064 ヴェルデSって色には創生者の邪想が

文字数 1,966文字

 蛍光グリーンへと変化しきったうねうねは、上下から蠕動を激しくし始め、見る見る内にその全姿を判然とさせていく。

 それは、今やもう見紛いようもなく人の形、しかもうら若い女性の形態となってきていた。

 照壬の顔に、思いきり苦虫を噛み潰したような表情が浮かぶ。
 さらには頭の奥深く、脳幹がネジれだしたような、ニブい頭痛にも苛まれ始める。

「なるほどね~。利用目的や価値の方はどうやらわかってきたんだけど、もう少し闘ってみないことには、効果的な闘い方や、決定的弱点とかも助言なんてできないわぁ」

「……そんなこと、見ればオレだってわかるってのっ、なんとなく……」

「アラまっ、こんな時に(みだ)りがわしいこと~」

「ったく。こんな時にまで女子をモロ出さないでくれないかなっ。その、男を詰ってのはぐらかしは、ただ、ヤバさの深みにズブハマっていくだけの、現実逃避でしかないんだからな」

「ヤダわ~、女子をモロ出しだなんて。見たまんまを口に出さないでよねぇ」

「てか、番人として残したんだから、それなりの戦闘力があるのは確実だろ? ヴォロプまで手を出す必要はないけど、頭でしっかり闘って、オレに有効な指示出しをしてくれっ」

「わかってるけどぉ、テルミのバーンが全然効かないんじゃ、斬れもしないだろうし……斬れてもスライム同然で、またくっ付いて元に戻るだけだもの……」

 唖然とならざるを得ない照壬が、黙思さらには沈思黙考へともて悩みだす中、太腿まで届く長い髪を垂れ輝やかせる蛍光グリーンの女性裸身となった魔物は、ハープの弦でも撫で弾くかのように、そのストレートヘアーを一靡きまでさせた。

「そう言うことさねぇ。そこの坊やが今さっき、何の小生意気をしゃあがったのか知らないけんど、ワチキを斬ろうなんてムリな話さぁ」

「……しゃべった、ガチか? まさかウタビィさんみたく人族との半魔なのか? てか、人とスライムの合いの子なんて生まれるのかな? 遺伝子操作でも、究極のゲノム編集を超絶的に成功させないとムリじゃないのかっ?」 

「……ま~た意味わからないことしゃべるっ、やめてよこんな時にテルミまでぇ」

「悪い──いや、サーリグ……」

「けど、なんかわかったわ。あれは人族とじゃなく別種の魔族をかけ合わせた雑魔か、そうした雑魔を何度もかけ合わせた雑魔なのかも……」

「暴慢ラインブリーディングの極み? てか、邪知の終局アウトクロスかな?」

「もうしゃべらないでっ。長年の馴致もあって、神の守護力に障らない例外なのよ、雑魔でも造下僕は」 

 ヴォロプが理解を拒む一方で、魔物は一層の理解を示しだす。

「さっきから何だい坊や、坊やのクセしてワチキの知らない言葉をペラペラと……あんら~? 
坊やは、この辺のコじゃなく、トリウネが守護しない国の生まれなのかいぃ?」

 今度は言葉を失って黙然となる照壬が、ギクリと反応だけはしたために、ヴォロプまでが滑らせ気味に口を添える。

 「……ホ~ラ怪しまれるぅ。とにかくウタビィとは別だから全然っ。アタシたちの言葉をしゃべるのは、昔から人族に使われてきた造下僕の特徴なの。……かけ合わされてるのは、たぶんサキュバス系だわ」

「サキュバスな……女の淫夢魔が雑じってるのかよ、見るからにそんなカンジだけど」

「こっちの話に耳を貸せる上に、ちゃんと理解から推認までができる高い知能があるわけだから、モーラか、はたまたエンプーサかしら……」

「その二つは知らないっ。どんなチカラをもっていて、何をしてくるのかを言ってくれ」

 頭の奥からニブい痛みが発してくるものの、照らつく蛍光グリーンの色姿から目を逸らすことはせず、決して逸らすつもりもない照壬だった。

「直接噛みついて従えるために、体をどっちの意味でも武器にする攻撃しかできないはずぅ。エンプーサが雑じってたら、翼を生やして飛べちゃうかも」

「肉弾戦な……飛べるくらいなら大した問題でもないだろうけど、こっちの攻撃も効かないんじゃなぁ、ド~すんべかな……」

「だから、いろいろ吸われて斃されちゃわないように、とにかく色仕掛けに注意するの。テルミのジェンツが試される正念場よっ」

「ガチか~……まぁジェンツじゃなく、魔物女に(たら)されるほどのスケベじゃない自信はあるけどな」

「スケベって何よぉ? もしかして色狂い好兵衛やヘンタイと同じ意味?」

「……なんだかなぁ、この世界? まったく神は、何を基準に教えていやがるんだか?」

 額に手を当てて天を仰ぎかける照壬だが、そこをヴォロプが「気をぬいちゃダメッ!」と、叱り飛ばしで立てなおさせる。

「だな。……てか、このサキュバス系スライム、あの悪党連中に使われているんじゃなく、逆に誑し込んで、支配していたってこともあり得そうだよな?」

 穿(うが)った照壬の言い分には、魔物女が、瞳のない蛍光イエローの目を瞠る。
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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