058 良宵の霹靂
文字数 1,840文字
ややあってから、それに気づいたヴォロプが「チョット~、今度は何なの一体?」と、すっかり慣れきった静閑さを、破することなくうちささめいた。
が、草叢 から顔を出した照壬から反対に、唇の前に人差し指を立てた《静かに!》を返されて、ヴォロプはまたも噤口 する。
そこからただちに、音をたてない小走りでヴォロプの下へ戻った照壬は、完成させたノキオ面を横様に被り、лсДをまた手にするだけでなく、並べてあった木剣をも腰に差して、カプトまで羽織った。
そして照壬も小声で「誰か来る。……それも、なんだかフツウじゃないな」と事態を説明。
「……どう言うこと?」
「そこから向こうに何か見えないか? 想像もつかないけど、ヤバげな音が聞こえてきたんだよな──」照壬はヴォロプに背中を向けた正面を指差す──「大人数なのか、デカいのか……とにかくゴロゴロってか、重い物が強引に来るカンジがしたんだ」
照壬の言葉に、あからさまな不得要領と言った表情になるヴォロプだけれども、その沼の左岸方向へ怪訝の目を向け、さらに凝らして澄ましもする──。
高く生え茂る草の障壁が、厚みにムラはあるものの幾重にも塞ぐため、あらゆる視力が高いヴォロプの眼にもよくは見えない。
だが、そのわずかな隙間から、月光にチラと反射した微かな閃影を見洩らさなかった。
「確かに来るわね。荷馬車の進み方じゃないけど、何かを運んでるみたい。……でも、アタシに見えたのが鋼の輝きだとしたら……檻だわ、おそらく」
「オリって……檻か? 獣や人を閉じ込める?」
「そうなると、アタシを攫おうとした一味かもっ。ほかにも攫ってて、売ろうとされてた被害者たちがいたのかも? 隠れ家を変えるための移動なのよ、きっとあの山から」
「ガチか~……だけど、あの山だったらノキオが知らないはずがないって。山とここの間のどこかに、苔も生 せない箇所がある広い岩場とか砂地でもあるんじゃないのかな?」
「……てか、オピが気づき難い場所を見つけたから、あの山のどこかに人身売買の拠点をつくったんじゃないのっ?」
「……かもな。ノキオも、全てがしっかり把握できるとは限らないって言ってたしな」
「てか、どうするの? きっと、沼の水でノドを潤したあとは、道に出たいでしょうから、ここで静かにしてれば、やり過ごせると思うけど」
「……まさかだな。ノキオがこの場にいたなら、攫われた人たちを全員解放するために戦うに決まってる、オレなら悪党どもをまた教会送りだっ。今度は、治療費もあとの世話焼き手間もかからないよう、軽傷でも最大の脅威をお見舞いしてやるっ」
本音は静かにやり過ごしたい照壬だけれども、ノキオ面ができ上がると言うタイミングでのこの鉢合わせには、あの山周辺から続く、延いてはノキオにもつながる草木が、自分に期待し知らせていたと思えてならない。
「じゃぁ決まりねっ。行く手には、アタシが立ちはだかるから廻り込んで。テルミは悪人たちがビビってる間に殲滅、手筈は以上だから」
「ダメだって、そんな危ないことガチで。ヴォロプはここにいてくれ、殲滅は絶対にやり遂げるから。それに、このノキオのお面を被って距離もとって攻めれば、充分ショック・タクティクスになって、楽勝かもだしな」
「こんな時に何よそれ~」
「っとサーリグ。敵の度肝をぬく奇襲作戦とでも言うかな、ツリーマンがしつこく追撃して来たと、ビビらせまくれるんじゃないか?」
「てか、アタシを誰だと思ってるわけ? 強大な魔力で、アタシの爆燃力を上まわる速さでアタシを一ミリア以上吹き飛ばせるか、もしくは逃げきれちゃうか、魔族でも数少ない上位存在以外は目じゃなければプーでもないわっ」
「そっちこそ、こんな時にプーって、屁のことかよ?」
「いいのそんなことはっ。絶対やってやるんだからワタシ。そこまでヤバいチカラをもつ魔族が、人身売買や奴隷商人なんて、陰湿の極みっぽい商売をする道理もないんだし」
「……てか、ならわかった。もう、やりたいようにやってくれ、オレもできる限りを精一杯やるだけなんだしな」
照壬はそう話を締めくくりつつカプトのボタンを留め終えると、ダッシュでヴォロプの下から離れ行く──。
「ガチ~? アタシをだしぬいて終わらせちゃう気ねっ。そうは行かないもの」
ヴォロプも一瞬の迷いすらなく、枕元に置いていた鬘と革鞭を手にとって三メートル近くある高さの太枝から飛び下りる。
照壬よりも速そうなスタートをきって、鬘を被り整えながら沼の左岸へと驀地 。
が、
そこからただちに、音をたてない小走りでヴォロプの下へ戻った照壬は、完成させたノキオ面を横様に被り、лсДをまた手にするだけでなく、並べてあった木剣をも腰に差して、カプトまで羽織った。
そして照壬も小声で「誰か来る。……それも、なんだかフツウじゃないな」と事態を説明。
「……どう言うこと?」
「そこから向こうに何か見えないか? 想像もつかないけど、ヤバげな音が聞こえてきたんだよな──」照壬はヴォロプに背中を向けた正面を指差す──「大人数なのか、デカいのか……とにかくゴロゴロってか、重い物が強引に来るカンジがしたんだ」
照壬の言葉に、あからさまな不得要領と言った表情になるヴォロプだけれども、その沼の左岸方向へ怪訝の目を向け、さらに凝らして澄ましもする──。
高く生え茂る草の障壁が、厚みにムラはあるものの幾重にも塞ぐため、あらゆる視力が高いヴォロプの眼にもよくは見えない。
だが、そのわずかな隙間から、月光にチラと反射した微かな閃影を見洩らさなかった。
「確かに来るわね。荷馬車の進み方じゃないけど、何かを運んでるみたい。……でも、アタシに見えたのが鋼の輝きだとしたら……檻だわ、おそらく」
「オリって……檻か? 獣や人を閉じ込める?」
「そうなると、アタシを攫おうとした一味かもっ。ほかにも攫ってて、売ろうとされてた被害者たちがいたのかも? 隠れ家を変えるための移動なのよ、きっとあの山から」
「ガチか~……だけど、あの山だったらノキオが知らないはずがないって。山とここの間のどこかに、苔も
「……てか、オピが気づき難い場所を見つけたから、あの山のどこかに人身売買の拠点をつくったんじゃないのっ?」
「……かもな。ノキオも、全てがしっかり把握できるとは限らないって言ってたしな」
「てか、どうするの? きっと、沼の水でノドを潤したあとは、道に出たいでしょうから、ここで静かにしてれば、やり過ごせると思うけど」
「……まさかだな。ノキオがこの場にいたなら、攫われた人たちを全員解放するために戦うに決まってる、オレなら悪党どもをまた教会送りだっ。今度は、治療費もあとの世話焼き手間もかからないよう、軽傷でも最大の脅威をお見舞いしてやるっ」
本音は静かにやり過ごしたい照壬だけれども、ノキオ面ができ上がると言うタイミングでのこの鉢合わせには、あの山周辺から続く、延いてはノキオにもつながる草木が、自分に期待し知らせていたと思えてならない。
「じゃぁ決まりねっ。行く手には、アタシが立ちはだかるから廻り込んで。テルミは悪人たちがビビってる間に殲滅、手筈は以上だから」
「ダメだって、そんな危ないことガチで。ヴォロプはここにいてくれ、殲滅は絶対にやり遂げるから。それに、このノキオのお面を被って距離もとって攻めれば、充分ショック・タクティクスになって、楽勝かもだしな」
「こんな時に何よそれ~」
「っとサーリグ。敵の度肝をぬく奇襲作戦とでも言うかな、ツリーマンがしつこく追撃して来たと、ビビらせまくれるんじゃないか?」
「てか、アタシを誰だと思ってるわけ? 強大な魔力で、アタシの爆燃力を上まわる速さでアタシを一ミリア以上吹き飛ばせるか、もしくは逃げきれちゃうか、魔族でも数少ない上位存在以外は目じゃなければプーでもないわっ」
「そっちこそ、こんな時にプーって、屁のことかよ?」
「いいのそんなことはっ。絶対やってやるんだからワタシ。そこまでヤバいチカラをもつ魔族が、人身売買や奴隷商人なんて、陰湿の極みっぽい商売をする道理もないんだし」
「……てか、ならわかった。もう、やりたいようにやってくれ、オレもできる限りを精一杯やるだけなんだしな」
照壬はそう話を締めくくりつつカプトのボタンを留め終えると、ダッシュでヴォロプの下から離れ行く──。
「ガチ~? アタシをだしぬいて終わらせちゃう気ねっ。そうは行かないもの」
ヴォロプも一瞬の迷いすらなく、枕元に置いていた鬘と革鞭を手にとって三メートル近くある高さの太枝から飛び下りる。
照壬よりも速そうなスタートをきって、鬘を被り整えながら沼の左岸へと