066 意外がお約束の黒幕は黒くない場合も
文字数 1,998文字
「つまりそのエシャな、ヴォロプの誘拐は、計画して具体的な方法も教えたのかも知れないけど、直接的に実行には関わっていないってことだろ?」
「それがどうしたってわけ?」
「奴隷商紛いのこと自体を、自分からやりたいわけじゃなく、生きるために、生かさなくちゃならないあいつらのためにやらせていただけで、ほかの手段で生きていければ、やる必要がなくなるんじゃないかな?」
「……何を言い出しちゃってるの? ほかに生きていく手段がないからやってるんだし、やらせてるんでしょ、それも犯罪をよっ」
「だからな、ほかのサキュバス系がやってる、フツウの生き方を教えてあげればいいんじゃないのかな?」
「フツウ? って……」
「こんな場所で、特定の三人を囲わなくちゃならないから、まずその男たちを生かすために悪事を働かせているってわけだろ。もっと男がたくさんいる大きな町で、少しずつ精気と血をちょうだいすれば充分生きていけるじゃないかよ」
照壬とヴォロプが私見をぶつけ合っている内に、思わぬほか、別段聞き分ける気もなかった話の辻褄が合ってくるエシャだった。
「あんれ? そっちの生いやった小娘は、拐かしに失敗ったボムバーナだったのかい。……なるほどねぇ、坊やもそれで余裕のブチかましってわけかい?」
「って、わけでもないけどな」
「けんど、ワチキを元に戻れないよう爆ぜ燃やすために、そのレギナ・ルテ・ヴヴである身を犠牲にするなんてこたぁ、割が全く合わないだろうに」
「てか、エシャに焦りまくらされたお蔭で、こっちの世事に疎いオレの頭も必死こいて、グルングルンまわってくれていたみたいなんだよな」
「……どうにも妙で困るやねぇ、坊やが並べクサるお題目ってのは」
「要は、前言全撤回だ。オレのこの剣なら、エシャでも斬り斃せるんだよな。それを確信したがゆえの余裕こきで、ヴォロプがボムバーナだからなのは関係ないな全然」
エシャは「シャッシャッ──」と心から嘲けり笑う──「必死こいて思いついたのが、そんなハッタリたぁ、ほんに坊やにゃ敵わないやねぇ」
「てか、ハッタリかませるほど疎い坊やじゃないんだよなオレ。オレがマジガチだってことをわかってもらうためにバラすけど、ディスロケーターなんだオレも」
「坊やがかい? ……それで、おかしなことばかり吐き散らしていたわけたぁねぇ……」
「だから、敵対しないならオレもエシャを助けるって。ここの山奥にいるオピの木と、貴族の管領村で重役に就いてる半魔人の知り合いもいるから、何とかなるはずだきっと」
「よしとくれよ、そんな口任せなんかにノるワチキじゃあないよっ」
エシャのツルテカした顔が蠢動 めいて、その口調を遥かに超えた動揺が走っていることを照壬に読み取らせた。
「どうかな? このヴォロプを助けたオピのツリーマンのことは聞いているだろ。オレもそのノキオの依頼で、ここに残されている魔人も救出に来たわけだし」
言葉だけでなく、照壬は正眼に修正していたかまえも解いて、лсДを右肩に振り担ぐ。
「そんな真似をされようが、坊やじゃ説得力が足りやしないねぇ」
「てか、エシャが隷従している三人は、既にオレたちが倒し済みで、しかるべき所への連行待ち状態なんだよな。だから、エシャはもう新しい生き方をするしかないんだ。オレたちの助けを借りて、もっと愉しく生きるって選択肢も大アリじゃないかな?」
「……どうやらワチキも侮りが足りなかったようだねぇ。まさか、そこまでのハッタリをこきゃぁがるとは、思いも寄らなかったさね」
「ン~、ダメかオレなんかじゃ、やっぱ」
「けんど坊や、いやテルミと言ったっけ、ワチキらがそう容易く人族を信用できる道理もないのさぁ」
エシャはゆ~らり、照壬に向かう一歩を踏み出す。
その足首から下がふるふると形を崩し、着地すると再びふるふる足の形へ整わせ、次の一歩もしっかりと踏み出させる。
「……だろうな。きっとこの世界で歴史的な認識をされちまうほど長い間、連綿と人族から、あたりまえみたく支配を強制され続けてきたんだもんな。一度獲得できた完全な自由に、人なんか関わってもらいたくない気持はわかるってオレも」
「もういいから、やめとくれテルミ。ふん、ボムバーナにオピのツリーマンまでは気伏できる話さぁね。けんど、そこに重ねてディスロケーターとこられちゃあ、ワチキもさすがに別個のムカッ腹が立っちまうよ」
「ン~、目一杯ガチなんだけどなぁ……」
「興も冷めきっちまうよ、いい加減。ほんに人素族は小賢しいったらないね、それも坊やとなりゃとびきりだ。いい機会さね、お次は、テルミ坊やを惑わかして生きるとするよぉ」
エシャはふるふる上半身を揺すり、ヴォロプといい勝負の豊満なバストをプルプルとゆらして見せるが、歩みは止めない。
照壬も、攻撃の間合をとり終えてからは、じりり横へと廻り込みだして、再び正眼のかまえをとった。
「それがどうしたってわけ?」
「奴隷商紛いのこと自体を、自分からやりたいわけじゃなく、生きるために、生かさなくちゃならないあいつらのためにやらせていただけで、ほかの手段で生きていければ、やる必要がなくなるんじゃないかな?」
「……何を言い出しちゃってるの? ほかに生きていく手段がないからやってるんだし、やらせてるんでしょ、それも犯罪をよっ」
「だからな、ほかのサキュバス系がやってる、フツウの生き方を教えてあげればいいんじゃないのかな?」
「フツウ? って……」
「こんな場所で、特定の三人を囲わなくちゃならないから、まずその男たちを生かすために悪事を働かせているってわけだろ。もっと男がたくさんいる大きな町で、少しずつ精気と血をちょうだいすれば充分生きていけるじゃないかよ」
照壬とヴォロプが私見をぶつけ合っている内に、思わぬほか、別段聞き分ける気もなかった話の辻褄が合ってくるエシャだった。
「あんれ? そっちの生いやった小娘は、拐かしに失敗ったボムバーナだったのかい。……なるほどねぇ、坊やもそれで余裕のブチかましってわけかい?」
「って、わけでもないけどな」
「けんど、ワチキを元に戻れないよう爆ぜ燃やすために、そのレギナ・ルテ・ヴヴである身を犠牲にするなんてこたぁ、割が全く合わないだろうに」
「てか、エシャに焦りまくらされたお蔭で、こっちの世事に疎いオレの頭も必死こいて、グルングルンまわってくれていたみたいなんだよな」
「……どうにも妙で困るやねぇ、坊やが並べクサるお題目ってのは」
「要は、前言全撤回だ。オレのこの剣なら、エシャでも斬り斃せるんだよな。それを確信したがゆえの余裕こきで、ヴォロプがボムバーナだからなのは関係ないな全然」
エシャは「シャッシャッ──」と心から嘲けり笑う──「必死こいて思いついたのが、そんなハッタリたぁ、ほんに坊やにゃ敵わないやねぇ」
「てか、ハッタリかませるほど疎い坊やじゃないんだよなオレ。オレがマジガチだってことをわかってもらうためにバラすけど、ディスロケーターなんだオレも」
「坊やがかい? ……それで、おかしなことばかり吐き散らしていたわけたぁねぇ……」
「だから、敵対しないならオレもエシャを助けるって。ここの山奥にいるオピの木と、貴族の管領村で重役に就いてる半魔人の知り合いもいるから、何とかなるはずだきっと」
「よしとくれよ、そんな口任せなんかにノるワチキじゃあないよっ」
エシャのツルテカした顔が
「どうかな? このヴォロプを助けたオピのツリーマンのことは聞いているだろ。オレもそのノキオの依頼で、ここに残されている魔人も救出に来たわけだし」
言葉だけでなく、照壬は正眼に修正していたかまえも解いて、лсДを右肩に振り担ぐ。
「そんな真似をされようが、坊やじゃ説得力が足りやしないねぇ」
「てか、エシャが隷従している三人は、既にオレたちが倒し済みで、しかるべき所への連行待ち状態なんだよな。だから、エシャはもう新しい生き方をするしかないんだ。オレたちの助けを借りて、もっと愉しく生きるって選択肢も大アリじゃないかな?」
「……どうやらワチキも侮りが足りなかったようだねぇ。まさか、そこまでのハッタリをこきゃぁがるとは、思いも寄らなかったさね」
「ン~、ダメかオレなんかじゃ、やっぱ」
「けんど坊や、いやテルミと言ったっけ、ワチキらがそう容易く人族を信用できる道理もないのさぁ」
エシャはゆ~らり、照壬に向かう一歩を踏み出す。
その足首から下がふるふると形を崩し、着地すると再びふるふる足の形へ整わせ、次の一歩もしっかりと踏み出させる。
「……だろうな。きっとこの世界で歴史的な認識をされちまうほど長い間、連綿と人族から、あたりまえみたく支配を強制され続けてきたんだもんな。一度獲得できた完全な自由に、人なんか関わってもらいたくない気持はわかるってオレも」
「もういいから、やめとくれテルミ。ふん、ボムバーナにオピのツリーマンまでは気伏できる話さぁね。けんど、そこに重ねてディスロケーターとこられちゃあ、ワチキもさすがに別個のムカッ腹が立っちまうよ」
「ン~、目一杯ガチなんだけどなぁ……」
「興も冷めきっちまうよ、いい加減。ほんに人素族は小賢しいったらないね、それも坊やとなりゃとびきりだ。いい機会さね、お次は、テルミ坊やを惑わかして生きるとするよぉ」
エシャはふるふる上半身を揺すり、ヴォロプといい勝負の豊満なバストをプルプルとゆらして見せるが、歩みは止めない。
照壬も、攻撃の間合をとり終えてからは、じりり横へと廻り込みだして、再び正眼のかまえをとった。