034 異世界人はジャージの肌触りが苦手とか
文字数 1,511文字
「ウ~ン。よくわからないけど、アタシは一七だし、背もテルミより半ウンシアくらい高そうだから、アタシの言うこと聞かなくちゃダメねぇ」
「何だそれ? そっちの言いぐさこそ、全然わからないってのっ」
「まずはちゃんとヴォロプと呼んでよ。それで、出発にはまだかかるわけ? 早く下りないと真っ暗になっちゃう。それともテルミが一っ飛びで、アタシを近くの町まで運んでくれるのかしらぁ」
「飛べるかってのっ……てか、ガチでかよ? 今日もういきなり帰る気とはな」
信じきれてなどいないものの、
固まりきるはずがないノキオから離れる決心も、固めることすら諦めるしかなかった。
しかしながら、準備と言ってもバックパックを軽くするために、明らかになくても大丈夫な衣類を泣く泣く放棄して、休憩場に散らかった荷物から、薄手のブランケットやカップなど数点を選り拾っただけのことなので、物の三〇分で完了。
惜別の思いなど絶無なヴォロプに、一人でとっとと出発されてしまうわ、ノキオにもほぼ急き立ての激励を受けるわで、照壬は差し含む暇 もなく、完全な自棄クソでヴォロプの跡を追い駆けるという無様な旅立ちとなる。
銃弾で崩していない北廻りの道を使って下山するしかないのだが、幸い、西の麓へ通じる尾根道には山頂付近まで登る必要がない。
その近道への入口を示すために打ち立てられた太杭の路標の陰に、ヴォロプの姿を見つけた照壬は、抑えめのランニングからジョギングへと速力を落とすことがようやくできて、大きく呼吸も整えた。
──けれども追い着いた照壬に、ヴォロプは脱いだ服を仕舞い終えニンマリと一喝。
「何で走るの遅くしてるの? アタシを守るのがテルミの役目なんだから、見つけたら逆に急がなくちゃダメじゃない」
「……てか、あんたもオレの案内役なので、一人でズンズン先に行かないでくれませんかっ」
「何よいきなり、その言葉づかいぃ?」
「だって二歳も目上の先輩なので、一応敬語をつかわないと無礼ですから」
「その方がなんだか無礼だわっ、急に年をとったようにカンジちゃう。それにアタシをあんたと呼ぶのもよしてよねぇ、爆発してやるんだから。それともちゃんとヴォロプテュロスと呼びたいわけ?」
「……フェミニストってか、女子にデレつかない男で悪かったなヴォロプお嬢様。てかてか、レインコートはまぁわかるけど、ジャージの下まで脱いじゃったのかよ? そんなんで歩かれると目の毒なんだけどな」
照壬はヴォロプを指差しつつも顔を背けて言い咎める。
「毒って何よぉ。だって暑くなっちゃったんだもの。ジャージの下って言うのも、なんか丈が半端で、脚が変に締めつけられるし、裾を開いたら開いたで歩き難いし」
「そりゃ、あん──ヴォロプお嬢様のお御脚に合うようなジャージなど、オレの世界には御座いませんのでなっ」
ヴォロプに顔を向け戻す照壬だが、決して視線を下げないように意識。
「あぁん? そのお嬢様呼ばわりもよしてよね」
「……てか、オレのいた世界だと、男の方が過敏なまでに対処しないとセクハラ犯って言うゲス野郎の烙印を捺されちまうんでな、現在その対処行動に出ている最中なだけ。歩き易く切っちまうから、頼むからジャージだけは穿いていてくれ」
「全然わかんないけど、いいわけ? まだテルミが使ってなかった物なんでしょ」
だしぬけなまでに至極真っ当なことを言いだすヴォロプから、その端麗すぎる顔立ちへと、ズレていた全てのピントが一斉に合った瞬間を味わったかのような、脳のどこかがシビレてしまう感覚に猛襲される照壬だった。
「何だそれ? そっちの言いぐさこそ、全然わからないってのっ」
「まずはちゃんとヴォロプと呼んでよ。それで、出発にはまだかかるわけ? 早く下りないと真っ暗になっちゃう。それともテルミが一っ飛びで、アタシを近くの町まで運んでくれるのかしらぁ」
「飛べるかってのっ……てか、ガチでかよ? 今日もういきなり帰る気とはな」
信じきれてなどいないものの、
ヴォロプに爆発されては敵わない
! その一念のみで、しぶらこぶらと照壬は山を下りる準備を整え始める。固まりきるはずがないノキオから離れる決心も、固めることすら諦めるしかなかった。
しかしながら、準備と言ってもバックパックを軽くするために、明らかになくても大丈夫な衣類を泣く泣く放棄して、休憩場に散らかった荷物から、薄手のブランケットやカップなど数点を選り拾っただけのことなので、物の三〇分で完了。
惜別の思いなど絶無なヴォロプに、一人でとっとと出発されてしまうわ、ノキオにもほぼ急き立ての激励を受けるわで、照壬は差し含む
銃弾で崩していない北廻りの道を使って下山するしかないのだが、幸い、西の麓へ通じる尾根道には山頂付近まで登る必要がない。
その近道への入口を示すために打ち立てられた太杭の路標の陰に、ヴォロプの姿を見つけた照壬は、抑えめのランニングからジョギングへと速力を落とすことがようやくできて、大きく呼吸も整えた。
──けれども追い着いた照壬に、ヴォロプは脱いだ服を仕舞い終えニンマリと一喝。
「何で走るの遅くしてるの? アタシを守るのがテルミの役目なんだから、見つけたら逆に急がなくちゃダメじゃない」
「……てか、あんたもオレの案内役なので、一人でズンズン先に行かないでくれませんかっ」
「何よいきなり、その言葉づかいぃ?」
「だって二歳も目上の先輩なので、一応敬語をつかわないと無礼ですから」
「その方がなんだか無礼だわっ、急に年をとったようにカンジちゃう。それにアタシをあんたと呼ぶのもよしてよねぇ、爆発してやるんだから。それともちゃんとヴォロプテュロスと呼びたいわけ?」
「……フェミニストってか、女子にデレつかない男で悪かったなヴォロプお嬢様。てかてか、レインコートはまぁわかるけど、ジャージの下まで脱いじゃったのかよ? そんなんで歩かれると目の毒なんだけどな」
照壬はヴォロプを指差しつつも顔を背けて言い咎める。
「毒って何よぉ。だって暑くなっちゃったんだもの。ジャージの下って言うのも、なんか丈が半端で、脚が変に締めつけられるし、裾を開いたら開いたで歩き難いし」
「そりゃ、あん──ヴォロプお嬢様のお御脚に合うようなジャージなど、オレの世界には御座いませんのでなっ」
ヴォロプに顔を向け戻す照壬だが、決して視線を下げないように意識。
「あぁん? そのお嬢様呼ばわりもよしてよね」
「……てか、オレのいた世界だと、男の方が過敏なまでに対処しないとセクハラ犯って言うゲス野郎の烙印を捺されちまうんでな、現在その対処行動に出ている最中なだけ。歩き易く切っちまうから、頼むからジャージだけは穿いていてくれ」
「全然わかんないけど、いいわけ? まだテルミが使ってなかった物なんでしょ」
だしぬけなまでに至極真っ当なことを言いだすヴォロプから、その端麗すぎる顔立ちへと、ズレていた全てのピントが一斉に合った瞬間を味わったかのような、脳のどこかがシビレてしまう感覚に猛襲される照壬だった。