062 耀せる豪媛、凹ける凡骨を走らせる
文字数 1,995文字
危難の接近を、嗅覚で回避できる人犬族が二人いる上、変身後には夜目がかなり利くようになる人虎族もいる。
食事をしっかり摂らされていたことが幸いして、今だ要救助者ではあるものの、女子七名は決然と移動に賛成し、善は急げと立ち上がりだす。
照壬も、悠長に彼女たちの出発を見送ってなどいられない。
急いで自分たちの荷物をとりに、今夜泊まろうとしていた樹まで往返し、見送りを終えたヴォロプに文句を言わせぬ即妙さをアピール──。
さほど緊張感もなく歩いて行った七名は、商品として誘拐されただけあって、いずれも美貌の持主と言えそう。
しかし、ウシ女子は、やはり一際体格の良さを始めとするウシらしさが顕著に見られ、トラ女子とイヌ女子においても、言わずもがなの獣面人心であった。
そんな奇異甚だしきリアリティショックと言うか衝撃的現実に、既成概念をズゴンッとブチ破られてしまっている照壬は、この先は、とにかくヴォロプを頼みの綱にする以外に手立てがない。
ここでヘタに口論するようなことになれば、魔人女子解放ミッションに支障が出かねない危惧も先走り、無意識ながら、忠犬じみた行動に駆り立てられていると言える。
「魔族救出の件もノキオに伝えた。やっぱお願いされたから、オレたちも行こう」
「なら先に行ってて、スグ追い着くから」
「……何か忘れたかオレ?」
「チョット、最後のダメ押しをしておこうと思うの。だからテルミは、どの檻の窓からも見られないことだけ気をつけて行ってちょうだい」
「……了解」
ヴォロプが、まだ気を失ったままの悪人たちへどうダメ押すつもりなのかは、興味も湧く照壬だが、疾く疾くと従って草中へと分け入った。
木箱檻が散 け置かれた荷車の周囲を迂回して、牽いて来た轍跡がはっきりと続く堅地へと出た照壬が、様子見にふり返ったその時のこと、木箱檻を揺すり、自分が絶入させた悪党の一人を正気づかせてまで入り猛るヴォロプの怒号が照壬の首まで竦めさせる。
「──てかアタシ、助けてもらったオピのツリーマンに嫁いで一生添い遂げることに決めちゃったからっ。命が惜しいなら罪を償ったあとは二度と悪さをしないことね。あの山に近づなくても、いつでもどこでもアタシたちが行って、何度だって成敗してあげるし、終いにはアタシがドッカ~ンなのっ。わかったぁ?」
言い殴られた悪党が返事をしたかは聞き取れなかったものの、意気揚揚とこちらに向かって歩きだしたヴォロプから、確かな手応えをカンジざるを得ない照壬だった。
そして照壬はヴォロプを待たずに、先を急いで歩速全開で向進開始。
果たしてどこまでヴォロプに追い着かれずに行けるか?
それを一先ずのモチヴェーションにして、そこはかとなく震 ってきてしまう魔族と相対する怖気を、はらい除けるように照壬は足を早めた。
──が、たちまちの内にヴォロプに並ばれ‐ぬかれて、早 定位置となりおおせたと認めるしかないヴォロプの左斜め三歩後ろから、離されないように喰らいついて行くだけで、照壬は必死にならざるを得なくなってしまう。
いつ見苦しい歩行を断念し、ジョギングへときり換えるかの葛藤に意識も奪われ、照壬は地形が変わり始めたことにすら気づけていない状況に陥りだす。
そして、とうとうジョギングに逃逸する観念の臍 が固まったその時、硬い地盤に薄っすらとたまった砂に、バッシュと替えたまだ履き慣れきっていない靴底を滑れらせ、照壬はようやく低草が斑 かしていた土の地面を、既に踏破していたことを心づく。
「……待ってくれヴォロプ。……そろそろ慎重に行かないとだろ? チョットゆっくり歩いた方がいいんじゃないかな……」
「アラァ、だいぶ息が弾んじゃってるけど大丈夫なの~? 長距離タイプってヤツじゃなかったぁ?」
「……鍋とか、塩やペペリまでつめたこの地味に重い荷物がなけりゃなっ……」
照壬はチロと背を向けて、ヴォロプよりも一まわり以上大きな旅嚢を示して抗弁。
「テルミが自分で運ぶって言ったんでしょ。しょうがないわね、アタシが一足先に行って、どんな様子か確認しておくから」
「ダメだそれだけはっ。一足先に行くならオレだ絶対っ。……ヴォロプは距離をしっかりとって、声をかけるだけにしてくれ……あくまでもオレの後ろから、魔族にも、オレにもどう動けばいいのかを……」
「……まったくもう、ここで異議を唱えたら、アタシがテルミを倒しちゃいそぅ~。とにかくフツウに歩くから颯 と息を整えてよねっ」
「……了解……」
照壬は恥も慙愧もかなぐり捨てると、無様なまでの吐き音をたてた深呼吸で、ペースを下げたヴォロプのあとを息合の調整のみの一念で再び追い縋る。
その一念が岩をも徹して天に通じたか、暫く行った所でヴォロプが立ち止まった頃には、照壬の息衝きも充分に治まってくれていた。
「見てよテルミ。なんかアタシたち、物凄い所に来ちゃってるぅ」
食事をしっかり摂らされていたことが幸いして、今だ要救助者ではあるものの、女子七名は決然と移動に賛成し、善は急げと立ち上がりだす。
照壬も、悠長に彼女たちの出発を見送ってなどいられない。
急いで自分たちの荷物をとりに、今夜泊まろうとしていた樹まで往返し、見送りを終えたヴォロプに文句を言わせぬ即妙さをアピール──。
さほど緊張感もなく歩いて行った七名は、商品として誘拐されただけあって、いずれも美貌の持主と言えそう。
しかし、ウシ女子は、やはり一際体格の良さを始めとするウシらしさが顕著に見られ、トラ女子とイヌ女子においても、言わずもがなの獣面人心であった。
そんな奇異甚だしきリアリティショックと言うか衝撃的現実に、既成概念をズゴンッとブチ破られてしまっている照壬は、この先は、とにかくヴォロプを頼みの綱にする以外に手立てがない。
ここでヘタに口論するようなことになれば、魔人女子解放ミッションに支障が出かねない危惧も先走り、無意識ながら、忠犬じみた行動に駆り立てられていると言える。
「魔族救出の件もノキオに伝えた。やっぱお願いされたから、オレたちも行こう」
「なら先に行ってて、スグ追い着くから」
「……何か忘れたかオレ?」
「チョット、最後のダメ押しをしておこうと思うの。だからテルミは、どの檻の窓からも見られないことだけ気をつけて行ってちょうだい」
「……了解」
ヴォロプが、まだ気を失ったままの悪人たちへどうダメ押すつもりなのかは、興味も湧く照壬だが、疾く疾くと従って草中へと分け入った。
木箱檻が
「──てかアタシ、助けてもらったオピのツリーマンに嫁いで一生添い遂げることに決めちゃったからっ。命が惜しいなら罪を償ったあとは二度と悪さをしないことね。あの山に近づなくても、いつでもどこでもアタシたちが行って、何度だって成敗してあげるし、終いにはアタシがドッカ~ンなのっ。わかったぁ?」
言い殴られた悪党が返事をしたかは聞き取れなかったものの、意気揚揚とこちらに向かって歩きだしたヴォロプから、確かな手応えをカンジざるを得ない照壬だった。
そして照壬はヴォロプを待たずに、先を急いで歩速全開で向進開始。
果たしてどこまでヴォロプに追い着かれずに行けるか?
それを一先ずのモチヴェーションにして、そこはかとなく
──が、たちまちの内にヴォロプに並ばれ‐ぬかれて、
いつ見苦しい歩行を断念し、ジョギングへときり換えるかの葛藤に意識も奪われ、照壬は地形が変わり始めたことにすら気づけていない状況に陥りだす。
そして、とうとうジョギングに逃逸する観念の
「……待ってくれヴォロプ。……そろそろ慎重に行かないとだろ? チョットゆっくり歩いた方がいいんじゃないかな……」
「アラァ、だいぶ息が弾んじゃってるけど大丈夫なの~? 長距離タイプってヤツじゃなかったぁ?」
「……鍋とか、塩やペペリまでつめたこの地味に重い荷物がなけりゃなっ……」
照壬はチロと背を向けて、ヴォロプよりも一まわり以上大きな旅嚢を示して抗弁。
「テルミが自分で運ぶって言ったんでしょ。しょうがないわね、アタシが一足先に行って、どんな様子か確認しておくから」
「ダメだそれだけはっ。一足先に行くならオレだ絶対っ。……ヴォロプは距離をしっかりとって、声をかけるだけにしてくれ……あくまでもオレの後ろから、魔族にも、オレにもどう動けばいいのかを……」
「……まったくもう、ここで異議を唱えたら、アタシがテルミを倒しちゃいそぅ~。とにかくフツウに歩くから
「……了解……」
照壬は恥も慙愧もかなぐり捨てると、無様なまでの吐き音をたてた深呼吸で、ペースを下げたヴォロプのあとを息合の調整のみの一念で再び追い縋る。
その一念が岩をも徹して天に通じたか、暫く行った所でヴォロプが立ち止まった頃には、照壬の息衝きも充分に治まってくれていた。
「見てよテルミ。なんかアタシたち、物凄い所に来ちゃってるぅ」