072 ケ・ケ・ケル・ケル・ケレ・ケヨ

文字数 1,647文字

 その半球の天頂部には、円く星空が覗けていて、地上につながる口が開いていることだけでなく、上から大きなガラス蓋まで施され、昔人の遺跡にしては凝った意匠も見て取らせた。

「助かったわ~。通路の低さがどこまでも続いてたら、アタシ爆発しちゃったかもぉ」

 ヴォロプは、層一層に縦長な大の字を描いた伸びをする。

「そりゃ助かったけど、ここは何なんだろな一体?」

「ここの壁は、これまでぬけて来た岩とは色や質感が違って、アタシの町にもある火山がつくった洞窟に似てる気がするぅ。壁をもっと滑らかでピッカピカにして、歌劇や演奏会をする音楽堂にされてるの」

「へ~。なら、溶岩洞を人がキレイなドームに整形して、上の裂け目とつなげたんだろうな。光の反射具合で、ここの壁も結構滑らかなのがわかるけど、どんだけ強烈な思い込みがありゃできるのやらだよな?」

「知らな~い。けど、似たような思い込みが集まると、あっちこっちで張り合っちゃって、どんどん強烈になっていくものでしょ?」

「なるほどな……てか、ガラスはいつからあるんだよ? 遺跡の一部の割りには、透明度が高そうだし、大きくて厚みもありそうだし。一応、凹面にもされているしな……」 

「いつからなんて知らないくらい、ガラスも昔からあるけど、当然、年代は全然違うでしょ。今嵌っている天井のガラスは、あの悪党どもが、合わせてつくったに決まってるわ」

「……ごもっとも、だったな」

「てか、開け閉めできるようにもされてるのかも~? 水は染み出してないようだけど、採光や換気のために勿論のことだし。ここで生活するには、長年の間で積りたまってたはずの土砂とかを出すには、あの通路だけだと辛労すぎるもの」
 
「……だな。でもなぁ、そんな実実(まめまめ)しい作業をする連中だったとは思えないんだよな、あの三人もエシャにしても。上で部屋に仕切っていた丸太の壁とか、中に置かれた家具とか、エシャが命じてつくらせたり揃えさせたり、できるカンジがまるでしないんだけどな」

「まだほかにも、悪党がいると思うわけ?」

「……おそらくだけどな。でも今ここにはいないな、いたらエシャ自らが出て来る前に、オレたちを排除しろって、先に出されているはずだからな」

「ま。ごもっとも、だわね……」

「エシャは、残りの連中を待っていたんじゃないのかな? 魔人女子は、やっぱ別の荷車で、人族よりも厳戒体制で運んだ方が無難だろうしな」

「でしょうね。誘拐してここへ運び込むまでと、それが本人に気づかれたあとでは、危険度が違うに決まってるもの全っ然っ」

「な。……てか、檻から出さなくてもヤバいわけ、魔人ってのは?」

「それは、もってる魔力の強さと属性とかにもよるわよ。傍に寄るだけで、おかしくされちゃう天魔ヤバなのもいるそうだし」

「……ガチかぁ。もしそんなのだったらヤバいし、充分あり得るよな? 使い方さえ頭をヒネれば、檻に入れといたままの状態でだって、しっかり悪用できちまいそうだもんな」

「そ。だからこそ、魔人なんかにまで手を出すんだしぃ」

「……ったく。よくもまぁ、手を出す気になれるもんだし、そこまでの悪知恵が働いちまうもんだよなぁ。それ以前に魔人の方も、凄いからって、この世界を甘く見すぎなんだっての」

 照壬が思わず、言外に喚起させてしまったチョットしたニオわせを、センシティヴと言うよりシャープに感知するヴォロプだった。

「それ~、遠まわしに、アタシのことまで言ってやしなぁい?」

「……いや別にっ。こんな時に、変な気までまわさないでくれよな」

「あとで蹴るから別にいいけど~」

「え~っ。せめてケツにしてくれよな、できたらケツッペタにさぁ」

「アラいいのぉ? じゃぁツケとくわ~」

「……不意蹴りはダメだからな、絶対っ」

「こっちではそれ、不意打ちって言うんだけど~」

「あぁ、オレの世界でもそうだ、正しくはな」

「まったくモォ~……てか、ほかにいる悪党って結構多そうじゃない? 実実しいのが、あと一人や二人くらいじゃ、いろいろと大変すぎるようにワタシも思うし」
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登場人物紹介

名前:照壬慧斗(てるみ・けいと) 祖父に躾‐育てられたお祖父ちゃんコ 一見至ってフツウの高一だがオトナびていると言うより発想からして老けているカンジ なので、どうせなるようにかなりゃしないからと人間関係や社会に対して漠然とした恐れがなく、自分が納得できる道のみをマジメに地道にやれるだけ進み続けるタイプの自己中傾向 しかしながら目立たないので浮きもしない、だが浮いたヤカラの邪魔が入ると途端にとんでもなく脱線してしまう危うさにも気づけずにきた大甘ちゃん……

名前:ヴォロプテュロス=フワム・ケールブロム(愛称:ヴォロプ) 本年度のレギナ・ルテ・ヴヴ

当世界きっての鬼ヤバ存在の一つである大量破壊人間‐ボムバーナ ロマリア国の西部ヴヴ・トゥプルス火山の南麓に位置するフワム半島出身 

半島自体が村で、村の子供が義務的に完全習得しなければならない必須教育を主席修了した女子をレギナ・ルテ・ヴヴと呼び、その年の村の顔役として各国に招かれる言わばこの世界のミスコンクイーンみたいなモノ



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