015 世界の異なりを聞きカジり
文字数 1,973文字
「よく御存知でしたね? これまでを鑑 みれば、まさに異客没却という表現が相応しい存在なのです、ディスロケーターは」
「……それって、こっちのセリフなんだけどな……」
「けれども、ここはディアブラリフェイン、冥土でも地獄でもありません。まぁテルミが落ちて来たと言うのはあり得そうです、地中からやって来たのであれば、ワタクシの意識がほかへ向いていようとも感づけるでしょうから」
ノキオは眼だけでなく顎もグググと上げたが、空は自分が茂らせた枝葉越しに散点して見えるだけ。
「でもここにはゴブリンとかいるだろ? 小鬼だって鬼は鬼だ、鬼畜生がいればそこが地獄。好き勝手のやりたい放題にのさばり返って、どこでも地獄にしちまいやがる。直接被害を受けなくたって、そんなのは時間の問題で、まともな人間には生活圏が冥土化したも同然なんだ。もしオレが鬼だったら、ノキオもとっくに地獄を見ているんだぞ」
「なるほど、そうした解釈ですか。落ちて来たテルミにとっては、ここを冥界や地獄と認識せざるを得ないでしょうし」
「……地獄よりはまだマシと思えって? キツそうだけどな生き地獄も……」
ノキオには聞き取られないよう配慮の上、深く長い溜息を吐いてしまう照壬だった。
「ところで、テルミの言うゴブリンとはデヴィルキンのことでしょうか? ゴブリンは人族からの略奪生活が基本なので、この森を含め山深くにはいません。麓の村里や町の近くに巣喰う連中です」
「デヴィルキン? ……それも小鬼なのか、そいつら人も襲うわけ? 結構デカい獲物を仕留める知恵と力量があるカンジだったけど、てか、この森にはどんだけ警戒しなくちゃならない鬼や獣がいるんだよっ?」
照壬は両手でлсДのソードガードへ乗りかかっただけでなく、前後にゆれてウリウリと剣先で地面を穿 る動きを腹癒せのように始める。
「まぁ落ち着いて。デヴィルキンも小型の鬼族ですが、人族から奪うのは道具や方策などで、それも襲ってまでは得ようとしません。ゴブリンとは、ドブネズミとヤマネズミの違いとでも言いましょうか。この山にいる獣も糧としては人族を襲いません。遭遇した場合には、目を逸らして騒がずにいれば立ち去ってくれます」
「……まぁ森自体が豊かっぽいもんな。こっちからヘタに手出しをしなければ威嚇や反撃を喰らうこともないわけか? そりゃゴブリンより遥かに上等だな。ただ、な~んかひっかかるのは、鬼族って? オーガやイヌコボとか、凶暴なのもいるのかやっぱ?」
「オーグはいます。オーガは男鬼のことで、女鬼はオーグリスと言うのですけれども、やはり余計な手出しをしなければ凶暴にはなりません。イヌコボは知りませんけれども、中型鬼のコボルドがいます」
「そうそれ、こっちのはイヌみたいな顔をしていないのか?」
「イヌと言うよりは、ネズミとモグラの合いのコみたいな顔でしょう。視覚が退化した分、嗅覚が発達しているので。洞窟や鉱山跡など、長大な暗がりへ踏み込まなければ襲われる心配はないと思います。忠告させていただきますけれども、
「人犬族って、こっちじゃイヌも人族の一種ってことなのか?」
懸念もなかったことから、лсДをゆらす力が強まって、照壬は前へと一歩つんのめる。
「ええ、よく似た人狼族というオオカミに変身する特別な存在もいますけれども。人族には人犬族のほかに、トラに変身する人虎族を始め、変身をしない人猫族、人牛族、人鯨族、人亀族などがありデウツクランの人口を構成しているのです。勿論テルミと同類の人素族もいて、比率的には最も多く、広く分布もしています」
「へ~、ただの人間は人素族ねぇ、まぁそのとおりだな……ブタは、オークか。トリ人間やウサギ人間とかはいないわけ? クジラやカメはいるのに魚はいないんだ?」
「オークはいますが、
「……進化とくるのか? まぁ、その過程からして大きく違うんだろうけど」
「ワタクシのような植物でも、人族の体を模して動けるようになれるのは、付けた実は食されても本 木自体は糧とならない種類に限られるみたいです」
「てか、オピの木以外にも、ノキオみたく人の形になって動こうとする植物があるわけか……オレがいた世界では、ウシもブタもイノシシも食べていたけどな。あぁ件 や猪八戒ってのがいたよな、てかクレタのラビリントスにいたミノタウロスも件と同類かぁ……」
独り合点する照壬にノキオは戸惑いを表出させた。それも、これまでよりも明らかに人らしく、はっきりと。
「……それって、こっちのセリフなんだけどな……」
「けれども、ここはディアブラリフェイン、冥土でも地獄でもありません。まぁテルミが落ちて来たと言うのはあり得そうです、地中からやって来たのであれば、ワタクシの意識がほかへ向いていようとも感づけるでしょうから」
ノキオは眼だけでなく顎もグググと上げたが、空は自分が茂らせた枝葉越しに散点して見えるだけ。
「でもここにはゴブリンとかいるだろ? 小鬼だって鬼は鬼だ、鬼畜生がいればそこが地獄。好き勝手のやりたい放題にのさばり返って、どこでも地獄にしちまいやがる。直接被害を受けなくたって、そんなのは時間の問題で、まともな人間には生活圏が冥土化したも同然なんだ。もしオレが鬼だったら、ノキオもとっくに地獄を見ているんだぞ」
「なるほど、そうした解釈ですか。落ちて来たテルミにとっては、ここを冥界や地獄と認識せざるを得ないでしょうし」
「……地獄よりはまだマシと思えって? キツそうだけどな生き地獄も……」
ノキオには聞き取られないよう配慮の上、深く長い溜息を吐いてしまう照壬だった。
「ところで、テルミの言うゴブリンとはデヴィルキンのことでしょうか? ゴブリンは人族からの略奪生活が基本なので、この森を含め山深くにはいません。麓の村里や町の近くに巣喰う連中です」
「デヴィルキン? ……それも小鬼なのか、そいつら人も襲うわけ? 結構デカい獲物を仕留める知恵と力量があるカンジだったけど、てか、この森にはどんだけ警戒しなくちゃならない鬼や獣がいるんだよっ?」
照壬は両手でлсДのソードガードへ乗りかかっただけでなく、前後にゆれてウリウリと剣先で地面を
「まぁ落ち着いて。デヴィルキンも小型の鬼族ですが、人族から奪うのは道具や方策などで、それも襲ってまでは得ようとしません。ゴブリンとは、ドブネズミとヤマネズミの違いとでも言いましょうか。この山にいる獣も糧としては人族を襲いません。遭遇した場合には、目を逸らして騒がずにいれば立ち去ってくれます」
「……まぁ森自体が豊かっぽいもんな。こっちからヘタに手出しをしなければ威嚇や反撃を喰らうこともないわけか? そりゃゴブリンより遥かに上等だな。ただ、な~んかひっかかるのは、鬼族って? オーガやイヌコボとか、凶暴なのもいるのかやっぱ?」
「オーグはいます。オーガは男鬼のことで、女鬼はオーグリスと言うのですけれども、やはり余計な手出しをしなければ凶暴にはなりません。イヌコボは知りませんけれども、中型鬼のコボルドがいます」
「そうそれ、こっちのはイヌみたいな顔をしていないのか?」
「イヌと言うよりは、ネズミとモグラの合いのコみたいな顔でしょう。視覚が退化した分、嗅覚が発達しているので。洞窟や鉱山跡など、長大な暗がりへ踏み込まなければ襲われる心配はないと思います。忠告させていただきますけれども、
イヌ
は、人犬族を侮蔑する言葉なので使わないことをお勧めします。噛みつかれてしまいますよ」「人犬族って、こっちじゃイヌも人族の一種ってことなのか?」
懸念もなかったことから、лсДをゆらす力が強まって、照壬は前へと一歩つんのめる。
「ええ、よく似た人狼族というオオカミに変身する特別な存在もいますけれども。人族には人犬族のほかに、トラに変身する人虎族を始め、変身をしない人猫族、人牛族、人鯨族、人亀族などがありデウツクランの人口を構成しているのです。勿論テルミと同類の人素族もいて、比率的には最も多く、広く分布もしています」
「へ~、ただの人間は人素族ねぇ、まぁそのとおりだな……ブタは、オークか。トリ人間やウサギ人間とかはいないわけ? クジラやカメはいるのに魚はいないんだ?」
「オークはいますが、
ブタ
も、牙が生えないなどオークの侮蔑語になります。トリやウサギ、魚類は人族だけでなく、ほぼ全種族が糧とする動物ですし、サメ、タコやイカなどは怪物にもなるので、人族へと進化できなかったと考えられます」「……進化とくるのか? まぁ、その過程からして大きく違うんだろうけど」
「ワタクシのような植物でも、人族の体を模して動けるようになれるのは、付けた実は食されても
「てか、オピの木以外にも、ノキオみたく人の形になって動こうとする植物があるわけか……オレがいた世界では、ウシもブタもイノシシも食べていたけどな。あぁ
独り合点する照壬にノキオは戸惑いを表出させた。それも、これまでよりも明らかに人らしく、はっきりと。