070 アジトが魔窟ならビビり入るのも仕方ない
文字数 1,620文字
エシャたちが根城にしていた裂け目の内部は、広く刳り抜かれたドーム状になっていた。
その空間を、幾つかの部屋として区切るために、細い丸太を組み積んでできている隙間だらけのパーティションが、まず二人の侵入を妨げた。
ヴォロプが思い当てたランタンは、探すまでもなく見つかってくれる。
本当に入ってスグのパーティーションに引っ掛けられていて、照壬は早速、印籠に似た鋼鉄製の種火入れとともに下して、点灯作業にとりかかった。
一方ヴォロプは、行く手を阻むパーティションの開け方、もしくは退かし方を考えるのが面倒になったのか、正面きってまたも蹴りを入れ、丸太を折り砕いての突破を始める。
「……ランタン、てか、手提げ灯具に火を点けるまでの間くらい待てないもんかなぁ。その長すぎる脚はバタリング・ラムかってのっ?」
「意味わからないし、待つまでもないってだけよ~」
「ったく。魔人女子が押し込まれている檻がその裏にでもあったら、赫赫と照らしつける以上にビックリさせちまうだろが」
「フォ~なの、ドゥ~ルなの、イ~ディオなの? ちゃんと隙間から確認してるもの。また知らない言葉を使ったって、悪口を言ったのはわかるんだからっ」
「……その、ドゥールとイーディオってのも、フォーより蔑んだ悪口に聞こえたけどな」
「アラ? ちゃんと伝わっててよかったわ~」
「てかほら、灯りが点いたから。ヴォロプが持って照らしてくれよ。オレは、足で剣までは握れないからな──」照壬は、手提げ灯具を差し出しながら立ち上がる。
「てか、イチイチ鍛錬が足りないのよテルミは。アタシは足でだって剣くらい握れるもの」
ヴォロプは長い腕も鋭と伸ばして引っ手繰り、照壬から手提げ灯具を受けとった。
「ガチに? てか鍛錬は、祖父サマが諦めるくらいサボりまくったからなぁ。オレが育ったのは、平和ボケって罵られるほど、ほぼ全員が安全だと信じきっちまえる国だったもんで」
「でしょうねぇ。人族を操って悪事を働いてた雑魔にさえ、恩情をかけようとしちゃうくらいだし~」
そうツッコんできたヴォロプの表情に、灯りの具合か、含み笑いまでが浮かんでいるように照壬には見えてしまう。
バレていたのか? それとも、ただの買い被りすぎか?
内心で、疾風怒濤と狼狽が渦巻きだす照壬だが、そこは慣熟レヴェルに達していると言える常套手段、シレッと話頭を転じてお茶濁し……。
「てか、ここは大陸の一つだからか、広くて人が随分と少ないんだよな。まるでアメリカの荒野か、アフリカのサヴァンナを横断しなくちゃならないカンジで、どうにもリアルさがしっかり湧いてくれないんだよなぁ」
「まったく。知らないけど、ここはここで、テルミももうこっちの人なの。それを、いつまでも腑に落としきれないでいるとヤバいってことよ」
「だよな……」
「魔人とも対面すれば、いい加減、落ちきるんじゃないかしらぁ? ほらほら、照らしてあげるから行って行って、テルミが先に立つんでしょ」
「……了解」
照壬は、ヴォロプが蹴破った箇所をくぐって奥へと進入を開始する。
──歪な扇形をした地面にも、パーティションより細い丸太を並べ組んだ簀 の子が敷いてあった。
大きな円卓や、座面と背凭れが広く頑丈そうな椅子もそろっていて、あの三悪人たちが悠悠と寝転がれる長椅子までもが二脚あり、思いのほか、居住性が高められている印象を受ける。
ヴォロプもくぐり入って来たことで、内部がさらによくわかるようになっていく。
弧を描く壁面は、所所に龕 みたく長方形の凹みが彫られていて、それぞれ置く物が分類整理された収納になっていた上、板ガラスや鉄板の扉が、しっかりと閉じるように付けられた物まであった。
そうした家具類に目を奪われている照壬に対して、ヴォロプは壁面自体に灯りを照らし、そこに描かれていた照壬には奇妙としか思えない模様を、指で差したり、なぞったりと、調査でもしているかのごときチェックを入れていた。
その空間を、幾つかの部屋として区切るために、細い丸太を組み積んでできている隙間だらけのパーティションが、まず二人の侵入を妨げた。
ヴォロプが思い当てたランタンは、探すまでもなく見つかってくれる。
本当に入ってスグのパーティーションに引っ掛けられていて、照壬は早速、印籠に似た鋼鉄製の種火入れとともに下して、点灯作業にとりかかった。
一方ヴォロプは、行く手を阻むパーティションの開け方、もしくは退かし方を考えるのが面倒になったのか、正面きってまたも蹴りを入れ、丸太を折り砕いての突破を始める。
「……ランタン、てか、手提げ灯具に火を点けるまでの間くらい待てないもんかなぁ。その長すぎる脚はバタリング・ラムかってのっ?」
「意味わからないし、待つまでもないってだけよ~」
「ったく。魔人女子が押し込まれている檻がその裏にでもあったら、赫赫と照らしつける以上にビックリさせちまうだろが」
「フォ~なの、ドゥ~ルなの、イ~ディオなの? ちゃんと隙間から確認してるもの。また知らない言葉を使ったって、悪口を言ったのはわかるんだからっ」
「……その、ドゥールとイーディオってのも、フォーより蔑んだ悪口に聞こえたけどな」
「アラ? ちゃんと伝わっててよかったわ~」
「てかほら、灯りが点いたから。ヴォロプが持って照らしてくれよ。オレは、足で剣までは握れないからな──」照壬は、手提げ灯具を差し出しながら立ち上がる。
「てか、イチイチ鍛錬が足りないのよテルミは。アタシは足でだって剣くらい握れるもの」
ヴォロプは長い腕も鋭と伸ばして引っ手繰り、照壬から手提げ灯具を受けとった。
「ガチに? てか鍛錬は、祖父サマが諦めるくらいサボりまくったからなぁ。オレが育ったのは、平和ボケって罵られるほど、ほぼ全員が安全だと信じきっちまえる国だったもんで」
「でしょうねぇ。人族を操って悪事を働いてた雑魔にさえ、恩情をかけようとしちゃうくらいだし~」
そうツッコんできたヴォロプの表情に、灯りの具合か、含み笑いまでが浮かんでいるように照壬には見えてしまう。
バレていたのか? それとも、ただの買い被りすぎか?
内心で、疾風怒濤と狼狽が渦巻きだす照壬だが、そこは慣熟レヴェルに達していると言える常套手段、シレッと話頭を転じてお茶濁し……。
「てか、ここは大陸の一つだからか、広くて人が随分と少ないんだよな。まるでアメリカの荒野か、アフリカのサヴァンナを横断しなくちゃならないカンジで、どうにもリアルさがしっかり湧いてくれないんだよなぁ」
「まったく。知らないけど、ここはここで、テルミももうこっちの人なの。それを、いつまでも腑に落としきれないでいるとヤバいってことよ」
「だよな……」
「魔人とも対面すれば、いい加減、落ちきるんじゃないかしらぁ? ほらほら、照らしてあげるから行って行って、テルミが先に立つんでしょ」
「……了解」
照壬は、ヴォロプが蹴破った箇所をくぐって奥へと進入を開始する。
──歪な扇形をした地面にも、パーティションより細い丸太を並べ組んだ
大きな円卓や、座面と背凭れが広く頑丈そうな椅子もそろっていて、あの三悪人たちが悠悠と寝転がれる長椅子までもが二脚あり、思いのほか、居住性が高められている印象を受ける。
ヴォロプもくぐり入って来たことで、内部がさらによくわかるようになっていく。
弧を描く壁面は、所所に
そうした家具類に目を奪われている照壬に対して、ヴォロプは壁面自体に灯りを照らし、そこに描かれていた照壬には奇妙としか思えない模様を、指で差したり、なぞったりと、調査でもしているかのごときチェックを入れていた。