076 ムシ嫌いはオトナの証拠さ
文字数 1,972文字
「その心配は要らないわよ。すばしっこく動くけど、自分から口を開けて、触手みたいな長く伸びる口器が、体の奥まで入りきるのを待ってない限りはね~」
「誰が待つもんかよっ。……けど、動きは、やっぱGっぽいのかぁ……」
「その子も、気絶してるか眠ってる間に顔へ押しつけられたのよ……てか、アタシも、あのまま騙され続けてたら、同じ目に遭わされてたに違いないわ。魔力も吸うけど、栄養になるわけじゃないもの……」
黙止したヴォロプが腕組みまでするため、気塞さを覚えてくる照壬は造次顛沛、思い弛んでから思いきり、湧いた疑問をそのまま口に出してしまうことに決めた。
「どした? ……何かヤバいことに気づいちまったのか?」
「やっぱり、テレールのために誘拐されたのかも……その子もアタシも、大混乱させたい国の央都でも枢要へ、虫の息にして置き去りにするだけで、できちゃうもの」
「テロのことかテレールって? そりゃヤバいけど確かに……」
「先に解放した七人とは、取引先が違うのよ絶対っ。この咒縛機檻は、あの天井の穴からじゃないと入らないだろうし。ここまで運ぶのだって、大掛かりな重機とか必要で、費用がかかるはずだもの相当」
「フィンテルンが関与していたら天魔ヤバだろっ。絶対ウタビィさんに迷惑がかかるし、最悪オレたちの敵になるしかなくなっちまう。急いでノキオに報告しないと、早くあの子を助けちまおう。ウタビィさんを信じたいけど、もう既に手をまわされているかもだからな」
「……そうね。ムシはアタシが刺し殺すから、テルミは、その子を起こして支えててよ」
「ぉおっ。……いや、てかそれ、オレの方がムシに近くならないかな……」
「しっかり背中に廻っちゃった方がいいわよ、ムシが弾けていろいろ跳ね飛ばすはずだから。それがかかると、肌が火傷みたく爛れちゃって、なかなか治らないと思うの」
照壬は、そんな地球外生命体に人類が脅かされる映画をようやく思い出し、生唾を呑み下しつつ、気持を新たに引き締めにかかる。
「了解だけど、ヴォロプも充分気をつけてな。……ムシの急所を教えてくれるんなら、オレが斬ってもいいんだし」
「だから、ムシの中身を飛び散らさないためにアタシが刺すのっ。ほかのムシでなら慣れてるから、心配要らないわ」
「そ? ま、そう言うことなら気張るけどさ……」
「もう少し南に行けば、簡単に捕まえられるから、御馳走してあげるわよ。搾り尽くしたそのまま汁で、たんまりとね~」
「……ガチか~。こっちは昆虫食までフツウかよぉ、それもあんなドデカいのをナマでっ? わからんけど、自我やアイデンティティーまでがグラついちまうなもう……」
「御託はいいの、さぁやるわよ。グラグラせず、ちゃんと支えてちょうだいねっ」
ヴォロプのあとについて、地から離れてしまっている感覚がしてならない足を踏み出した照壬だった。
けれども鉄檻の開口部の直前で、ヴォロプから、先に入って魔人幼女を起こしなおすように促されると、照壬は一変して、地にメリ込んだかのように鈍重さが増す足を、檻の中へと入れて行くことになる。
魔人幼女の上体を起しにかかる前に、振り返らないわけにはいかなかった照壬は、明かりの動きから、ランタンが下に置かれたという認識もあって、ヴォロプが、スグ後ろから来ているものと信じていたその姿がないことにも驚愕し、戦慄もしてしまう。
目近になった吸魔虫の形態は、それほど鬼気迫る醜怪さだった。
照壬が、鉄檻の外へ戻ろうとの判断を下す前に、姿を現したヴォロプは、先ほどからの浮かない表情をさらに沈鬱させているように見えてくる。
その理由がどうであれ、照壬は声を出さずにはいられない。
「どしたんだよっ? てか、こんな時に黙って自由行動しないでくれないかなぁ。決められた金額無視でオヤツをもって来るより、厳罰モノの重大違反なんだからなっ」
「てか、さっきテルミが言ってた外側の刻印がフト気になって、チョット見て来ただけじゃないのよぉ」
「そ? まぁフトってのは、大抵この手のタイミングで襲われちまうもんだけどさぁ……」
「あれだけど、この咒縛機檻の製造符号で、いろいろとわかるし、推測もあれこれできちゃうのよねぇ……」
「……で? 何がわかったんだ一体」
「そうね……まぁ、ムシを始末しながら話すわ」
今度は本当に、ヴォロプが腰からラァピアを抜きながら、ぬかぬかとやって来るため、照壬もほとんど自棄クソで、魔人幼女が横たわる頭の先、照壬が入り込むには狭すぎる角スペースへと入り立った。
手放したくはないлсДを手放し、膝を曲げられない前屈動作のキツさに堪えながらも、照壬は、魔人幼女の後ろ首を抱えて一気に起こす。
そのヴィジュアルのグロエグさが、眼前も、目睫の至近となった吸魔虫の方は、ひたすら、無視も完全没却に徹しつつ──。
「誰が待つもんかよっ。……けど、動きは、やっぱGっぽいのかぁ……」
「その子も、気絶してるか眠ってる間に顔へ押しつけられたのよ……てか、アタシも、あのまま騙され続けてたら、同じ目に遭わされてたに違いないわ。魔力も吸うけど、栄養になるわけじゃないもの……」
黙止したヴォロプが腕組みまでするため、気塞さを覚えてくる照壬は造次顛沛、思い弛んでから思いきり、湧いた疑問をそのまま口に出してしまうことに決めた。
「どした? ……何かヤバいことに気づいちまったのか?」
「やっぱり、テレールのために誘拐されたのかも……その子もアタシも、大混乱させたい国の央都でも枢要へ、虫の息にして置き去りにするだけで、できちゃうもの」
「テロのことかテレールって? そりゃヤバいけど確かに……」
「先に解放した七人とは、取引先が違うのよ絶対っ。この咒縛機檻は、あの天井の穴からじゃないと入らないだろうし。ここまで運ぶのだって、大掛かりな重機とか必要で、費用がかかるはずだもの相当」
「フィンテルンが関与していたら天魔ヤバだろっ。絶対ウタビィさんに迷惑がかかるし、最悪オレたちの敵になるしかなくなっちまう。急いでノキオに報告しないと、早くあの子を助けちまおう。ウタビィさんを信じたいけど、もう既に手をまわされているかもだからな」
「……そうね。ムシはアタシが刺し殺すから、テルミは、その子を起こして支えててよ」
「ぉおっ。……いや、てかそれ、オレの方がムシに近くならないかな……」
「しっかり背中に廻っちゃった方がいいわよ、ムシが弾けていろいろ跳ね飛ばすはずだから。それがかかると、肌が火傷みたく爛れちゃって、なかなか治らないと思うの」
照壬は、そんな地球外生命体に人類が脅かされる映画をようやく思い出し、生唾を呑み下しつつ、気持を新たに引き締めにかかる。
「了解だけど、ヴォロプも充分気をつけてな。……ムシの急所を教えてくれるんなら、オレが斬ってもいいんだし」
「だから、ムシの中身を飛び散らさないためにアタシが刺すのっ。ほかのムシでなら慣れてるから、心配要らないわ」
「そ? ま、そう言うことなら気張るけどさ……」
「もう少し南に行けば、簡単に捕まえられるから、御馳走してあげるわよ。搾り尽くしたそのまま汁で、たんまりとね~」
「……ガチか~。こっちは昆虫食までフツウかよぉ、それもあんなドデカいのをナマでっ? わからんけど、自我やアイデンティティーまでがグラついちまうなもう……」
「御託はいいの、さぁやるわよ。グラグラせず、ちゃんと支えてちょうだいねっ」
ヴォロプのあとについて、地から離れてしまっている感覚がしてならない足を踏み出した照壬だった。
けれども鉄檻の開口部の直前で、ヴォロプから、先に入って魔人幼女を起こしなおすように促されると、照壬は一変して、地にメリ込んだかのように鈍重さが増す足を、檻の中へと入れて行くことになる。
魔人幼女の上体を起しにかかる前に、振り返らないわけにはいかなかった照壬は、明かりの動きから、ランタンが下に置かれたという認識もあって、ヴォロプが、スグ後ろから来ているものと信じていたその姿がないことにも驚愕し、戦慄もしてしまう。
目近になった吸魔虫の形態は、それほど鬼気迫る醜怪さだった。
照壬が、鉄檻の外へ戻ろうとの判断を下す前に、姿を現したヴォロプは、先ほどからの浮かない表情をさらに沈鬱させているように見えてくる。
その理由がどうであれ、照壬は声を出さずにはいられない。
「どしたんだよっ? てか、こんな時に黙って自由行動しないでくれないかなぁ。決められた金額無視でオヤツをもって来るより、厳罰モノの重大違反なんだからなっ」
「てか、さっきテルミが言ってた外側の刻印がフト気になって、チョット見て来ただけじゃないのよぉ」
「そ? まぁフトってのは、大抵この手のタイミングで襲われちまうもんだけどさぁ……」
「あれだけど、この咒縛機檻の製造符号で、いろいろとわかるし、推測もあれこれできちゃうのよねぇ……」
「……で? 何がわかったんだ一体」
「そうね……まぁ、ムシを始末しながら話すわ」
今度は本当に、ヴォロプが腰からラァピアを抜きながら、ぬかぬかとやって来るため、照壬もほとんど自棄クソで、魔人幼女が横たわる頭の先、照壬が入り込むには狭すぎる角スペースへと入り立った。
手放したくはないлсДを手放し、膝を曲げられない前屈動作のキツさに堪えながらも、照壬は、魔人幼女の後ろ首を抱えて一気に起こす。
そのヴィジュアルのグロエグさが、眼前も、目睫の至近となった吸魔虫の方は、ひたすら、無視も完全没却に徹しつつ──。