073 鉄牢の匣
文字数 1,639文字
ヴォロプの思わぬ話の軌道修正には、地獄で仏とばかりに照壬も飛びつく。
「そそ、オレも同感っ。とにかく警戒レヴェルを上げとくに越したことはないな……ここから先に延びている三つの通路には、オレ一人で確認しに行く。それでもし、オレがおかしくなったらあとは頼む、ヴォロプのいいように対処しちゃってくれ」
「……わかったけど、ホントにしっかり警戒してよね。テルミがおかしくなってアタシを襲おうとすれば、ムチ打って、ラァピアで突いて、蹴っちゃうんだから、全部思いきりっ」
「了解だ。できれば、その場合も一蹴でケリをつけちゃってもらいたいけどな」
照壬は自身のこめかみと顎先を指差して、自分の追願 を具体的に言い足す。
「……どう言うこと?」
「とりあえずケツじゃなく、ここかここへ回し蹴りを決めてくれ。脳が震盪までされれば、オレからおとなしく昏倒するんで。ヴォロプならできるし、失敗らないとも信じているから」
「……了解なの。てか、回し蹴りって、これでいいんでしょ?」
──ヴォロプはその場でエア回し蹴りを披露。
空手の型などで目にしたモノとは、比較にならないキレとダイナミックさで、届いたその風圧からも圧倒される照壬だった。
「ガチか~……マジガチで警戒しよっと。まだ見も知りもしない魔人より、見せつけられたヴォロプの蹴りの方が、見るからに地獄レヴェルが酷虐そうだもんな」
既に右向け右をして歩き出しながらそう感懐を述べる照壬に、ヴォロプも無言で動き出し、照壬が向かっている通路の奥が見通せる位置へと、立ち至ることで応えた。
そうすることで、ランタンの光が通路の壁面に反射して照壬の行く手にも微明を届ける。
テキトーでも、右利きの心理傾向でもなく、照壬なりに一渡り通察した上で、選らび進んだ通路の一つ、その突き当たりで照壬は緊張感をさらに高めた──というよりも、勝手に高まらざるを得ない。
その右側に広がっていた小部屋サイズの空間に、重厚感凄まじく、これぞ堅牢の具現と衒わしているかのような鉄製の箱檻が鎮座していた。
その扉には、木箱檻にあった鉄格子の入った小窓はなさそう。
箱体の厚みが一〇センチはあることがわかる覗き穴が二つ、三〇センチほどの間隔で縦に並んで開いているだけ。
照壬の目にも、自然に留まるしかない唯一の不審物、通路の突き当たりに立てかけてある手槍の長柄部分のようなアイテムが、その鉄檻の覗き穴から突っ込んで、中の反応を窺う突 き棒だろうということにも想到する。
立方体と思われる鉄箱檻自体の高さが、照壬の口元まであるため、解放済みの人牛族女子が拘禁されていた木箱檻よりも、広い容積が想像できるが、その直径五センチ足らずの穴二つのみでは、さすがに暗すぎだった。
腰を屈めて覗いたくらいでは、全く内部の様子がわからない。
なので照壬はとりあえず、ドームの中ほどからこちらを窺っているヴォロプへと、小手先のジェスチャーで檻の発見を知らせておく。
それからソロリと一歩、小部屋空間に踏み込んで、鉄箱檻へと肉迫してみる腹もくくった。
「……え~っと。助けに来たんだけど、オレの言っていることわかるかな? オレは、ここよりも、ずっと山奥に生えてるオピの木の友達だから、安心してくれていい。その檻から、あんたを出すために近づくけど、かまわないかな?」
けれども「…………」檻の中からは反応ナシ。身動ぐ気配さえも照壬にはカンジ取れない。
「てか、名前はなんて言うのかな? オレは照壬、もう一人、ヴォロプって女子も来ているから、怖がる必要はないからガ──本当に……」
小心翼翼と五歩ばかり近づいて、照壬はようやく気づく。
木箱檻の閂タイプの施錠とは異なり、鉄箱檻の扉周りには何も付いていなかった。
だのに扉は、切れ込みのラインも目立たないくらいに、キッチリかっきりと閉じている。
どこをどうすれば開錠する機構なのかが、まるで考え及ばずに、照壬は、鉄箱檻前面の厚みの中へと思いを潜めることしかできない。
「そそ、オレも同感っ。とにかく警戒レヴェルを上げとくに越したことはないな……ここから先に延びている三つの通路には、オレ一人で確認しに行く。それでもし、オレがおかしくなったらあとは頼む、ヴォロプのいいように対処しちゃってくれ」
「……わかったけど、ホントにしっかり警戒してよね。テルミがおかしくなってアタシを襲おうとすれば、ムチ打って、ラァピアで突いて、蹴っちゃうんだから、全部思いきりっ」
「了解だ。できれば、その場合も一蹴でケリをつけちゃってもらいたいけどな」
照壬は自身のこめかみと顎先を指差して、自分の
「……どう言うこと?」
「とりあえずケツじゃなく、ここかここへ回し蹴りを決めてくれ。脳が震盪までされれば、オレからおとなしく昏倒するんで。ヴォロプならできるし、失敗らないとも信じているから」
「……了解なの。てか、回し蹴りって、これでいいんでしょ?」
──ヴォロプはその場でエア回し蹴りを披露。
空手の型などで目にしたモノとは、比較にならないキレとダイナミックさで、届いたその風圧からも圧倒される照壬だった。
「ガチか~……マジガチで警戒しよっと。まだ見も知りもしない魔人より、見せつけられたヴォロプの蹴りの方が、見るからに地獄レヴェルが酷虐そうだもんな」
既に右向け右をして歩き出しながらそう感懐を述べる照壬に、ヴォロプも無言で動き出し、照壬が向かっている通路の奥が見通せる位置へと、立ち至ることで応えた。
そうすることで、ランタンの光が通路の壁面に反射して照壬の行く手にも微明を届ける。
テキトーでも、右利きの心理傾向でもなく、照壬なりに一渡り通察した上で、選らび進んだ通路の一つ、その突き当たりで照壬は緊張感をさらに高めた──というよりも、勝手に高まらざるを得ない。
その右側に広がっていた小部屋サイズの空間に、重厚感凄まじく、これぞ堅牢の具現と衒わしているかのような鉄製の箱檻が鎮座していた。
その扉には、木箱檻にあった鉄格子の入った小窓はなさそう。
箱体の厚みが一〇センチはあることがわかる覗き穴が二つ、三〇センチほどの間隔で縦に並んで開いているだけ。
照壬の目にも、自然に留まるしかない唯一の不審物、通路の突き当たりに立てかけてある手槍の長柄部分のようなアイテムが、その鉄檻の覗き穴から突っ込んで、中の反応を窺う
立方体と思われる鉄箱檻自体の高さが、照壬の口元まであるため、解放済みの人牛族女子が拘禁されていた木箱檻よりも、広い容積が想像できるが、その直径五センチ足らずの穴二つのみでは、さすがに暗すぎだった。
腰を屈めて覗いたくらいでは、全く内部の様子がわからない。
なので照壬はとりあえず、ドームの中ほどからこちらを窺っているヴォロプへと、小手先のジェスチャーで檻の発見を知らせておく。
それからソロリと一歩、小部屋空間に踏み込んで、鉄箱檻へと肉迫してみる腹もくくった。
「……え~っと。助けに来たんだけど、オレの言っていることわかるかな? オレは、ここよりも、ずっと山奥に生えてるオピの木の友達だから、安心してくれていい。その檻から、あんたを出すために近づくけど、かまわないかな?」
けれども「…………」檻の中からは反応ナシ。身動ぐ気配さえも照壬にはカンジ取れない。
「てか、名前はなんて言うのかな? オレは照壬、もう一人、ヴォロプって女子も来ているから、怖がる必要はないからガ──本当に……」
小心翼翼と五歩ばかり近づいて、照壬はようやく気づく。
木箱檻の閂タイプの施錠とは異なり、鉄箱檻の扉周りには何も付いていなかった。
だのに扉は、切れ込みのラインも目立たないくらいに、キッチリかっきりと閉じている。
どこをどうすれば開錠する機構なのかが、まるで考え及ばずに、照壬は、鉄箱檻前面の厚みの中へと思いを潜めることしかできない。