ケガがとりあえず治療できるのなら御の字だし、ケツが三つに割れているのに、髪の長さがどうとか言っている場合じゃないだろ?」
「アタシからしてみれば、どっちも、どうにも言い尽しきれない場合なんだけどっ」
「だろうけどさ……でもまぁ、あの徹底した完無視の理由に、女子の羞恥心もあったとわかって、逆に安心できたよな」
「……まぁね。恥を知らない悪人に、改心なんてムリだもの絶対」
自分の言葉で、何かに思いを寄せて頷きながら舌鋒を収めてくれたヴォロプに、照壬はホッと一安堵。
また文句の鋒先が向かぬ内にと、間を置かず会話を再開させる。