051 抗カルチャーショック相にすぎません
文字数 1,997文字
「そ。ノキオに伝えておけば、言葉を言い換えて説明してくれるし、近い食材も調味料も教えてくれて、充分かつ存分に情報をやり取りし合える。だから、睡眠不足の心配も無用だな」
「そっ? てか、ガチムカつく~」
「まぁまぁ抑えてくれよ。あの短い関わり合いだけでノキオとつながれちまったら、こっちがガチ激ムカつくし」
「フンッ」
「……で、言の葉ってのは何なんだ? ちゃんと、
「まったくぅ。言の葉は、神木の葉そのままや、材料にしてつくった紙や薄板のことよ。言いたいことや思ったことを記録できるの。テルミも見てるでしょ、食事処の、ミニュタスや壁に貼ってあった案内や注意もそう」
「ぁあ……あれか、メニューとかな」
「何枚も束ねた物は、大きさでノータとかフィレルと呼んで、記録済みの読み物を本、書物とも冊子とも言うの、ちゃんとわかったぁ?」
照壬は、左やや斜め後ろから、尚も非のうち所がないヴォロプの顔へと、瞠目せずにはいられなかった。
「……ノートと、ファイルかなもしかして? けど、何で記録済みだと、急に全くの日本語になるんだ?」
「てか、知らない~。そうなんだからそうなのっ」
「……なんか、神様が教えたっていう言葉の範囲だけじゃなく、それが、いつだったのかも関係しそうだよなぁ?」
「なんか、しつこいわねぇその辺?」
「て言うか、まさか文字がないのかこっちには? それで同じ記録済みの言の葉を見ても、ヴォロプたちにはちゃんとわかって、オレには意味不明な、カタカナやアルファベットが羅列した文字化けっぽく見えちまうとか?」
「言ってる意味がわからない~。それで食事前にミニュタスを見て、一人で騒いでたんでしょうけど、どう言われたって、アタシたちにはそれが当然の常識なんだから、テルミとの見え方の違いなんて理解しようもないでしょ?」
ヴォロプへ向ける照壬の目から驀然 と熱度が落ちていく。「……そ?」
「そ。でも文字はあるわよ、ペンナでだって書くわけだし。まぁ言の葉を使うのがあたりまえだから、記録済みの言の葉に変更を加えたり、書類に承認の署名を入れたりするくらいしか使わないけど」
「そうなのか? なんか、妙なところで、こっちの方が変に進んでいるんだよな」
「
「……悪い。そう聞こえたんなら猛省するし、また言ったら蹴ってくれていいから、存分に思いっきり」
「そ? ならいいわよ~、猛省なんてしなくて逆に」
「……だから、いつでもいいんで、文字も教えてくれないかなヴォロプ? この世界がわかる大きな鍵にもなりそうな気がするんだよな、わからないけどっ」
「……まったく、何を言ってるのかよくわからないのよねっ。まぁヒマで仕方がない時に、気が向いたら教えてあげてもいいんだけど~」
「おぅ、よろしくなっヴォロプセンセ」
「……それ、先生のことならやめてよね。そこまでアタシ、テルミの先なんか生きてないぃ」
「はいはい。通じても、ビミョ~にニュアンスが違うからまいるんだよなぁ。どうであれ、教えてくれた分は、何でも言うこと聞いちゃいまっせヴォロプの姐御 。先刻、宣告済みのはずだけど、オレが許容できる範囲なら、否 とも諾 とも否否 ながら否と言うほどなっ」
このニュアンスは通じるかと、ナニワ商人よろしく照壬は揉み手のチャラケで返す。
「だから下卑た言葉づかいはやめってて、アタシも先刻、宣告済みでしょっ。返事も繰り返さないの、断固絶対、完全厳禁っ」
「否応ナシだもんなぁ、まいるなホント……」
口を尖らせてそっぽを向く照壬につられ、視線をそちらへ投じつつ前へ戻していたヴォロプだが、その目を惹かれる物があって足を止める。
それで照壬も、ややつんのめり気味に立ち止まった。
「待ってウタビィ、チョットいいかしら?」
「ニャァに?」ウタビィは小気味好く回れ右をして歩みを止める。
「あそこに転がってる丸太を半分にしたの、もう要らない物なら使ってもいい?」
六つの月明かりが朧げに照らしているため、視界内には充分入ってはいるものの、ウタビィはランタンを向けて如才なく確認──。
「……かまわニャいわよ。もう半分をどうしたのかは知らニャいけれど、随分前から、ああして打ち捨ててあるはずニャから」
「では感謝して、いただいちゃいます」
ヴォロプは浮かべた頬笑みを、照壬へも向ける──。
「え? 何、いきなりまた……」
「ねぇテルミ、あれを、その自慢の剣で浴槽になんて斬れちゃったりするの? 山を下りてる間に吹かしてた話が、法螺 じゃないことをガチで見せてちょうだいな」
照壬も、縦半分に切られ草の中に転がる太い丸太に目をやって、確かにバスタブにちょうどいいサイズであろうことを同感する。
「そっ? てか、ガチムカつく~」
「まぁまぁ抑えてくれよ。あの短い関わり合いだけでノキオとつながれちまったら、こっちがガチ激ムカつくし」
「フンッ」
「……で、言の葉ってのは何なんだ? ちゃんと、
ヤバい
を解説してあげたんだから、ヴォロプもちゃんと教えてくれよな」「まったくぅ。言の葉は、神木の葉そのままや、材料にしてつくった紙や薄板のことよ。言いたいことや思ったことを記録できるの。テルミも見てるでしょ、食事処の、ミニュタスや壁に貼ってあった案内や注意もそう」
「ぁあ……あれか、メニューとかな」
「何枚も束ねた物は、大きさでノータとかフィレルと呼んで、記録済みの読み物を本、書物とも冊子とも言うの、ちゃんとわかったぁ?」
照壬は、左やや斜め後ろから、尚も非のうち所がないヴォロプの顔へと、瞠目せずにはいられなかった。
「……ノートと、ファイルかなもしかして? けど、何で記録済みだと、急に全くの日本語になるんだ?」
「てか、知らない~。そうなんだからそうなのっ」
「……なんか、神様が教えたっていう言葉の範囲だけじゃなく、それが、いつだったのかも関係しそうだよなぁ?」
「なんか、しつこいわねぇその辺?」
「て言うか、まさか文字がないのかこっちには? それで同じ記録済みの言の葉を見ても、ヴォロプたちにはちゃんとわかって、オレには意味不明な、カタカナやアルファベットが羅列した文字化けっぽく見えちまうとか?」
「言ってる意味がわからない~。それで食事前にミニュタスを見て、一人で騒いでたんでしょうけど、どう言われたって、アタシたちにはそれが当然の常識なんだから、テルミとの見え方の違いなんて理解しようもないでしょ?」
ヴォロプへ向ける照壬の目から
「そ。でも文字はあるわよ、ペンナでだって書くわけだし。まぁ言の葉を使うのがあたりまえだから、記録済みの言の葉に変更を加えたり、書類に承認の署名を入れたりするくらいしか使わないけど」
「そうなのか? なんか、妙なところで、こっちの方が変に進んでいるんだよな」
「
変
って何よぉ? 自分の世界との違いを、チョクチョクそうして見下すカンジで物言いするから、ディスロケーターは疎まれるんじゃないのっ?」「……悪い。そう聞こえたんなら猛省するし、また言ったら蹴ってくれていいから、存分に思いっきり」
「そ? ならいいわよ~、猛省なんてしなくて逆に」
「……だから、いつでもいいんで、文字も教えてくれないかなヴォロプ? この世界がわかる大きな鍵にもなりそうな気がするんだよな、わからないけどっ」
「……まったく、何を言ってるのかよくわからないのよねっ。まぁヒマで仕方がない時に、気が向いたら教えてあげてもいいんだけど~」
「おぅ、よろしくなっヴォロプセンセ」
「……それ、先生のことならやめてよね。そこまでアタシ、テルミの先なんか生きてないぃ」
「はいはい。通じても、ビミョ~にニュアンスが違うからまいるんだよなぁ。どうであれ、教えてくれた分は、何でも言うこと聞いちゃいまっせヴォロプの
このニュアンスは通じるかと、ナニワ商人よろしく照壬は揉み手のチャラケで返す。
「だから下卑た言葉づかいはやめってて、アタシも先刻、宣告済みでしょっ。返事も繰り返さないの、断固絶対、完全厳禁っ」
「否応ナシだもんなぁ、まいるなホント……」
口を尖らせてそっぽを向く照壬につられ、視線をそちらへ投じつつ前へ戻していたヴォロプだが、その目を惹かれる物があって足を止める。
それで照壬も、ややつんのめり気味に立ち止まった。
「待ってウタビィ、チョットいいかしら?」
「ニャァに?」ウタビィは小気味好く回れ右をして歩みを止める。
「あそこに転がってる丸太を半分にしたの、もう要らない物なら使ってもいい?」
六つの月明かりが朧げに照らしているため、視界内には充分入ってはいるものの、ウタビィはランタンを向けて如才なく確認──。
「……かまわニャいわよ。もう半分をどうしたのかは知らニャいけれど、随分前から、ああして打ち捨ててあるはずニャから」
「では感謝して、いただいちゃいます」
ヴォロプは浮かべた頬笑みを、照壬へも向ける──。
「え? 何、いきなりまた……」
「ねぇテルミ、あれを、その自慢の剣で浴槽になんて斬れちゃったりするの? 山を下りてる間に吹かしてた話が、
照壬も、縦半分に切られ草の中に転がる太い丸太に目をやって、確かにバスタブにちょうどいいサイズであろうことを同感する。