046 やっぱり言葉癖はニャにニャりますニャ
文字数 1,999文字
それと同時に、押し黙ったままの照壬へ浴びせまくられている驚異と好奇の視線から、照壬がディスロケーターであることにも、ウタビィが感づいている気配が濃厚さ増していく。
ヴォロプと照壬は、勧められた大ガラスの嵌った壁から遠い側に置かれたソファーに居並んで、ウタビィがノキオとやり取りを終えるのをとにかく待つしかないものの、「あニャた、ボムバーニャね」と言明されたヴォロプには、畏まっている理由がもはやない。
よってヴォロプは漫然と、興味を惹かれた対象からチェックを入れ出す──。
脚の四本が天井に近い高さまで突き出して、その先それぞれから下がったランプがかなり明るく広い室内を照らす、向かい合わせたソファーの間にあるローテーブル
シンプルなつくりながら、右側と左側に高さの違う書類の山が整然とできているほど広い両袖机。
これまた、頑丈さだけが取り得みたいな、大ガラスの両脇に置かれた天井近くまでの高さがある書類棚。
入って来たドアの脇に据えられた帽子掛け。
さらに、その横の壁に掛けられている額縁の方が価値がありそうな三つ組の抽象絵画──と見まわしたあとは、ただの板張り天井から、背後の一面に引かれていた生成りのカーテンへ、必然的にヴォロプの意識が向かう。
「ねぇテルミ、このコルティナ、壁の代わりにしてるんじゃない?」
「……このって、カーテンか? てか、静かにしとけって……」
「相当な臆病者だこと~。ここまでアタシしか口を開いてないじゃないの。貸しなんだからこれ、忘れずに返してちょうだいよ」
「わかったって……」
「実はこの部屋、もっとずっと広いのに仕切って使っているのかも~?」
ヴォロプはソファーの背に踏ん反り返り、長い腕を伸ばして、カーテンを指で突き揺らしだした。
「たぶんそうだ。オレが自分の部屋にしていた場所も、普段は道場だったから、もっと簡単に布を張り垂らしたり、衝立てで仕切って使っていた。その方が落ち着くし掃除もし易い、だだ広いと掃除した先からホコリが目立って、キリがなくなるんだよな」
「ドウジョーがわからないけど、キリがなくなるからいいわもう」
「……そ?」
「そ。……よく聞こえないけど、ちゃんと説明してくれてるのかしらノキオってば?」
「聞き耳を立てるなよ……でもノキオはやっぱ凄いよな、この建物の南側が蔦 に覆われていたのがラッキーなんだけど、窓辺からノキオと話ができるってわけだからな」
「そうでもないでしょ、アタシとはまだ全然だし。なんかイライラするぅ、きっとラッキーとか、また意味わかんない言葉が聞こえちゃったからだわ~」
「幸運、ツいてるって意味だ。道場は、面倒そうだからまたの機会な。てか、今やすっかりオピじゃなくノキオ呼ばわりしているけど、ロクすっぽ自己紹介もせずに来ちまったから、ヴォロプは枝切れでつながれないじゃないのかな?」
「だって……そんなこと言われても、木なんだもの。テルミだって、ツリーマンじゃないノキオに話しかけたかしら?」
「……そうだな。こんな状況でも、きり返しがスルドいなぁ。ヴォロプならオレの世界でもミス何とかのグランプリに輝いて、天下無敵のやりたい放題、成功三昧人生だろうな……」
「ま~た、イライラさせるぅ」
「てか、英語でもイラ立つことをイラテートって言うんだよな。語源的にこっちでも、イライラが通じるのかな?」
「そんなに爆発させたいのっ?」
が、そこでウタビィがノキオとの話を終えたため、二人はぴんしゃんと居住まいを正す。
窓を閉じてふり返ったウタビィに、どんな気持の変化が起きているのか、表情からは両目周りの黒い毛並みに邪魔をされて、照壬には全く読み取れない。
「一応の事情はわかりました。けれど私では、充分な旅費を一度に用立ててあげることはできニャいわねぇ」
顔を見合わせた二人だが、照壬はウタビィへ向きなおろうとしないため、ヴォロプが返答。
「では、何度かに分ければ用立ててもらえるんですか?」
「エエ。ここでは自分の蓄えでも、纏まった額にニャると、引き出すにはそれニャりの手続きがあるから」
「だと思いました~。ここって、あの質実倹徳で有名らしいフィンテルン家の作業舎でしょ? 入口の紋章に見覚えがあるもの」
「そう? ニャら話が早いわね」
「央都の本拠舎からして、これ見よがしなほど飾り気がなかったし、そこが侮れないとも聞きました。雇兵業で培った兵站術から陸運通商へ発展させて、貴族の地位に就けちゃう財を成したから、人をモネタで縛るのが巧いんだとも」
ヴォロプが、央都滞在中に巡覧し随行の嚮導 人から受けた説明で得た見識を口にすると、ウタビィも枝切れを振る手を止める。
さらに意味ありげに細められたウタビィの目は、ヴォロプがボムバーナというだけでなく、国賓級のあつかいを受けていたレギナ・ルテ・ヴヴであることを、今一度、明明と受け留めなおしているかのよう。
ヴォロプと照壬は、勧められた大ガラスの嵌った壁から遠い側に置かれたソファーに居並んで、ウタビィがノキオとやり取りを終えるのをとにかく待つしかないものの、「あニャた、ボムバーニャね」と言明されたヴォロプには、畏まっている理由がもはやない。
よってヴォロプは漫然と、興味を惹かれた対象からチェックを入れ出す──。
脚の四本が天井に近い高さまで突き出して、その先それぞれから下がったランプがかなり明るく広い室内を照らす、向かい合わせたソファーの間にあるローテーブル
シンプルなつくりながら、右側と左側に高さの違う書類の山が整然とできているほど広い両袖机。
これまた、頑丈さだけが取り得みたいな、大ガラスの両脇に置かれた天井近くまでの高さがある書類棚。
入って来たドアの脇に据えられた帽子掛け。
さらに、その横の壁に掛けられている額縁の方が価値がありそうな三つ組の抽象絵画──と見まわしたあとは、ただの板張り天井から、背後の一面に引かれていた生成りのカーテンへ、必然的にヴォロプの意識が向かう。
「ねぇテルミ、このコルティナ、壁の代わりにしてるんじゃない?」
「……このって、カーテンか? てか、静かにしとけって……」
「相当な臆病者だこと~。ここまでアタシしか口を開いてないじゃないの。貸しなんだからこれ、忘れずに返してちょうだいよ」
「わかったって……」
「実はこの部屋、もっとずっと広いのに仕切って使っているのかも~?」
ヴォロプはソファーの背に踏ん反り返り、長い腕を伸ばして、カーテンを指で突き揺らしだした。
「たぶんそうだ。オレが自分の部屋にしていた場所も、普段は道場だったから、もっと簡単に布を張り垂らしたり、衝立てで仕切って使っていた。その方が落ち着くし掃除もし易い、だだ広いと掃除した先からホコリが目立って、キリがなくなるんだよな」
「ドウジョーがわからないけど、キリがなくなるからいいわもう」
「……そ?」
「そ。……よく聞こえないけど、ちゃんと説明してくれてるのかしらノキオってば?」
「聞き耳を立てるなよ……でもノキオはやっぱ凄いよな、この建物の南側が
「そうでもないでしょ、アタシとはまだ全然だし。なんかイライラするぅ、きっとラッキーとか、また意味わかんない言葉が聞こえちゃったからだわ~」
「幸運、ツいてるって意味だ。道場は、面倒そうだからまたの機会な。てか、今やすっかりオピじゃなくノキオ呼ばわりしているけど、ロクすっぽ自己紹介もせずに来ちまったから、ヴォロプは枝切れでつながれないじゃないのかな?」
「だって……そんなこと言われても、木なんだもの。テルミだって、ツリーマンじゃないノキオに話しかけたかしら?」
「……そうだな。こんな状況でも、きり返しがスルドいなぁ。ヴォロプならオレの世界でもミス何とかのグランプリに輝いて、天下無敵のやりたい放題、成功三昧人生だろうな……」
「ま~た、イライラさせるぅ」
「てか、英語でもイラ立つことをイラテートって言うんだよな。語源的にこっちでも、イライラが通じるのかな?」
「そんなに爆発させたいのっ?」
が、そこでウタビィがノキオとの話を終えたため、二人はぴんしゃんと居住まいを正す。
窓を閉じてふり返ったウタビィに、どんな気持の変化が起きているのか、表情からは両目周りの黒い毛並みに邪魔をされて、照壬には全く読み取れない。
「一応の事情はわかりました。けれど私では、充分な旅費を一度に用立ててあげることはできニャいわねぇ」
顔を見合わせた二人だが、照壬はウタビィへ向きなおろうとしないため、ヴォロプが返答。
「では、何度かに分ければ用立ててもらえるんですか?」
「エエ。ここでは自分の蓄えでも、纏まった額にニャると、引き出すにはそれニャりの手続きがあるから」
「だと思いました~。ここって、あの質実倹徳で有名らしいフィンテルン家の作業舎でしょ? 入口の紋章に見覚えがあるもの」
「そう? ニャら話が早いわね」
「央都の本拠舎からして、これ見よがしなほど飾り気がなかったし、そこが侮れないとも聞きました。雇兵業で培った兵站術から陸運通商へ発展させて、貴族の地位に就けちゃう財を成したから、人をモネタで縛るのが巧いんだとも」
ヴォロプが、央都滞在中に巡覧し随行の
さらに意味ありげに細められたウタビィの目は、ヴォロプがボムバーナというだけでなく、国賓級のあつかいを受けていたレギナ・ルテ・ヴヴであることを、今一度、明明と受け留めなおしているかのよう。