017 もちつもたれつで友好関係はサックリ

文字数 1,990文字

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 ノキオが人の体躯に膨らかせた各部位には、人同然とまではいかないものの、動くために必要最低限の感覚はあることが確認できた。

 ほぼ身ぶり手振りだった一先ずのレクチャーで、ノキオが自立して一歩が踏み出せそうな手応えをつかめた照壬は、安堵とともに見上げた空から陽が傾き始めていることを気色取り、野宿をできるだけ快適に過ごす準備にもとりかかりだす。 

「なぁノキオ、動作のシミュレーション中に悪いけど、一度上に登って枝ぶりを見させてもらってもいいかな? 寝床にする位置を決めておきたいんだ」

「かまいませんよ。……しっかりした枝にとりつくまでには幾分高さがありますので、この肩や頭を遠慮なく足がかりにしていただいて結構です」 

「そこまでの無礼はできないな。親しい仲にも礼儀アリで、礼儀を欠いて馴れ合いだすと親しさもどこか侮慢になって、ギクシャクしていくんだと……」

「こちらでも似たことを言います……ですが、どうしましたかテルミ?」

「え、何が?」

「先ほどと同じように、言葉を途切らせたカンジがしましたので」

「そうだった? ……たぶん、見限ることなくオレにいろいろ教え込んでくれた祖父サマに、今更ながら感謝しているだけなんだろな。てか、孝行を一つもせずにこんなハメになっちまったことが、気が狂いそうなくらい悔しいだけだな」

「それは気がまわらず、大変失礼しました」

「オレの方こそゴメンな。早くも無遠慮からの無思慮で無配慮だったな……」

「でしたらば、むしろ変に気をまわしてしまいましたね。やはりすみませんでした」

「ま、お互い変な気づかいはナシで。でもって、早速チョックラ失礼させてもらうな」

 照壬は下ろしていたバックパックをまた背負い、лсДをノキオの左側面へ立て掛けると、二歩の助走で躍り上がる。
 лсДのソードガードへ片足をかけ、柄頭も踏み台にしてさらなるジャンプで枝へと到達。
 両手でしっかりと枝を掴んだあとは、懸垂でなんとか全身を上げて、一つ深い息を吐いてから、軽捷に樹上探査へ入るその様はまるで仔ザルをオンブした親ザル。

 自分でもそう思えてならない照壬は、さらに登りながら「なぁノキオ、人猿族ってのはいないのか?」と尋ねた。

「……いませんけれども、その言葉が示す意味を詳しく説明していただければ、相当する存在や近い存在がいるかも知れません」

「てか、サル人間だな。チンパンジーやゴリラとかも引っ(くる)めて人族の種類にないわけ?」

「サルはいますけれども、サルですね。人種にはなく、この辺りの山にもいません。もっと南に位置する国へ行けば、今のテルミのように木の上で暮らす種類がいます。多くは耳が頭の上にあり、歩くのが苦手な原始的なサルです。チンパンジーやゴリラとなると、さらに限られた地域にしかいないはずです」

「それならゴブリンどもと間違えずに済むな……でも、ってことは食べるのかサル? ゴリラも?」 

「ゴリラやチンンジーなどは食されません。ゴリラは力が強いため、チンパンジーは賢いために狩るのが難しいのでしょう。原始的なサルは狩られて食されますけれども、人素族を除いてですね。稀に致死率の高い感染症の原因になるので」

「どこでもヤバい病気はあるんだな? ほかの人族は獣が混じっているだけあって、強いわけか……てか、ここも結構南に位置しているんじゃないのか? ノキオは違うけど、ほかの木や草は熱帯の植物ってカンジだし、なんか空気自体が暖かくないかな? にしては湿度が高くなくて、特にここは、時折吹きぬけていく風も気持いいけど……」

「ネッタイとは何でしょう? デウツクランの国土は北緯四三度〇八分から四八度三三分の間に広がるので春と秋ゾーネに跨いで属し、さらにこの山は秋寄りの春ゾーネにあります。それゆえ一年を通じて温暖であり、風が乾いているのは、ここへ辿り着くまでに雨を降らしきったからだと思います」

「……春ゾーネか、ここはそう言う気候区分なんだな? じゃぁ夜が更けると気温もどんどん下がることはないとか? 寒さ対策まで心配しなくてもいいのかな?」

「必要ありません。基本的にいつでも現在の気温のままなので」

「へ~、常春かぁ──」照壬はふと、存外アレルはいい場所に殞としてくれたのではないか? 
との思いをよぎらせ、心境を茫漠と複雑にする──「けど、その

ってのは引っかかるんだよなぁどうにも。

的に

もあるとか、干害も? これは、またダジャレたわけじゃないからな」

「故意でなければダジャレではないのですか? けれども、自然に出てしまう方が救いようがないので、テルミの言うところのヤバい情態ではないでしょうか?」

「てか、いいんだそんなヤバさは。別に若い女性や女子に限らず、そんなことでオレをウザがるような奴は、オレの方からお断りだし。で? 一体どんな例外的な場合があるのかを教えといてくれよ」
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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