055 カリカリは当たらずに口当たりへ昇華すべし

文字数 1,689文字

「それであんなに若若しいんだし、働き盛りも長いから司宰なんて重役にもなれてる。カルタードだって、一晩で何枚も何種類だってつくれちゃう。てか、ガチに半魔だからこそ、貴族と契約するしか安泰に暮らす道がないんでしょっ」

「どしてそうなんだ? 完全なイカレ魔族ならわかるけど、あんなまともで親切な人は、オレの世界にだって滅多にいやしないのに。そうした点では、不幸中の僥倖って言うかさっ」

 照壬は、自分の言葉でどんどん感情が高ぶりだしてくる。

「……どしたの? 変な意気込みはやめてよね~」

「まさしく、これぞ

を実体験しているんだよなっ。こっちでのオレは、万事ノキオ様様、感謝感激、火が降ろうが槍が降ろうが、あられもなくツいてるってのに!」

「イカレてるテルミに降心できるかわからないけど~、魔力や魔法を使えることは、使えない大半の人族にとって、脅威でしかないからに決まってるでしょ。それこそイカレられちゃったら、(たお)すまでに何人犠牲者が出るかわからないんだし」

「……ならさ、逆に斃し尽くして、その土地を牛耳る魔王にでもなっちまえば済むことじゃないかな? それが一番安泰だろ」

「ま~た紛雑錯綜しちゃってるぅ。そんな安直にいくわけないでしょ、そこまで夥しい魔力をもって君臨し続けられてる魔王なんて、五〇年くらい前に一人滅びたらしいから、今もたった四人しかいなんだから」

「いるのか魔王? ガチか~……」

「てか、半魔は魔族からも半端者あつかいだし、半魔人に魔族暮らしはムリが多いから、人族の中でまともで親切に生きないと、寄って集ってボカスカタンと息の根を止められちゃう。仕方がないのよウタビィも」

 照壬も前をきちんと閉じているカプトの下で、腰に差した木剣の柄を無意識に握りだす。

「……地獄だもんな、歪んでるはずだよなぁ……てか、ダメな奴は心に魔が差すからダメで、それが世界を歪めるんだよな。魔が差した奴こそ滅びちまえば、どんな世界でも安泰なんだろうけどなっ」

「モォ~変な降心しないでよ。てか朝食の時、夜中に到着した荷馬車が、ツリーマンの出現情報も届けてることは聞いたでしょ」

「……ぁあ、ノキオの分身での一件な。……ホント恐縮しちゃうよなぁ、オレが撃って起こしたことまでが混同されて、ノキオの狙い以上で広まっているみたいで……」

「それってつまり、ここ一帯に巣喰っていた悪人たちの動きが、大きく変わることを意味するのよ。まず目指してるナウランカに辿り着くまでの、今日や明日がヤバイのっ、カリカリくらいするわよ当然」

「ったく、最初からそう教えてくれよ」

「エ~ッ? 出発前も一人でノキオとクッチャベってたから、アタシが教えるまでもなく、ぬかりない入れ知恵までされてると思ってたわ~」

「それはそれだし……ま、悪い奴らが、あの山から勢力図を後退させて描きなおすんなら、オレにとってもいいチャンスだな。かかって来い来い、描きなおしようもないくらい蹴散らしてやるってのっ」

「キャー鬼ヤバァ、ワザと危険を招くようなことしたら、追いなおしようもないくらい、アタシがテルミを蹴っ飛ばしちゃうまでだけど~」

「……どこまでもそんな風に女子発想していると、いつまでもノキオとつながれないぞ。ノキオこそ、オレが知る限り最第一のジェンツだからな。ノキオが拒まなくたって、仲介する植物たちが許さないっての」

「ウルサイのっ……ガチで、カリカリしてきちゃうぅ」

「そうカリカリ言われると、口がカリカリ梅を欲してきちまうけど……なぁヴォロプ、かりん糖ってあるかなこっちに? 硬くカリッと揚げたドーナッツとも言われていて、カリカリ食べるんだけどな」

「知らない!」

「そ? そっかそっか、ならウタビィさんに売れそうだな。日保(ひも)ちするから、ツリーマン騒ぎで、ルート変更を余儀なくされる山越えのお供や、お土産にピッタリかもな」 

 かりん糖を弾みに芋蔓式に憶起されたスイーツの数数を、照壬は小心翼翼ながらも、この世界に類似品があるのかどうか、()りずまにヴォロプへ問い聞き続ける。

 そうすることで、今日一日をやり過ごすための、自身の調子を上げていく。  
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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