077 ネガティヴ・ケイパビリティ―不足で
文字数 1,657文字
「これでいいかな? 体勢的に厳しいんで早めに、話の方も端的にお願いな」
照壬は、眼下の吸魔虫から気を紛らすためにも、ヴォロプへ話しかけずにはいられない。
「ウン、そんなカンジでしょ……でね、あの符号だけど、たぶん、この咒縛機檻が、オシュウェンシム向けに造られたことを表してるの」
「って、それ……じゃぁ、この国の一貴族だってのに、ほかの国相手に早ばやと、最新式の鬼ヤバ製品だろうが売っちまうってのか?」
「そうなるけど。……その辺も、テルミの世界との違いってことかしら?」
「ぁあ、そだな……オレがいた国の常識だな一応。まぁ儲かればいいのが企業ってか、貴族の事業なんだろうし、手に入れたところで、盗用できる技術じゃなさそうだもんな」
「だから、これを横流ししたなら、フィンテルンの本部にいる重役が、テレールまで目論んでるのかもだし。ちゃんと華客契約で入手したオシュウェンシムが、国軍の兵士に特命してやらせた工作活動とも考えられるのよね」
ヴォロプは、模糊と視線を泳がせながらも、小難しげな表情にもなっていく。
「……となれば、どっちかじゃなく、両方が結託してる場合もあり得るよな?」
「そうね。……どっちでも天魔ヤバだから、警兵隊に通報してもしなくても、警戒しなくちゃダメだわアタシたち……」
「……そ? なら全てはウタビィさんに任せて、ヴォロプは、自分のことだけ警戒すればいいってことだな。だからもう二度と今さっきみたいな、オレの意表を突く自由行動は厳禁なっ」
「別に、意表を突いたつもりはないんだけど~。テルミが怖がりすぎなだけでしょ」
「だから、オレがビビってるのをわかってて、黙って姿を消すなってことだっ」
「やれやれね~、テルミだって、勝手にいきなり突っ走るクセにぃ」
「それは場合によりけりだっての。ムシのキモさは別格なのっ。オレも、その、パーフェクトボディーのエクセレントなプロポーションが崩れだしたりしないよう、オヤツの量に至るまで警戒するからっ」
「……またしても、何て御託を並べてるのか、全然なんだけどっ──」
場にそぐわない会話はもう、これにてお終いと宣言するように、吸魔虫の急所を刺し突いてヴォロプが飛び退く。
聞いた話よりも破裂自体は小さいものの、予想を遥かに超える勢いと量で、体液と内臓器官を噴出させる吸魔虫だった。
そのニオイも強烈で、照壬もつられてヴォロプの近くまで飛び退こうとしかける。
けれども、それをしたが最後、魔人幼女の服や両脚に悪臭の素がベッチョリと染み着き渡ってしまうこと間違いナシ。
照壬は全神経を爆発的にフル稼動させ、噴出が衰える直前に、魔人幼女を横倒しにして完璧に汚れを避けきった。
また、それによる勢いと荷重で、魔人幼女の顔からも、吸魔虫の萎 んだ骸躯までがポロリと落ちる。
「オォ~! スッゲー奇蹟的なまでの一連のやりこなしっ、手前味噌だけど、自分で自分を自画自賛しちまいそうだな」
そんな照壬は、次の瞬間度肝をぬかれる──。
もう脅威が失せた死骸と思っていたモノが、片側に並ぶ脚を突っ張って表 に返り、ゴキブリ並みのすばしこさで逃げ出した。
それは、鉄檻の厚みによる段差を飛び越えた着地でまたひっくり返ると、今度は全ての脚を一点へ上げ丸め、完全に事切れたことを、瞠然と固まった照壬に見取らせる。
「……その手のムシって、この動きがあるからイヤなのよ~。しぶとさは精力がつくからイカレ美食家どもに好まれるけど、良薬にできても、絶対使わないわねアタシはっ」
「……ガチにか~? オレも絶対ムリだな……とにかくビビった、物凄いダメージ喰らっちまったカンジ。油断していたつもりはないけど、その、つもりが命とりになるって、激痛感させられたんで、もう今後は大丈夫。いい経験だな」
「そ? なら、その子の服を、汚さずに済ませちゃったテルミの奇蹟的功績を、アタシまでが褒め喧 る必要なんかないわね~」
「……そ。別にいいけど、このあとはどうしよう? ヴォロプは、この子を目覚めさせる方法とかも知っているのかな?」
照壬は、眼下の吸魔虫から気を紛らすためにも、ヴォロプへ話しかけずにはいられない。
「ウン、そんなカンジでしょ……でね、あの符号だけど、たぶん、この咒縛機檻が、オシュウェンシム向けに造られたことを表してるの」
「って、それ……じゃぁ、この国の一貴族だってのに、ほかの国相手に早ばやと、最新式の鬼ヤバ製品だろうが売っちまうってのか?」
「そうなるけど。……その辺も、テルミの世界との違いってことかしら?」
「ぁあ、そだな……オレがいた国の常識だな一応。まぁ儲かればいいのが企業ってか、貴族の事業なんだろうし、手に入れたところで、盗用できる技術じゃなさそうだもんな」
「だから、これを横流ししたなら、フィンテルンの本部にいる重役が、テレールまで目論んでるのかもだし。ちゃんと華客契約で入手したオシュウェンシムが、国軍の兵士に特命してやらせた工作活動とも考えられるのよね」
ヴォロプは、模糊と視線を泳がせながらも、小難しげな表情にもなっていく。
「……となれば、どっちかじゃなく、両方が結託してる場合もあり得るよな?」
「そうね。……どっちでも天魔ヤバだから、警兵隊に通報してもしなくても、警戒しなくちゃダメだわアタシたち……」
「……そ? なら全てはウタビィさんに任せて、ヴォロプは、自分のことだけ警戒すればいいってことだな。だからもう二度と今さっきみたいな、オレの意表を突く自由行動は厳禁なっ」
「別に、意表を突いたつもりはないんだけど~。テルミが怖がりすぎなだけでしょ」
「だから、オレがビビってるのをわかってて、黙って姿を消すなってことだっ」
「やれやれね~、テルミだって、勝手にいきなり突っ走るクセにぃ」
「それは場合によりけりだっての。ムシのキモさは別格なのっ。オレも、その、パーフェクトボディーのエクセレントなプロポーションが崩れだしたりしないよう、オヤツの量に至るまで警戒するからっ」
「……またしても、何て御託を並べてるのか、全然なんだけどっ──」
場にそぐわない会話はもう、これにてお終いと宣言するように、吸魔虫の急所を刺し突いてヴォロプが飛び退く。
聞いた話よりも破裂自体は小さいものの、予想を遥かに超える勢いと量で、体液と内臓器官を噴出させる吸魔虫だった。
そのニオイも強烈で、照壬もつられてヴォロプの近くまで飛び退こうとしかける。
けれども、それをしたが最後、魔人幼女の服や両脚に悪臭の素がベッチョリと染み着き渡ってしまうこと間違いナシ。
照壬は全神経を爆発的にフル稼動させ、噴出が衰える直前に、魔人幼女を横倒しにして完璧に汚れを避けきった。
また、それによる勢いと荷重で、魔人幼女の顔からも、吸魔虫の
「オォ~! スッゲー奇蹟的なまでの一連のやりこなしっ、手前味噌だけど、自分で自分を自画自賛しちまいそうだな」
そんな照壬は、次の瞬間度肝をぬかれる──。
もう脅威が失せた死骸と思っていたモノが、片側に並ぶ脚を突っ張って
それは、鉄檻の厚みによる段差を飛び越えた着地でまたひっくり返ると、今度は全ての脚を一点へ上げ丸め、完全に事切れたことを、瞠然と固まった照壬に見取らせる。
「……その手のムシって、この動きがあるからイヤなのよ~。しぶとさは精力がつくからイカレ美食家どもに好まれるけど、良薬にできても、絶対使わないわねアタシはっ」
「……ガチにか~? オレも絶対ムリだな……とにかくビビった、物凄いダメージ喰らっちまったカンジ。油断していたつもりはないけど、その、つもりが命とりになるって、激痛感させられたんで、もう今後は大丈夫。いい経験だな」
「そ? なら、その子の服を、汚さずに済ませちゃったテルミの奇蹟的功績を、アタシまでが褒め
「……そ。別にいいけど、このあとはどうしよう? ヴォロプは、この子を目覚めさせる方法とかも知っているのかな?」