029 飾りじゃないのよ鼻水は HA HAN♪
文字数 1,734文字
そして首尾良く、ふり落とされた御者は──していた予想が完全に的中してくれて、照壬も内心胸を撫で下ろす。
御者が背負っていたのは案のごとくパラシュート。御者も慣れた体捌きで姿勢を整え、絡まることなく物けざやかに開いた。
ところがそのパラシュート、照壬に一頻り目を疑わせたあと憮然とさせる。
開いた形状が昔からあるマッシュルーム形のいわゆる落下傘タイプではなく、照壬にとっても今風な翼形に広がるラムエアータイプと言える物だった。
米軍を始めとする多くの部隊が操作性の良さ、つまり落下速度を緩やかにするだけでなく、滑空して目指すポイントへと着地できることから採用されているのがラムエアータイプ。
照壬もその事実は知っていた。
「ナメちまっていたな……その詫びと反省を込めて、今日を限りに悪行からケツまで洗いたくなるキッツい一撃をお見舞いしてやる。ノキオに火なんか点けやがったのも絶対おまえだっ、その、男顔負けの身ごなしやらチョコザイで周到なカンジ!」
照壬はлсДに残る一発、真鍮弾を装填。
背中を向けてグングン小さく、西の麓へ向けて空中滑走して行く御者が、乗馬用とよく似たライディングパンツとブーツを履いた両脚をちょうど前に突き出した体勢でバランスをとっていることもあり、照壬は情け容赦と言うよりは躊躇‐憚 りなく、御者がラインをくっきりと晒しているヒップトップを抉り掠める射線を思い足らわす!
そうして発射された銃弾が物の見事に御者の右臀部下端を貫いたことは、御者が一瞬身を跳ね躍らせた挙動から、照壬も確信を得る。
──だのに、御者は慌て踠くことなく滑空コースを維持したまま……。
照壬は目で追い続けるのをやめ、歯を噛み締めながら回れ右。
御者が、わずかでも遠退き、一刻も早く地上へ達すべく一心不乱になっているに違いないと見切りをつけるしかなかった。
討てる仇を討ち終えた今、ノキオへの心配が爆燃して、照壬は文字どおり押っとり刀で引き返す。
──しかし、ノキオは仰向けで事切れてしまっていた。
その両腕‐両脚の投げ出し具合で、炎を消すべく最期まで奮闘した様が見て取れるものの、背後から黒い煙が上がっていないことから、既に炎を燃やす生気が完全に尽きたがゆえに消えたにすぎないという、受け入れ難い現実をも照壬へ突きつけてくる。
「ウソだろ、あんなに動き廻っていたのにこんなに早く……てか、ノキオならどうにかする方法くらい知っているんじゃないのかよ!」
照壬はノキオの上体を起そうとするも、意想外に重く、ただ肩を揺するしかなかった。
それでもノキオは微微としか揺れ動いてくれず、ぬけきってしまう前に魂を呼び戻そうという悪足掻きにもなりはしない。
迫りつめてくる絶望感からのがれたい一心で、照壬はスグ向かいにしゃがみ込んでいた赤髪女子へと目を上げる。
「……ムリよ、カルタードに封じ込められてるのは魔力だもの。それより強い魔物のチカラを使わないと消せないし、そんなに都合好くは魔法使いだっていかないわ。オピのツリーマンでも、神木じゃない限りやられちゃう……」
「どう言うことだよ? わけわからねぇ、都合好く何でもできるのが魔法だろっ、何でも知っているのがオピの木で、それが動けるんだから無敵じゃないのかよ!」
「本当なのね? そのオピが言ったあなたがディスロケーターだってこと」
「どうでもいいだろそんなこと……なぜ死んだノキオ! 自由になれて全部がこれからだったのにっ。……こんなにスグまた、オレを独りにしないでくれよぉ、こんなガチ地獄で、どうすりゃいんだマジでオレは……」
「……泣き出さないでよチョット~。ディスロケターのクセしてぇ──」赤髪女子は呆れ仰 け反った反動で前屈みになると、両手を突いた四つん這いで照壬へ近寄る。
「な、何だよ……、 オレを……あやそうってか? ガキじゃあるまいしぃ……」
「そうじゃないけど、死なないでしょ木は、特にオピはそう簡単に。これはただの分身、動けたけど枝が一本折れて枯れたのと同じことだし。そこまで親しくなれたのなら、これからも、このオピの声は聞けるんじゃない?」
両目から幼少期以来の滂沱 、二本洟 まで盛大に垂らしての号泣も、ピタと止む照壬だった。
御者が背負っていたのは案のごとくパラシュート。御者も慣れた体捌きで姿勢を整え、絡まることなく物けざやかに開いた。
ところがそのパラシュート、照壬に一頻り目を疑わせたあと憮然とさせる。
開いた形状が昔からあるマッシュルーム形のいわゆる落下傘タイプではなく、照壬にとっても今風な翼形に広がるラムエアータイプと言える物だった。
米軍を始めとする多くの部隊が操作性の良さ、つまり落下速度を緩やかにするだけでなく、滑空して目指すポイントへと着地できることから採用されているのがラムエアータイプ。
照壬もその事実は知っていた。
「ナメちまっていたな……その詫びと反省を込めて、今日を限りに悪行からケツまで洗いたくなるキッツい一撃をお見舞いしてやる。ノキオに火なんか点けやがったのも絶対おまえだっ、その、男顔負けの身ごなしやらチョコザイで周到なカンジ!」
照壬はлсДに残る一発、真鍮弾を装填。
背中を向けてグングン小さく、西の麓へ向けて空中滑走して行く御者が、乗馬用とよく似たライディングパンツとブーツを履いた両脚をちょうど前に突き出した体勢でバランスをとっていることもあり、照壬は情け容赦と言うよりは躊躇‐
そうして発射された銃弾が物の見事に御者の右臀部下端を貫いたことは、御者が一瞬身を跳ね躍らせた挙動から、照壬も確信を得る。
──だのに、御者は慌て踠くことなく滑空コースを維持したまま……。
照壬は目で追い続けるのをやめ、歯を噛み締めながら回れ右。
御者が、わずかでも遠退き、一刻も早く地上へ達すべく一心不乱になっているに違いないと見切りをつけるしかなかった。
討てる仇を討ち終えた今、ノキオへの心配が爆燃して、照壬は文字どおり押っとり刀で引き返す。
──しかし、ノキオは仰向けで事切れてしまっていた。
その両腕‐両脚の投げ出し具合で、炎を消すべく最期まで奮闘した様が見て取れるものの、背後から黒い煙が上がっていないことから、既に炎を燃やす生気が完全に尽きたがゆえに消えたにすぎないという、受け入れ難い現実をも照壬へ突きつけてくる。
「ウソだろ、あんなに動き廻っていたのにこんなに早く……てか、ノキオならどうにかする方法くらい知っているんじゃないのかよ!」
照壬はノキオの上体を起そうとするも、意想外に重く、ただ肩を揺するしかなかった。
それでもノキオは微微としか揺れ動いてくれず、ぬけきってしまう前に魂を呼び戻そうという悪足掻きにもなりはしない。
迫りつめてくる絶望感からのがれたい一心で、照壬はスグ向かいにしゃがみ込んでいた赤髪女子へと目を上げる。
「……ムリよ、カルタードに封じ込められてるのは魔力だもの。それより強い魔物のチカラを使わないと消せないし、そんなに都合好くは魔法使いだっていかないわ。オピのツリーマンでも、神木じゃない限りやられちゃう……」
「どう言うことだよ? わけわからねぇ、都合好く何でもできるのが魔法だろっ、何でも知っているのがオピの木で、それが動けるんだから無敵じゃないのかよ!」
「本当なのね? そのオピが言ったあなたがディスロケーターだってこと」
「どうでもいいだろそんなこと……なぜ死んだノキオ! 自由になれて全部がこれからだったのにっ。……こんなにスグまた、オレを独りにしないでくれよぉ、こんなガチ地獄で、どうすりゃいんだマジでオレは……」
「……泣き出さないでよチョット~。ディスロケターのクセしてぇ──」赤髪女子は呆れ
「な、何だよ……、 オレを……あやそうってか? ガキじゃあるまいしぃ……」
「そうじゃないけど、死なないでしょ木は、特にオピはそう簡単に。これはただの分身、動けたけど枝が一本折れて枯れたのと同じことだし。そこまで親しくなれたのなら、これからも、このオピの声は聞けるんじゃない?」
両目から幼少期以来の