036 三途の川さえ渡し銭が要ると言うのに
文字数 1,421文字
「……それって、小銅貨七、八枚の物しか買い続けられないってことなんじゃない?」
「そうなんだ? ふ~ん……」
「大体、五枚じゃなく五発ってどう言うこと? フツウに使うんじゃなくて、投げつけるとか打ち飛ばすとかしちゃうような──ア~ッ、さっき聞こえたあの凄い
手にしているジャージを大きくはためかして説くヴェロプの思い当てには、照壬も綻ばせかけた口元を、引き締めにかからねばならなかった。
「……そうかも。結構スルドくもあるんだなあんた、ガチに存外」
「テ~ル~ミ~、そんなにアタシを爆発させたいわけっ?」
「ゴメンッ、あんた呼ばわりはたぶん口癖なんだ、通っていたガッコで、おまえ呼ばわりが禁止だった反動で。勘弁してもらえないかな、旅費の方はきっと心配しないで済むと思うし」
「どうしてよ?」
「まず向かうイェタータスの村には、ノキオがよく知る人猫族がいるんだと。そのウタビィって名前の婆さんを頼れば、ヴェロプの故郷までのモネタは工面できるかもだから」
「フ~ン、そう? なら、とりあえずは安心ねっ」
心から一安堵した表情を見せてジャージを穿き始めたヴォロプに、照壬はまた視線を谷側に広がる韶景へと逸らしながら、疑念も萌え出してきてしまう。
「……ン~。スルドい反面、ヤケに楽観的なんだな? ノキオがそう言っただけでしかないことを、スグに信じちまって」
「信じるわよ、だってオピが言ったことなんでしょ? それならテルミは、どうして自信ありげにアタシへ言ったわけぇ?」
「それは、やっぱノキオがそう言ったからだけどな……てか、ならオレのことまでも信用してくれているのかよ、ヴォロプはあっさり?」
「別に信用も何もないわ、だってアタシの素性を知ってて一緒に来ちゃってる大フォ~でしょテルミは。大体、自分から一言バラせば怖いモノなんてないものア、タ、シ」
「なるほどな……まぁオレなんか期待せず、鬱憤だけはためないよう好きにやってくれ。オレは精精、不躾なヤカラどもが迂闊にヴォロプへ近づいて来ないよう努めるだけだ」
「何て言いぐさかしら? まっ精精努めて~」
「あぁ……」
「モォ~、アタシの調子までおかしくなりそうなのも、お互い様の内なわけ?」
「……だと、助かるな」
「まったくぅ。さぁさ行きましょ、人猫族の世話になるなら、アルグヴィネアの実をお土産にしちゃうのが一番だわ。なんとなく鼻がスーッとカンジたら、近くに生えてるはずだから忘れないようにねっ」
「……それ、こっちのマタタビかな? てかジャージ、ガチに切らなくていいのか?」
ヴォロプはバックパックを振り回すようにして掻い負うと、また先に立って広いストライドで歩きだし、口調も軽やかに前を向いたまま照壬へ言い放つ。
「いいのっ、大切な物だもん。切ったりしたらマチアリスの天罰が下っちゃう……それって、アタシの国の闘神なんだけど、悪いコにお仕置きもするの」
「そ? ……ロマリアに入ったら、オレも気をつけなくちゃな」
大爆発で国を滅亡させるという奇っ怪至極な超弩級美女子にしては、ヴォロプが本当に存外まともで好い気性なのかも知れないと、照壬も心からの一安堵を禁じ得ない。
照壬は、こちらで薄ケットーと呼ばれる薄地の毛織物を風呂敷代わりにした荷物の結び合わせ部分に首を突っ込み、赤ちゃんを抱えるように安定させると、ヴォロプの後備えに徹する腹をくくって歩きだす。
「そうなんだ? ふ~ん……」
「大体、五枚じゃなく五発ってどう言うこと? フツウに使うんじゃなくて、投げつけるとか打ち飛ばすとかしちゃうような──ア~ッ、さっき聞こえたあの凄い
ガガーン
とかパ~ン
とかさせないと、元の数に戻らないんじゃないのっ?」手にしているジャージを大きくはためかして説くヴェロプの思い当てには、照壬も綻ばせかけた口元を、引き締めにかからねばならなかった。
「……そうかも。結構スルドくもあるんだなあんた、ガチに存外」
「テ~ル~ミ~、そんなにアタシを爆発させたいわけっ?」
「ゴメンッ、あんた呼ばわりはたぶん口癖なんだ、通っていたガッコで、おまえ呼ばわりが禁止だった反動で。勘弁してもらえないかな、旅費の方はきっと心配しないで済むと思うし」
「どうしてよ?」
「まず向かうイェタータスの村には、ノキオがよく知る人猫族がいるんだと。そのウタビィって名前の婆さんを頼れば、ヴェロプの故郷までのモネタは工面できるかもだから」
「フ~ン、そう? なら、とりあえずは安心ねっ」
心から一安堵した表情を見せてジャージを穿き始めたヴォロプに、照壬はまた視線を谷側に広がる韶景へと逸らしながら、疑念も萌え出してきてしまう。
「……ン~。スルドい反面、ヤケに楽観的なんだな? ノキオがそう言っただけでしかないことを、スグに信じちまって」
「信じるわよ、だってオピが言ったことなんでしょ? それならテルミは、どうして自信ありげにアタシへ言ったわけぇ?」
「それは、やっぱノキオがそう言ったからだけどな……てか、ならオレのことまでも信用してくれているのかよ、ヴォロプはあっさり?」
「別に信用も何もないわ、だってアタシの素性を知ってて一緒に来ちゃってる大フォ~でしょテルミは。大体、自分から一言バラせば怖いモノなんてないものア、タ、シ」
「なるほどな……まぁオレなんか期待せず、鬱憤だけはためないよう好きにやってくれ。オレは精精、不躾なヤカラどもが迂闊にヴォロプへ近づいて来ないよう努めるだけだ」
「何て言いぐさかしら? まっ精精努めて~」
「あぁ……」
「モォ~、アタシの調子までおかしくなりそうなのも、お互い様の内なわけ?」
「……だと、助かるな」
「まったくぅ。さぁさ行きましょ、人猫族の世話になるなら、アルグヴィネアの実をお土産にしちゃうのが一番だわ。なんとなく鼻がスーッとカンジたら、近くに生えてるはずだから忘れないようにねっ」
「……それ、こっちのマタタビかな? てかジャージ、ガチに切らなくていいのか?」
ヴォロプはバックパックを振り回すようにして掻い負うと、また先に立って広いストライドで歩きだし、口調も軽やかに前を向いたまま照壬へ言い放つ。
「いいのっ、大切な物だもん。切ったりしたらマチアリスの天罰が下っちゃう……それって、アタシの国の闘神なんだけど、悪いコにお仕置きもするの」
「そ? ……ロマリアに入ったら、オレも気をつけなくちゃな」
大爆発で国を滅亡させるという奇っ怪至極な超弩級美女子にしては、ヴォロプが本当に存外まともで好い気性なのかも知れないと、照壬も心からの一安堵を禁じ得ない。
照壬は、こちらで薄ケットーと呼ばれる薄地の毛織物を風呂敷代わりにした荷物の結び合わせ部分に首を突っ込み、赤ちゃんを抱えるように安定させると、ヴォロプの後備えに徹する腹をくくって歩きだす。