043 神の死角&ギャラクティカな村
文字数 1,794文字
「勿論でしょ。トリウネは一回だけだけど、お見かけしたことなら何度もあるし。その友人や家族の神や女神とは、何度お話ししたかわからないくらいね」
「そんなに? ガチでか……」
「フツウに彷徨いてて、フツウに声をかけて来るから、あとで神だったとわかることも多いのよね」
「……神はディスロケーターとも、フツウに接してくれるのかな?」
「ウ~ン、神にもよるんじゃないかしら? テルミがどこで何をしでかすかにもよるわよね」
「しでかすつもりは全然ないんだけどな」
「でもまず、この世界の創造神で絶対神のヴィサリオンはダメね、バレたら間違いなく消されちゃうわ。あとは、神が守る土地で、神が定めた決まりに異議を唱えて秩序を乱しちゃったりしたら、その神にも消されちゃうぅ」
ヴォロプはパチンと一つ手を打った。
「結局、神まで敵なのかよぉ」
「大丈夫でしょ。神じきじきから消される前に、聖騎士や特任の軍兵や修道闘士に屠られちゃうか、捕まって公開処刑されるかだから~」
「どこが大丈夫なんだよっ。……神に消された方がマシじゃないか」
「だから、バレなければいいんでしょ。バレても、隠れ場所が見つからなければ消せないみたいだし」
「そうなの? 神でも、全知全能の絶対じゃないわけか?」
「この世界の神や女神たちは、この世界で生まれてないディスロケーターをしっかり感知することができないようなの。だからイヤなんだろうし、できてたら、こうしてアタシと出会って話すことさえなくテルミは消えてたはずぅ」
「……まぁ一理ありそうだな。てか、それもこの世界の常識なのか? ヴォロプが詳しいだけなのかな? ノキオから聞いていない新情報なんだけど」
「まあっ。ならアタシが、オピよりチョットだけ詳しいんじゃないかしら~?」
「……どしてだよ?」
「アタシの町には、偶にディスロケーターが最後の手段で逃げ込んで来るの。追跡者が、火山の先までは近寄りきれずに諦めちゃうのはわかるけど、町にいることをわかってて神までが見逃すなんて、そうだとしか考えられないもの」
「なるほどな……」
「だからアタシには、テルミへの常識的な偏見はないわけ。よかったわね~、これも奇遇なのかしらぁ」
「オレにとっちゃ全てが奇遇だけど、お互い様なのは助かったかもな……ノキオが助けていたのがただの女子だったら、来ないであっち行ってのキャーキャーで、こうしてダベることもなく、氷塊運びも同然の超厳寒任務になっていたろうからな」
「何言ってるのか、意味がキャーキャーわかんないぃ……アララ、この村はハズレみたいだわテルミ~」
「何言ってるんだかなヴォロプこそ? 疲れすぎて壊れたんじゃ──」
ツッコみ気味に受け返した照壬の目にも豁然と、暗澹かつ広長な谷間の風景が幻出しだす。
水の流れる音も聞こえ、空気に湿った涼やかさまで感じてくるが、なだらかな段丘が落ち入った先に川は見当たらない。
あるべき川を、およそ三〇〇メートルに渡って、長大な木造船が黒黒と蓋い尽くしているかのような建築物が横たわっていた。
それは、屋根の突き出し方や大きさで、規模が異なる幾つもの建物が犇 めき連なる単純な架構式構造体の寄せ集めとわかる。
それとともに、その上端から上にも下端から下にも、流れが月明かりをキラつかせるはずの川面が見えず、ゴツゴツした大きな岩の積み重なりが延びているだけということから、照壬はノキオから聞いていた話を思い出す。
〈この周辺の谷間は大きな岩だらけで……尾根に沿って山を越える方が楽なのです〉とは、こうした状況を言っていたのかと、照壬はようやく実感として合点がいく。
上流方向へ目をやれば、上ほど岩が谷幅を埋め尽くしているようにも見受けられた。
さらに長大建築物の左右にも、所所で巨大ムカデの脚のごとく屋根が並び、それらから少し離れて、一軒家的に点在する建物も大小さまざまで少なからずあった。
そして、長大建築物からは洩れ出ている灯光がほとんどないため、村人たちの住まいは、ムカデの脚部分とその周辺の一戸建てなのだろうと、照壬は瞿然とさせた目に映る光景の暗昧さと現実感のなさ同様に、ぼんやり思いを巡らせる。
「神殿だけじゃなく教会まであるみたいけど、貴族が管領する村だわここ……たぶん染め物と酒造りが中心。どっちも、水に活力が溢れてる山麓に多い典型的な作業舎ね」
「……そ? こんなのが典型かぁ……」
「そんなに? ガチでか……」
「フツウに彷徨いてて、フツウに声をかけて来るから、あとで神だったとわかることも多いのよね」
「……神はディスロケーターとも、フツウに接してくれるのかな?」
「ウ~ン、神にもよるんじゃないかしら? テルミがどこで何をしでかすかにもよるわよね」
「しでかすつもりは全然ないんだけどな」
「でもまず、この世界の創造神で絶対神のヴィサリオンはダメね、バレたら間違いなく消されちゃうわ。あとは、神が守る土地で、神が定めた決まりに異議を唱えて秩序を乱しちゃったりしたら、その神にも消されちゃうぅ」
ヴォロプはパチンと一つ手を打った。
「結局、神まで敵なのかよぉ」
「大丈夫でしょ。神じきじきから消される前に、聖騎士や特任の軍兵や修道闘士に屠られちゃうか、捕まって公開処刑されるかだから~」
「どこが大丈夫なんだよっ。……神に消された方がマシじゃないか」
「だから、バレなければいいんでしょ。バレても、隠れ場所が見つからなければ消せないみたいだし」
「そうなの? 神でも、全知全能の絶対じゃないわけか?」
「この世界の神や女神たちは、この世界で生まれてないディスロケーターをしっかり感知することができないようなの。だからイヤなんだろうし、できてたら、こうしてアタシと出会って話すことさえなくテルミは消えてたはずぅ」
「……まぁ一理ありそうだな。てか、それもこの世界の常識なのか? ヴォロプが詳しいだけなのかな? ノキオから聞いていない新情報なんだけど」
「まあっ。ならアタシが、オピよりチョットだけ詳しいんじゃないかしら~?」
「……どしてだよ?」
「アタシの町には、偶にディスロケーターが最後の手段で逃げ込んで来るの。追跡者が、火山の先までは近寄りきれずに諦めちゃうのはわかるけど、町にいることをわかってて神までが見逃すなんて、そうだとしか考えられないもの」
「なるほどな……」
「だからアタシには、テルミへの常識的な偏見はないわけ。よかったわね~、これも奇遇なのかしらぁ」
「オレにとっちゃ全てが奇遇だけど、お互い様なのは助かったかもな……ノキオが助けていたのがただの女子だったら、来ないであっち行ってのキャーキャーで、こうしてダベることもなく、氷塊運びも同然の超厳寒任務になっていたろうからな」
「何言ってるのか、意味がキャーキャーわかんないぃ……アララ、この村はハズレみたいだわテルミ~」
「何言ってるんだかなヴォロプこそ? 疲れすぎて壊れたんじゃ──」
ツッコみ気味に受け返した照壬の目にも豁然と、暗澹かつ広長な谷間の風景が幻出しだす。
水の流れる音も聞こえ、空気に湿った涼やかさまで感じてくるが、なだらかな段丘が落ち入った先に川は見当たらない。
あるべき川を、およそ三〇〇メートルに渡って、長大な木造船が黒黒と蓋い尽くしているかのような建築物が横たわっていた。
それは、屋根の突き出し方や大きさで、規模が異なる幾つもの建物が
それとともに、その上端から上にも下端から下にも、流れが月明かりをキラつかせるはずの川面が見えず、ゴツゴツした大きな岩の積み重なりが延びているだけということから、照壬はノキオから聞いていた話を思い出す。
〈この周辺の谷間は大きな岩だらけで……尾根に沿って山を越える方が楽なのです〉とは、こうした状況を言っていたのかと、照壬はようやく実感として合点がいく。
上流方向へ目をやれば、上ほど岩が谷幅を埋め尽くしているようにも見受けられた。
さらに長大建築物の左右にも、所所で巨大ムカデの脚のごとく屋根が並び、それらから少し離れて、一軒家的に点在する建物も大小さまざまで少なからずあった。
そして、長大建築物からは洩れ出ている灯光がほとんどないため、村人たちの住まいは、ムカデの脚部分とその周辺の一戸建てなのだろうと、照壬は瞿然とさせた目に映る光景の暗昧さと現実感のなさ同様に、ぼんやり思いを巡らせる。
「神殿だけじゃなく教会まであるみたいけど、貴族が管領する村だわここ……たぶん染め物と酒造りが中心。どっちも、水に活力が溢れてる山麓に多い典型的な作業舎ね」
「……そ? こんなのが典型かぁ……」