078 残業のテロルンルン

文字数 1,580文字

 照壬は、倒れ方を、くの字を描いた横向きに変えている魔人幼女へと目をやった。
 
 その、吸魔虫が剥がれた横顔も、角度的によくは見えない。
 しかし、やはり、人素族とは質を異にした透明感のある青白く柔やかな肌に、小学校低学年辺りの幼女と言うよりは、鬼プレミア付きの等身大フィギュアを連感して、どう扱うべきなのかなどは、計り知れなさを覚えてしまう。

「離れてテルミッ、気がついたわその子──」 
 
 ヴォロプの疾呼に、またもビビりあがる照壬だったが、弾かれたような反応スピードで鉄檻から跳ね出て、ヴォロプの横へ並み寄った。

 うならうならと顔を上げ、突いた両手で上半身も起こす魔人幼女は、本当にフィギュアみたいで、小さな唇よりも幾分薄い青紫色の大きな瞳を、瞼を重そうに瞬かせて、ヴォロプから照壬へと交互に向ける。
 それから、自分の目の前にある、照壬が忘却の彼方にして置きっ放しにしていたлсДに視線を落とすと、焦点がしっかり合った途端に、あやめ顔になっていく。

「ヤバッ──」

 反射的に差し出た照壬の右手に、лсДは瞬間移動で消え戻った。
 がしかし、円らかな目を向けている魔人幼女が、それに喫驚し、怖気立ちだしてしまったことは、照壬の目にも明らかだった。

「ガチフォ~なのっ? ホンット、よかったわ褒めとかなくて」

「だぁって、……そりゃ、飛んで来て欲しいとは思ったんだろうけどさぁ、心底から」

 ヴォロプは、照壬に一つ痛烈な呆れ顔での腹癒せをしてから、魔人幼女へ向きなおる。

「大丈夫よ、アタシたちは助けに来たの。悪い奴らはやっつけたし、捕まってた、ほかの人族たちも逃がしたから。もう怖くないわ、不安がらないで」

「……ヴォロプだって、灯具を置きっぱにしてるんだろが。あれがあそこになけれりゃ、怪しまれちまう前に、怪しくないことが説得できたかもじゃないかよ」

「ウルサイわねぇ、そう言うところよ、テルミが小童なのはっ」

「ハン。小童ほど、ムシに興味を示して嫌わないんだぞ。こっちには、進化心理学がないんだろうけどなっ」

「ないわね間違いなく。そんな、言い逃れを正当化するための覈究(かくきゅう)分野なんて~」

 返す言葉がどうにも見つからず、照壬も翻然と、魔人幼女へ機嫌取りに出る。

「オレは照壬って言うんだ。このおネェちゃんの言うとおり、フォーだから、全然怖くないから。特技はお菓子づくりなんで、ここから出たら、甘くて美味しいクレープを焼いてあげよっか? 近くに、キミが好きなフルーツとか生っていないかな?」 

「フォ~! それ、魔人族には禁句だってばっ」

「へっ? ……何が? てか、答えられるわけないな禁句じゃ」

 ヴォロプと照壬が顔を見合わせている間にも、魔人幼女は、目つきから顔つきをガラリと変える。
 全身の体表面から少し離れた空間に、ビチビチッと強烈そうな放電をして、こまかな稲妻を無数に迸らせ始める。

「逃げるのテルミ! この子はワインド、風属性の魔力もちだわっ。一番厄介で強烈な雷撃を使うの、せめて広い所に行かなくちゃ。ここだと狭くて、自分の血で体を煮殺すことになっちゃうわよっ」 

「ガチ? よくわからんけどっ……」

 ヴォロプに従い、照壬も脱兎の勢いで、ドーム広間まで後退した。

 放置した手提げ灯具の明かりはほとんど届かず、周囲が暗くなったために、逃げて来た通路が小刻みに明滅していることで、魔人幼女の放電がよくわかるようにもなる。
 そのチカチカは、恰も、激怒ぶりを訴えているかのよう。

 明滅の揺らぎからも、魔人幼女がモソモソと立ち上がり、二人のあとを追い始めたことまで窺い知れた。

 そのためヴォロプは、月に照らされて満ちる外の明るさが、天井から仄かに射し込む位置へと急ぐ──。

 円い天窓のガラスが透過率を下げている薄明かりの下、ヴォロプは所持するカルタードの全てをとり出し、猛烈な手早さで捲りだす。
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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