012 トコロ変われば樹もしゃべるぅ
文字数 1,774文字
その大樹の幹周りは、オトナ三人がかりで腕を広げつないで囲えるかどうかの太さがあり、巨漢サイズがあたりまえなオーガでも充分に隠れられそう。
照壬は利き目で逸早く攻撃対象を捕捉したいがため、ジリリ左側から廻り込んで行く──。
そして、人らしき影を認めると、その頭部、目があるべき高さへとлсДの切っ先を向けつつ晴眼にかまえを整えた。
が! 照壬は自分の目を疑いつつも、ここが真実無妄に自分のいた世界ではないことが決定づけられてしまう。
オーガではなかったものの、鬼のごとき濁り声を響動 もしていたのは、その大樹自体。
それも、幹の下部で灰色の厚い樹皮が罅割れながら盛り上がり、不気味にもほぼ人の形を成しているその苦悶の末にすげみ開いたような口から絞り出されていたモノだった。
照壬は驚愕から身が固まってしまうところを、どうにか一歩下がり動いて念じ返し、лсДも八相にかまえなおすと、その五体が具した自身と同じくらいの人型隆起を今一度凝視から熟視‐精察へ。
「ギギギガ~ッ……ななぜ人素族がこんな所でで、ワワタクシのことを見ているのでしょうかか? ……せ折角なんですからら、た助けたらどうなんですすぅ」
人型隆起の灰色の瞳も照壬を見据えてくる。
なんだか少し困惑している表情まで窺えて、照壬はまた違う驚愕から、体だけでなく思考まで固まりそうになるのを気張りで堪えた。
「……しゃべるとはな。それも丁寧語? ガチかこれマジで?」
「あぁあー、そその年齢で知らないとはは、フフォ~でですねあなた。口があればば、木だってしゃべるのです。そうかですかぁ、ツいてませんねワタクシ……」
罵言を吐かれた上に瞭然とガッカリまでされて、照壬の混乱も急速に沈静化する。
「やっぱ木なのか、人がその木にとり込まれようとしているんじゃなく?」
「ああ、まぁ確かにそう言う野蛮な木もありましたねねぇ。失言してしまいましたた、どうか御容赦を。そしてできたらお助けを、人素族の小僧っコ剣士よ」
「……まぁな。確かにオレは小僧だけどな、オレが生きていた世界じゃ、木は口みたいなウロができたとしても絶対にしゃべりだしたりしなかったんだよな」
「……世界、ですか? ……生まれ育った国や故郷ではなくて?」
「てか、そもそも、この辺に生えているのは初めて見る木ばっかだし、あんたが枯れかけているんだとしても、オレには助け方なんか皆目見当がつかないんだよな」
「……もしや剣士っコ、ディスロケーターですか? 見ればワタクシの知る人素族の服装とは幾分違いますし。それに、そうした助けを求めているわけではありません、樹齢三二七年一六三日を誇りにこそすれども、枯れかけてなどいませんのでワタクシ」
「ディス……って英語か? 何で英語っ、大体どうして日本語が通じているんだ? てか、いきなり助けを求められても応じられるもんか! とにかくこの世界のことをいろいろ教えてくれたら、その上で助けるべきかを判断させてもらう。助けた途端に八つ裂きの目に遭うなんてのは御免だし、今この状況からしてヤバすぎだっての」
「……まあ、これもおそらく神の思し召し。剣士っコが来なければ、ワタクシが動けるようになるまで、もう暫くかかったはずなので。では、ワタクシがまず概括的に話すか、剣士っコの質問に答えていく方がいいか、どちらを御所望でしょう?」
「剣士っコ言うな、オレは照壬だ。剣士なんて大層なモノじゃない、単に身を守るためにこれをかまえているだけで、寸止めとかムリだからな。敵意をカンジたらブッタ斬る、あんたの方が気をつけてくれ」
「……それでは、始めの内はテルミからの質問を答えた方が無難なようです。聞きたいことからお好きにどうぞ。勿論、知らないことには答えられませんし、御覧のとおりワタクシはこんな場所に生えておりますゆえ、テルミの納得がいく回答ができない場合も多いかと思いますけれども」
「ああ、かまわないそれで……ちなみに、あんたの名前は何て言うんだ? あんた呼ばわりを続けて、オレから害意を煽りたくもないからな」
「ワタクシに名前はありません、これまで必要がなかったものですから。こうして自己主張ができる口や声をもったことに気づいたも、今朝方のことですし」
照壬は小首が傾げだすのを踏み堪 え、そのごまかしに周囲を軽く一回視……。
照壬は利き目で逸早く攻撃対象を捕捉したいがため、ジリリ左側から廻り込んで行く──。
そして、人らしき影を認めると、その頭部、目があるべき高さへとлсДの切っ先を向けつつ晴眼にかまえを整えた。
が! 照壬は自分の目を疑いつつも、ここが真実無妄に自分のいた世界ではないことが決定づけられてしまう。
オーガではなかったものの、鬼のごとき濁り声を
それも、幹の下部で灰色の厚い樹皮が罅割れながら盛り上がり、不気味にもほぼ人の形を成しているその苦悶の末にすげみ開いたような口から絞り出されていたモノだった。
照壬は驚愕から身が固まってしまうところを、どうにか一歩下がり動いて念じ返し、лсДも八相にかまえなおすと、その五体が具した自身と同じくらいの人型隆起を今一度凝視から熟視‐精察へ。
「ギギギガ~ッ……ななぜ人素族がこんな所でで、ワワタクシのことを見ているのでしょうかか? ……せ折角なんですからら、た助けたらどうなんですすぅ」
人型隆起の灰色の瞳も照壬を見据えてくる。
なんだか少し困惑している表情まで窺えて、照壬はまた違う驚愕から、体だけでなく思考まで固まりそうになるのを気張りで堪えた。
「……しゃべるとはな。それも丁寧語? ガチかこれマジで?」
「あぁあー、そその年齢で知らないとはは、フフォ~でですねあなた。口があればば、木だってしゃべるのです。そうかですかぁ、ツいてませんねワタクシ……」
罵言を吐かれた上に瞭然とガッカリまでされて、照壬の混乱も急速に沈静化する。
「やっぱ木なのか、人がその木にとり込まれようとしているんじゃなく?」
「ああ、まぁ確かにそう言う野蛮な木もありましたねねぇ。失言してしまいましたた、どうか御容赦を。そしてできたらお助けを、人素族の小僧っコ剣士よ」
「……まぁな。確かにオレは小僧だけどな、オレが生きていた世界じゃ、木は口みたいなウロができたとしても絶対にしゃべりだしたりしなかったんだよな」
「……世界、ですか? ……生まれ育った国や故郷ではなくて?」
「てか、そもそも、この辺に生えているのは初めて見る木ばっかだし、あんたが枯れかけているんだとしても、オレには助け方なんか皆目見当がつかないんだよな」
「……もしや剣士っコ、ディスロケーターですか? 見ればワタクシの知る人素族の服装とは幾分違いますし。それに、そうした助けを求めているわけではありません、樹齢三二七年一六三日を誇りにこそすれども、枯れかけてなどいませんのでワタクシ」
「ディス……って英語か? 何で英語っ、大体どうして日本語が通じているんだ? てか、いきなり助けを求められても応じられるもんか! とにかくこの世界のことをいろいろ教えてくれたら、その上で助けるべきかを判断させてもらう。助けた途端に八つ裂きの目に遭うなんてのは御免だし、今この状況からしてヤバすぎだっての」
「……まあ、これもおそらく神の思し召し。剣士っコが来なければ、ワタクシが動けるようになるまで、もう暫くかかったはずなので。では、ワタクシがまず概括的に話すか、剣士っコの質問に答えていく方がいいか、どちらを御所望でしょう?」
「剣士っコ言うな、オレは照壬だ。剣士なんて大層なモノじゃない、単に身を守るためにこれをかまえているだけで、寸止めとかムリだからな。敵意をカンジたらブッタ斬る、あんたの方が気をつけてくれ」
「……それでは、始めの内はテルミからの質問を答えた方が無難なようです。聞きたいことからお好きにどうぞ。勿論、知らないことには答えられませんし、御覧のとおりワタクシはこんな場所に生えておりますゆえ、テルミの納得がいく回答ができない場合も多いかと思いますけれども」
「ああ、かまわないそれで……ちなみに、あんたの名前は何て言うんだ? あんた呼ばわりを続けて、オレから害意を煽りたくもないからな」
「ワタクシに名前はありません、これまで必要がなかったものですから。こうして自己主張ができる口や声をもったことに気づいたも、今朝方のことですし」
照壬は小首が傾げだすのを踏み