045 ケモナーでもネコミミストでもないもので
文字数 1,867文字
「……こっちじゃ、一七歳になると成人なんだ?」
「エッ? てか、コンテスタリに出されたら、成人したとも見做されるの。勿論アタシたちの町でのことで、ほかの地域や国でさまざまだけど~」
「年齢で一律じゃないなら、こっちの方が厳しいってわけかな……」
「てかてか、アタシがバッチンしたのを、都合好く質問攻めで仕返しする気? それがテルミの国で言うシンシなの、ガチで?」
「……つくづく女子だよなぁ、そういうトコ。なんだかもう、
「別にぃ。なんだか、都合が好いから使ってるだけよ~」
本気で仕返しの質問攻めに転じてやろうかとも思う照壬だが、かなり奥行きのある二階建てであった行務棟がもう間近。
加えて、正面の窓や戸口からの煌煌とした明るさが、照壬の意識へ割り込んで、見向かせもする。
「ったく。……ガラスはあるんだな。やっぱランプなのにヤケに明るいのは、鏡もあって反射板に使っているからか……けど、ムシが全然飛んで来ていないよな? なぜだろ……」
「魔法が使われてるからに決まってるでしょ。それで光も白っぽいのっ」
「へ~、……とにかく、あそこが、この村の玄関ってカンジだな。この道も、あそこの前を行った先は曲がってまた上りになっているようだし、さらに下る道は、あの建物の脇を通るほかにはなさそうだしな……」
「なるほどね~、いいじゃないの。ウタビィは、人も荷物も、村のあらゆる出入りを掌握してる立場なんだわ」
「入出村管理官のトップとでも思えばいいのかな? ……それでなヴォロプ、悪いんだけど、ウタビィに取り次いでもらう交渉までをお願いできないかな? そしたらあとはオレが、てか、っと言うより、ノキオに話をつけてもらうから」
「どう言うこと?」
「オレがノキオとやり取りしているように、ウタビィにも分身から折ってきた枝を使ってもらう。きっと使えるし、あげれば喜ぶともノキオが言うんだから、間違いないって」
そのために、分身の頭から鬣 みたく生え伸びていた部分を折りとって来ていた別の枝を、照壬がマウンテンパーカーのポケットから出して見せると、ヴォロプはどことなく、おもしろくなさそうに眉を顰めた。
「……そ? てか、ガチで~?」
「何だよそれはぁ? なぁ頼むよ。オレ、ネコ人間と話すことを想像するだけで緊張してきちまうけど、そこは逃げずに気張るし。なっ?」
「よかったわねぇ、人狼族や人虎族ではなかったのは」
「ノキオの枝は、よければヴォロプにもあげるからさ、試し続けてみれば? その内、ノキオとつながれるかも知れないだろ?」
照壬が枝をもう一本差し出すと、ヴォロプはうって変わった喜色をホタホタと見せる。
「アラ~。しょうがないわねぇ、なら頼まれてあげちゃうけど」
「そ? いや、それはどうもな。都合じゃなくて、調子が好いみたいだなかなり……」
照壬の手から、抓 たくるように枝切れを受けとったヴォロプは、そのまま行務棟へと直進 みだす。
まるでスキップみたいな軽快な足どりで。
▼
ヴォロプが当て込んだとおり、ウタビィは口番司宰 と称される受付行務全般にわたる重役で、老いばみなど全くカンジさせない、村の看板ネコ的バリキャリであった。
それゆえ、ぬかぬかと入って来たヴォロプと、そのあとから臆面をひっさげて挙動不審気味に滑り込んだ照壬の姿は、ウタビィの目にしっかりと留まった。
窓口業務に就いていた人素族の女性口番司に取り次いでもらうまでもなく、司宰室からヒゲを撫でつけつつ訝しげに下りて来たウタビィだったが、二人の身なりから異質な素材感を見て取るや、当意即妙に最良策を講じる。
如何にも、親しい知人の子供たちに対するがごとき声がけをして、小手招きに司宰室へととって返し、物慣れたあじまやかさで二人を容陰 してくれた。
ネコはネコでも、照壬に身近だった和猫ではなく、凛凛しさがある洋猫の顔立ちをしているウタビィは、トンキニーズを髣髴とさせる。
目の鞘までがはずれているような青い瞳で、たちまちヴォロプがボムバーナであることをも見ぬいてしまった。
そして、次に向けられた眼光に、照壬は怯みたじろぐことしかできないでいたために、取り次いでもらったあとの一切をも、ヴォロプが進めることになる。
「エッ? てか、コンテスタリに出されたら、成人したとも見做されるの。勿論アタシたちの町でのことで、ほかの地域や国でさまざまだけど~」
「年齢で一律じゃないなら、こっちの方が厳しいってわけかな……」
「てかてか、アタシがバッチンしたのを、都合好く質問攻めで仕返しする気? それがテルミの国で言うシンシなの、ガチで?」
「……つくづく女子だよなぁ、そういうトコ。なんだかもう、
てか
もガチ
も言い難くなっちまう──まさか、言わせないようにワザと真似しているんじゃないよな?」「別にぃ。なんだか、都合が好いから使ってるだけよ~」
本気で仕返しの質問攻めに転じてやろうかとも思う照壬だが、かなり奥行きのある二階建てであった行務棟がもう間近。
加えて、正面の窓や戸口からの煌煌とした明るさが、照壬の意識へ割り込んで、見向かせもする。
「ったく。……ガラスはあるんだな。やっぱランプなのにヤケに明るいのは、鏡もあって反射板に使っているからか……けど、ムシが全然飛んで来ていないよな? なぜだろ……」
「魔法が使われてるからに決まってるでしょ。それで光も白っぽいのっ」
「へ~、……とにかく、あそこが、この村の玄関ってカンジだな。この道も、あそこの前を行った先は曲がってまた上りになっているようだし、さらに下る道は、あの建物の脇を通るほかにはなさそうだしな……」
「なるほどね~、いいじゃないの。ウタビィは、人も荷物も、村のあらゆる出入りを掌握してる立場なんだわ」
「入出村管理官のトップとでも思えばいいのかな? ……それでなヴォロプ、悪いんだけど、ウタビィに取り次いでもらう交渉までをお願いできないかな? そしたらあとはオレが、てか、っと言うより、ノキオに話をつけてもらうから」
「どう言うこと?」
「オレがノキオとやり取りしているように、ウタビィにも分身から折ってきた枝を使ってもらう。きっと使えるし、あげれば喜ぶともノキオが言うんだから、間違いないって」
そのために、分身の頭から
「……そ? てか、ガチで~?」
「何だよそれはぁ? なぁ頼むよ。オレ、ネコ人間と話すことを想像するだけで緊張してきちまうけど、そこは逃げずに気張るし。なっ?」
「よかったわねぇ、人狼族や人虎族ではなかったのは」
「ノキオの枝は、よければヴォロプにもあげるからさ、試し続けてみれば? その内、ノキオとつながれるかも知れないだろ?」
照壬が枝をもう一本差し出すと、ヴォロプはうって変わった喜色をホタホタと見せる。
「アラ~。しょうがないわねぇ、なら頼まれてあげちゃうけど」
「そ? いや、それはどうもな。都合じゃなくて、調子が好いみたいだなかなり……」
照壬の手から、
まるでスキップみたいな軽快な足どりで。
▼
ヴォロプが当て込んだとおり、ウタビィは
バリ
が付くだけあってウタビィは、行務棟に入ってスグの受付カウンター内をリヴィングにして、吹きぬけたカウンター周辺を大きな一枚ガラス越しに見下ろせる二階の司宰室で寝起きする暮らしぶりとなっている。それゆえ、ぬかぬかと入って来たヴォロプと、そのあとから臆面をひっさげて挙動不審気味に滑り込んだ照壬の姿は、ウタビィの目にしっかりと留まった。
窓口業務に就いていた人素族の女性口番司に取り次いでもらうまでもなく、司宰室からヒゲを撫でつけつつ訝しげに下りて来たウタビィだったが、二人の身なりから異質な素材感を見て取るや、当意即妙に最良策を講じる。
如何にも、親しい知人の子供たちに対するがごとき声がけをして、小手招きに司宰室へととって返し、物慣れたあじまやかさで二人を
ネコはネコでも、照壬に身近だった和猫ではなく、凛凛しさがある洋猫の顔立ちをしているウタビィは、トンキニーズを髣髴とさせる。
目の鞘までがはずれているような青い瞳で、たちまちヴォロプがボムバーナであることをも見ぬいてしまった。
そして、次に向けられた眼光に、照壬は怯みたじろぐことしかできないでいたために、取り次いでもらったあとの一切をも、ヴォロプが進めることになる。