063 スライムは汎用度かなり高すぎチャン
文字数 1,960文字
ヴォロプと照壬の二人は、ノキオがいる山の西南方向、幾分低く連なったなだらかな山裾まで来ていた。
その一帯は、緩やかな起伏で滑らかと、白っぽい岩盤が広大に露出している楯状地といった地形。
照壬たちの眼前には、山から染み出した水が、左右から楕円を描きながら表面を這うように流れ落ちていく渓流瀑布でも、規模が小さめなナメ瀧をつくり、幻想的なまでの光景を鎮座在 せている。
落ちた流れの行く先は、月明かりでは追いきれないものの、再び合わさって太さを幾分増やし二人の右手方向の野原へと消えていた。
その、流れの楕円の長軸に、ほぼ沿うように大きく深い裂け目まで開いていて、その奥こそが悪党どもの根城だったことは、声に出して確認し合うまでもない。
ヴォロプが、旅嚢とは別に斜めがけしているノータ入れから、眩 れるほどの光を放つカルタードを選んでいる間に、照壬は前へと歩み出る。
それだけなく、左側で弧を描く流れが、足を踏み入れて渡れるモノかどうかもチェックにかかった。
流れは、そこそこ速いが深さなどないに等しく、幅も照壬の四歩程度。
ヴォロプならば小跳ねるだけで、片足首までさえも濡らさずに、二跨ぎで越えられそうとあって、照壬はヴォロプが動きだす前にと、裂け目の周辺から可能ならば奥の様子をも窺っておくべく、直渡ってしまう。
が、渡りきり、数歩進んだ所で照壬はストップ。
旅嚢を背から下しつつ、旅嚢に括り付けている帯剣ベルトからлсДを抜き、中段でも寸秒迷った末に正眼を諦め、星眼にかまえる。
岩盤に縦走った亀裂が、左右にめくれて開いたような闇然とした大口から、異様としか思えないその気配。
ぶらりしゃらりと姿を現したそれは、うねうねと波立つ曇 みた黄緑色の胴体に、蛍光イエローの輝きで反射する双眸をもつことだけが窺知できる。照壬にとっては、完全に得体の知れないモノだった。
「その流れを越えないでいてくれヴォロプ……てか、ありゃ何なんだ一体? どう見ても人じゃないから、魔人女子ではないんだろうけどな」
「……わからないわ、まだ形が変わってるみたいだし。てか、一人で勝手に先走るからでしょっ」
「てか、ならポジション的には、これでいいってことだろ」
「じゃぁアタシに質問しないでよっ。どうやら、見張り番まで残してくれてたってことなんでしょうけど、この流れを越えたら気づけるようにされてたとしか思えないわね」
「……だな。渡った瞬間、なんか空気が変わった気がしたからな。重さってか、質量と言うべきかな? 動くと前に押すような、微かだけど風圧みたいな感触があって、それで奥まで伝播しちまったのかもな……」
どす黄緑のうねうねが、本来の形をとり戻すまで待つ気など毛頭ない照壬は、ヴォロプへそう返しながらлсДに真鍮弾をセット。
しかし、蠢動くようにギョロつかせた両眼の間へ命中させる自信に揺るぎはないが、そのあと貫通した銃弾が裂け目へと飛び込むことは避けたいために、その角度が得られる位置まで右方向へと照壬はダッシュ。
──射線は維持したままなので、充分と見た瞬間に一刹那の遅疑もなく発射した。
相手が人族ではないと言うよりも、人の形と人並みのサイズからハズレてさえいれば、遠慮会釈はとりあえず照壬から消え去ってくれる。
ところが、予感がよぎっていたとおり、銃弾はうねうねを貫通したと言うよりは、素通りして後ろの岩盤を砕破した。
裂け目のほんの一部を歪な円を描いて広げただけで、うねうねは蠢きを止めることもなく、その全体を月下へ晒し続けていた。
照らし出された部分から、蛍光グリーンへと発色させてもいく。
「モングレルなのかも……気をつけてテルミ」
「……だから何なんだそれ? どうせならオレがわかるように言ってくれっ」
「そうねぇ……マンガァルやミッシュリン、ミクストゥムクェでもわからない?」
「わからないっ。初めて聞くな、そんな化け物……」
「ウ~ンとね……近頃では、アタシたちの言葉で
「……ダメだなそれも。全然わからないから、説明の先を聞かせてくれ」
「それだとすれば、奴隷としての歴史が長い魔族と、利用目的に応じたチカラをもつ魔族をかけ合わせて、奴隷商の締盟組織がつくり出してるって噂がある
「……自然に誕生した雑種魔族じゃなく、利用価値を狙って、人工的につくりだしたデザイン魔族ってことかよ? それも、端から奴隷として売るためにか……」
「おそらくそう言うこと。……あれはたぶん、大昔にある種のスライムからつくれちゃって、帰従させ続けてきた代表的な奴隷魔族を使った造化僕なんだと思うけど、そのスライムに何をかけ合わせたのかまでは見当もつかないわっ」
「ガチか~? ……てか、でも今にわかるんじゃないかな?」
その一帯は、緩やかな起伏で滑らかと、白っぽい岩盤が広大に露出している楯状地といった地形。
照壬たちの眼前には、山から染み出した水が、左右から楕円を描きながら表面を這うように流れ落ちていく渓流瀑布でも、規模が小さめなナメ瀧をつくり、幻想的なまでの光景を
落ちた流れの行く先は、月明かりでは追いきれないものの、再び合わさって太さを幾分増やし二人の右手方向の野原へと消えていた。
その、流れの楕円の長軸に、ほぼ沿うように大きく深い裂け目まで開いていて、その奥こそが悪党どもの根城だったことは、声に出して確認し合うまでもない。
ヴォロプが、旅嚢とは別に斜めがけしているノータ入れから、
それだけなく、左側で弧を描く流れが、足を踏み入れて渡れるモノかどうかもチェックにかかった。
流れは、そこそこ速いが深さなどないに等しく、幅も照壬の四歩程度。
ヴォロプならば小跳ねるだけで、片足首までさえも濡らさずに、二跨ぎで越えられそうとあって、照壬はヴォロプが動きだす前にと、裂け目の周辺から可能ならば奥の様子をも窺っておくべく、直渡ってしまう。
が、渡りきり、数歩進んだ所で照壬はストップ。
旅嚢を背から下しつつ、旅嚢に括り付けている帯剣ベルトからлсДを抜き、中段でも寸秒迷った末に正眼を諦め、星眼にかまえる。
岩盤に縦走った亀裂が、左右にめくれて開いたような闇然とした大口から、異様としか思えないその気配。
ぶらりしゃらりと姿を現したそれは、うねうねと波立つ
「その流れを越えないでいてくれヴォロプ……てか、ありゃ何なんだ一体? どう見ても人じゃないから、魔人女子ではないんだろうけどな」
「……わからないわ、まだ形が変わってるみたいだし。てか、一人で勝手に先走るからでしょっ」
「てか、ならポジション的には、これでいいってことだろ」
「じゃぁアタシに質問しないでよっ。どうやら、見張り番まで残してくれてたってことなんでしょうけど、この流れを越えたら気づけるようにされてたとしか思えないわね」
「……だな。渡った瞬間、なんか空気が変わった気がしたからな。重さってか、質量と言うべきかな? 動くと前に押すような、微かだけど風圧みたいな感触があって、それで奥まで伝播しちまったのかもな……」
どす黄緑のうねうねが、本来の形をとり戻すまで待つ気など毛頭ない照壬は、ヴォロプへそう返しながらлсДに真鍮弾をセット。
しかし、蠢動くようにギョロつかせた両眼の間へ命中させる自信に揺るぎはないが、そのあと貫通した銃弾が裂け目へと飛び込むことは避けたいために、その角度が得られる位置まで右方向へと照壬はダッシュ。
──射線は維持したままなので、充分と見た瞬間に一刹那の遅疑もなく発射した。
相手が人族ではないと言うよりも、人の形と人並みのサイズからハズレてさえいれば、遠慮会釈はとりあえず照壬から消え去ってくれる。
ところが、予感がよぎっていたとおり、銃弾はうねうねを貫通したと言うよりは、素通りして後ろの岩盤を砕破した。
裂け目のほんの一部を歪な円を描いて広げただけで、うねうねは蠢きを止めることもなく、その全体を月下へ晒し続けていた。
照らし出された部分から、蛍光グリーンへと発色させてもいく。
「モングレルなのかも……気をつけてテルミ」
「……だから何なんだそれ? どうせならオレがわかるように言ってくれっ」
「そうねぇ……マンガァルやミッシュリン、ミクストゥムクェでもわからない?」
「わからないっ。初めて聞くな、そんな化け物……」
「ウ~ンとね……近頃では、アタシたちの言葉で
造化僕
とも言われるはずぅ」「……ダメだなそれも。全然わからないから、説明の先を聞かせてくれ」
「それだとすれば、奴隷としての歴史が長い魔族と、利用目的に応じたチカラをもつ魔族をかけ合わせて、奴隷商の締盟組織がつくり出してるって噂がある
雑魔
のことなの」「……自然に誕生した雑種魔族じゃなく、利用価値を狙って、人工的につくりだしたデザイン魔族ってことかよ? それも、端から奴隷として売るためにか……」
「おそらくそう言うこと。……あれはたぶん、大昔にある種のスライムからつくれちゃって、帰従させ続けてきた代表的な奴隷魔族を使った造化僕なんだと思うけど、そのスライムに何をかけ合わせたのかまでは見当もつかないわっ」
「ガチか~? ……てか、でも今にわかるんじゃないかな?」