052 ないのなら、斬り出してしまえホトトギス
文字数 1,961文字
「そうだな。泊まらせてもらう部屋、湯は使えても浴びることしかできないもんな。でもどうだろ? とりあえずやってはみる、全力も必死にな」
「じゃぁお願い。文字は必ず教えるから、悪いけど先払いと言うことで。なんだか無性に、髪をしっかり洗っておきたくなったの、どうしてもやっぱり」
「はいは──じゃなく了解っ。まぁ任せろ、オレの底意地が意外にこまやかで巧緻だってことと、この剣の底知れぬチカラを知らしめておくべきだしな」
「なら、ちゃ~んと知らしめてね。ちゃんとできたらアタシのあとに、ちゃんとテルミも湯船に浸かれることになるんだから」
「……いいのか、オレに使わせても? 無論その手のゲスヤバな癖 はないけど、逆に、ゲス深く勘繰りまわされるなんてのは最悪なんだよなっ」
「……無論どころか論外よね、言ってることがこれまでで最悪わからないんだけど~。てか、いいのよ別に、使いたくないならそれで。自分も使うとなれば、少しでも巧くいくんじゃないかと思っただけだし」
「使うっ、使います使わせてくださいオレにも是が非でも。……てか存外、大らかで生き易いメッチャいい世界なのかな、変なところが妙に? まぁヴォロプだからのならではで、ヴォロプだけが気のいい女子ってことも、多分にありそうだけどな」
「また意味がわからないことを~。いいから、とっとと知らしめちゃってよ」
「かしこまりっ。じゃぁ少しばかり時間をくれよ。精神集中と、どう斬るかのイメージを鮮明にする必要があるんで。木剣はソードガード付きまで斬り出せたけど、あんなデカい丸太半分を深く抉 り抜くのは初めてだからな」
答えながら、照壬は丸太半分の許へと向かいだす。
呼吸は全く弾んでも乱れてもいないものの、何度か大きく深呼吸を繰り返しつつ、照壬は背からлсДをかたらかに抜き放いて、足元の丸太半分を凝視──。
真っ二つにされて、やや傾いて晒している長方形の断面には、大きな罅割れが幾つか入っているが、どれも浅く、深深と抉り抜いても割れてしまうことはなさそう。
オマケに、このサイズがあれば、湯船から脚を突き出して伸ばすのではなく、脚だけならば湯に浸けたまま伸ばせるという、これまで以上の贅沢ができるとの目測まで済ます。
その、目見当で長さ一二〇‐半径五〇センチ程度ありそうな丸太半分に、浴槽と言うよりは、持ち運ぶことも考慮してなるべく軽くとの思いから、竹を割った内側をイメージしつつ、意識に確と定着するよう集中する。
そして、上段にかまえたлсДを一振り。
──振り抜き止めた剣尖の一メートルほど先に、丸太の中身がゴロンと落ちて、それをキレイさっぱりと刳 り抜かれた外殻だけが、そのまま照壬の足元に残っていた。
「ンニャ~、凄いじゃニャいテルミ。それともニャッぱり、その剣が神奇霊怪ニャの? 魔力をまるでカンジさせず、大雑把な神力とも違うしっ」
「……まぁ、そうなんでしょうね、ノキオもわからないと言っていましたから。とにかく、これで文句ナシに、湯船に浸かってゆったりできるなっ」
「ホント、ディスロケータ―はとんでもニャいわねぇ」
照壬はлсДを背に収めながら、豆鉄砲を喰らった鳩のようなヒき気味の表情になっているヴォロプへ声をかける。
「てか、オレのマジガチを思い知ったか~? ホントはフードで隠すなんて真っ平御免、燃え盛る溶岩流のごとく差し誇らせたいヴォロプ様の髪を、こいつで思いの限り存分に洗いまくっちゃってくれよ」
「……てか、これで道中、モネタに困ることはガチになさそ。困ったら、大道芸で一稼ぎできちゃいそうだもの」
ヴォロプは照壬の方へと歩きだしたが、お手上げポーズに頭フリフリという呆れ様。
「ガチでか? てか、ヴォロプが客寄せと口上言いをしてくれるなら、吝 かじゃないけどな」
そして、内側だけが浴槽らしく見事にツルリとした風呂桶、と呼ぶのが正しそうな丸太半分を直下にしたヴォロプは、矯 めつ眇 めつのチェックを入れ始めた。
「……いいカンジじゃないの~。じゃぁ感謝して、これはアタシが運ぶわ」
スグ横に立つ照壬には一瞥もくれないものの、そう礼意を述べたヴォロプは、両手でヒョイッと、だいぶ薄くなりはしたが安定性はしっかりある重量がカンジられる風呂桶を、被るかのような軽軽しさで頭上へと持ち上げる。
「って、ガチでか? ……凄いなヴォロプも。断然、健康そうだけど、腕も脚もスパモ級の長細さだってのに、一体どこからそんなパワーが出ちまうのやら……」
照壬が思わず洩らしたその一言で、ヴォロプは漸く、満足げな目笑を湛えた出来 し顔を照壬に向けた。
さらには、近寄って来た時よりも軽快な足どりで、ウタビィが立ち待つ位置まで引き返して行く──。
こんな所で、こんな時に、あらためて照壬は、先が思いやられてきてしまった。
「じゃぁお願い。文字は必ず教えるから、悪いけど先払いと言うことで。なんだか無性に、髪をしっかり洗っておきたくなったの、どうしてもやっぱり」
「はいは──じゃなく了解っ。まぁ任せろ、オレの底意地が意外にこまやかで巧緻だってことと、この剣の底知れぬチカラを知らしめておくべきだしな」
「なら、ちゃ~んと知らしめてね。ちゃんとできたらアタシのあとに、ちゃんとテルミも湯船に浸かれることになるんだから」
「……いいのか、オレに使わせても? 無論その手のゲスヤバな
「……無論どころか論外よね、言ってることがこれまでで最悪わからないんだけど~。てか、いいのよ別に、使いたくないならそれで。自分も使うとなれば、少しでも巧くいくんじゃないかと思っただけだし」
「使うっ、使います使わせてくださいオレにも是が非でも。……てか存外、大らかで生き易いメッチャいい世界なのかな、変なところが妙に? まぁヴォロプだからのならではで、ヴォロプだけが気のいい女子ってことも、多分にありそうだけどな」
「また意味がわからないことを~。いいから、とっとと知らしめちゃってよ」
「かしこまりっ。じゃぁ少しばかり時間をくれよ。精神集中と、どう斬るかのイメージを鮮明にする必要があるんで。木剣はソードガード付きまで斬り出せたけど、あんなデカい丸太半分を深く
答えながら、照壬は丸太半分の許へと向かいだす。
呼吸は全く弾んでも乱れてもいないものの、何度か大きく深呼吸を繰り返しつつ、照壬は背からлсДをかたらかに抜き放いて、足元の丸太半分を凝視──。
真っ二つにされて、やや傾いて晒している長方形の断面には、大きな罅割れが幾つか入っているが、どれも浅く、深深と抉り抜いても割れてしまうことはなさそう。
オマケに、このサイズがあれば、湯船から脚を突き出して伸ばすのではなく、脚だけならば湯に浸けたまま伸ばせるという、これまで以上の贅沢ができるとの目測まで済ます。
その、目見当で長さ一二〇‐半径五〇センチ程度ありそうな丸太半分に、浴槽と言うよりは、持ち運ぶことも考慮してなるべく軽くとの思いから、竹を割った内側をイメージしつつ、意識に確と定着するよう集中する。
そして、上段にかまえたлсДを一振り。
──振り抜き止めた剣尖の一メートルほど先に、丸太の中身がゴロンと落ちて、それをキレイさっぱりと
「ンニャ~、凄いじゃニャいテルミ。それともニャッぱり、その剣が神奇霊怪ニャの? 魔力をまるでカンジさせず、大雑把な神力とも違うしっ」
「……まぁ、そうなんでしょうね、ノキオもわからないと言っていましたから。とにかく、これで文句ナシに、湯船に浸かってゆったりできるなっ」
「ホント、ディスロケータ―はとんでもニャいわねぇ」
照壬はлсДを背に収めながら、豆鉄砲を喰らった鳩のようなヒき気味の表情になっているヴォロプへ声をかける。
「てか、オレのマジガチを思い知ったか~? ホントはフードで隠すなんて真っ平御免、燃え盛る溶岩流のごとく差し誇らせたいヴォロプ様の髪を、こいつで思いの限り存分に洗いまくっちゃってくれよ」
「……てか、これで道中、モネタに困ることはガチになさそ。困ったら、大道芸で一稼ぎできちゃいそうだもの」
ヴォロプは照壬の方へと歩きだしたが、お手上げポーズに頭フリフリという呆れ様。
「ガチでか? てか、ヴォロプが客寄せと口上言いをしてくれるなら、
そして、内側だけが浴槽らしく見事にツルリとした風呂桶、と呼ぶのが正しそうな丸太半分を直下にしたヴォロプは、
「……いいカンジじゃないの~。じゃぁ感謝して、これはアタシが運ぶわ」
スグ横に立つ照壬には一瞥もくれないものの、そう礼意を述べたヴォロプは、両手でヒョイッと、だいぶ薄くなりはしたが安定性はしっかりある重量がカンジられる風呂桶を、被るかのような軽軽しさで頭上へと持ち上げる。
「って、ガチでか? ……凄いなヴォロプも。断然、健康そうだけど、腕も脚もスパモ級の長細さだってのに、一体どこからそんなパワーが出ちまうのやら……」
照壬が思わず洩らしたその一言で、ヴォロプは漸く、満足げな目笑を湛えた
さらには、近寄って来た時よりも軽快な足どりで、ウタビィが立ち待つ位置まで引き返して行く──。
こんな所で、こんな時に、あらためて照壬は、先が思いやられてきてしまった。