009 パス依存を考慮したスタートでしょうけれど

文字数 1,939文字

 その理由、ヴィジュアルとして脳裏で展開されているлсДによる斬り捨て‐撃ち斃しまくる敵方たちが、人ではなく、紛うことなき異形異類どもであることにほかならない。

 大鉈を握るホブゴブにイヌコボ、短剣のごとき爪を両手の五指にもつオーガ、全身のウロコが鎧と化しているリザードマンに無翼および有翼のドラゴン各種……。
 盾を持ち剣を振るう甲冑姿の敵もいるにはいるようだが、上げたヴァイザーから覗けている顔は、髑髏だったり、毛むくじゃらで目に白眼がなく獣人族に相違なかった。

 ──照壬はлсДをバックパックの手前、小草が生す上へと慎ましやかに置きなおし、その小草から近場の木立へとあらためて視線を注ぐ。

「……ガチで日本じゃ、地球ですらないのかここ?」

 よくよく見た結果、一つとして照壬に名前を断言できる草や木はなかった。
 見れば見るほど葉の形や樹皮に浮き上がる模様をこれまで目にしたことがない、知らない植物に囲い込まれている事実に、照壬の背筋に冷たいモノが走りぬけていく。

「てか、現実なのかこれ?」

 そこでようやく思い出し、マウンテンパーカーをまさぐりだす照壬だが、求め欲したスマホはどこにもなかった。
 進学祝いに腕時計を断って、その分も上位機種をもつことに費やしていたため、これでは時刻すらわからない。

 自分で自分の頬を一張りするお約束を試す前に、腹が憐れな音をあげて、ひもじさがリアルに現実を思い知らせてくれていた。
 軽くした深呼吸で口の中がカラカラなことを自覚し、喉の渇きをも覚えてしまった照壬は、とりあえずバッグパックを開けて中身を探ってみる。

 しかし、アレルは飲み物や食料までは入れておいてくれず、自分がつめた出奔支度ばかりが掘り返されるのみ。
 にもかかわらず、ミニカーを収めた高級チョコの空き缶はなく、代わりのようにあった似たサイズの見知らぬ木箱を照壬はとり出す。

 蓋を開けると、納まっていたのはлсДで撃つための銃弾三種が計一五発、あとの隙間は、アレルがくれたミニカー一台が照壬がクッション材に包んだままの状態で埋めていた。

 それが何を意味するメッセージなのか? 照壬には皆目察しがつかないけれども、とりあえず銃弾を三発、真鍮弾一発と炸裂の仕方が異なる赤と青に塗り分けられた榴弾を一発ずつとって、マウンテンパーカーのポケットに入れておく。

 何はともあれ、ここから移動するしかないと踏んぎりをつけた照壬は、лсДを抜いた確やかに硬く黒光りしている剣帯ベルトを肩から斜め掛けに装着し、その上からバックパックも背負って歩きだす。

 とりあえず太陽の高さから方角を確認するべく、日光が射し込んでいる所へ抜き身のлсДで高草を分け避けながら進んでいると、跳ね逃げる虫たちからもここのヤバさが感取されてしまう。
 どれも日本にはいそうもない、体色が見るからに毒をもつことを見せつけているケバケバしい危険色。
 照壬は注意深くлсДを振って虫を退かしきり、さらには、汁が素肌に付着すれば気触(かぶ)れかねない草の立ち戻りにも用心しつつ歩みを運んだ。

 そしてわずかに覗ける空を見上げた照壬は、訝り交じりの絶望感に襲われることになる。

 目の錯覚ではなく太陽が二つあり、それらが等距離を保ちながらゆっくりと、しかし明らかにロンドでも舞う感じで回っている。
 オマケに、愕然と守り上ぐ照壬の細めた視界を、ツルみたいな長い首を二本もつ怪鳥の群れが、ギェーギェーと騒しく横切っても行く。

「……ガチでどこなんだここ? 現代じゃないどころか、まさか……」 

 考えても答えは出そうにないし、出しても信じる気になれるはずもないと考え及んだ照壬だった。
 ここで暫く蹲り絶望的な懐疑心からの混乱を鎮めたい気持にも駆られるが、毒虫に刺されるのも毒草に気触れるも御免こうむりたい照壬は、マウンテンパーカーのファスナーをきっちり締めてフードも被り、先ほどよりもピッチを上げて歩き出す。

 もっと動いて情報収集をしながら水を確保しなければ、本当の絶望に陥って蹲らざるを得なくなる──。

 額に浮かんだ汗が一筋、頬を伝って顎から滴となって落ちるほど進んだところで、照壬は高草の生え方がまた疎らになり、葉を開いて生える低草が地面を覆う幾分開けた場所に出た。

 次に流れた汗が口に入った塩っぱさで、失念できていた喉の渇きが思い起され、ホッと一息吐くこともままならない。
 加えて、開けた草地に数歩も踏み入ると、赤銅色の金属光沢をチラめかした小虫が飛んで来て、照壬の目の前をウゥンウゥン羽音をぶめかせて(まつ)わりだす。

 それは一見ハエだけれども、毒針で刺さないとも限らないので払うに払えず、離れて行ってくれるまでに、照壬のムカつきを充分に煽り立ててもくれる。
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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