075 相貌心理学による分析精度は99%だし
文字数 1,762文字
一応それは、棒っきれで小突かれては罵られてもいたのなら、棒っきれが届く範囲内にも、扉寄りにも、魔人女子はいないだろうと、一頻り考えた結果ではある。
それも信じて、照壬はлсДを振り下ろす立ち位置を定めにかかり、決まると、中段から真っ直ぐに振り上げた右上段にлсДをかまえた。
そこでヴォロプも、ここから、もっとも近い魔界域と隣接するオシュウェンシムとアーゼンでも、半魔人が占める割合が多い土地の方言で、
・ソポ・ティス・キネス、ミン・キニシーテ!」を空かさず告げやる。
照壬もそれを合図に、咒縛機檻の構造だけを強くイメージしてлсДを大きく振り下ろす。
──相も変わらず手応えはない。
けれどもлсДが檻の角を斬り入って、剣身のほぼ半分が、奥底へと消えてから抜き出たことは見誤りようもなかった。
照壬は、斬ったはずの前面から一〇センチ強辺りにлсДの切っ先を這わせて、あるはずの切れ目を探す。
そして、わずかに引っ掛かりを感じた箇所を、強烈な突きをたたき入れるイメージでлсДを刺し込む──。
すると、檻の前面の全体が揺れズレて、のっそりと倒れたのに反し、静寂までをも圧し裂くがごとき重重しい残響を轟かせると、檻が正方形の大口をパックリ開いた。
「……うわっ、ガチか~。悪いヴォロプ、絶対に驚かせちまったよな?」
後ろへ飛び退いただけの照壬には、まだ檻の内部がよく見えない。
全容が隈なく見えているはずのヴォロプも、驚きからフリーズしてしまっているようでもないのに、勿怪顔とも怪顛顔ともとれる表情をしているだけ。
返答をしてくれる気配も窺えないため、照壬から怖ず怖ずと檻の正面へと躙り出てみる以外にない──。
鉄檻の中には、体格や子供っぽい模様の入った薄いピンク色の服装から判断して、女子と言うより、まだ幼 めいている少女が、仰向け様にうち倒れていた。
さらに目を凝らしてよくよく見れば、長く青黒い髪が蔽い隠しきれていない顔が、人のそれとは、大きく異なっていることが疑いたくなるほど明らかになる。
それはもう、グロテスクな造作 で、胸元にまで左右に複数本の脚を広げるようにして、巨大な毛ガニかタランチュラが張りついているとしか思えない……。
照壬もさすがに、魔人少女の健康状態の心配どころではなく、ついつい眉を顰めてしまう。
「……アタシも初めて見ちゃったけど、吸魔虫だわあれ。魔族を暫くの間、動けなくするには最適な方法だけど、子供にまでなんてことするのかしらっ」
「てかムシかよ、にしてもデカッ。……あれが魔族の顔なのかってガチビビった~っ。別に顔がどうこうで助けるわけじゃ全然ないことは百も承知だったはずなのに、オレって人間の人間性が一瞬、震度七以上でグラついちまったよなぁ……」
「アタシもだわ……高がムシでも、馴じみがない魔物は苦手みたい……」
「ムシは高がじゃないっての。だから凹むのはやめようなお互い。で、どうすればいい? あのムシも、斬れば済んじまう問題なのかな?」
「そこまでしなくて大丈夫なの。アタシがラァピアで一突きすれば剥がれるでしょうけど、そのあとが大問題よ。いつからいろいろ吸われて麻痺が続いてるのかわからないし、そもそも吸魔虫なんてこの大陸にはいないんだから」
「そ? てか、そうだったのかよ」
「フリクィヤハでも奥地の魔物で……その子は、どこから攫われて来たのかしら? そこまでどうやって帰したらいいんでしょ」
「……てか、困るのは、とにかくあのムシを剥がしちまってからにしないか? あの子から話が聞ければ、ノキオに伝えてアドヴァイスってか、助言をもらえるし」
「そうね。純粋の生粋魔族なら、直接ノキオが情報を広めて、その子の親を呼べるかも知れないもの」
「その手もあるな。もし話が聞ける状態じゃないとしてもだ、既にノキオが、誘拐被害を訴えていた魔族の情報を見つけてくれているかもだしな」
「……ウン。……アタシもグラついちゃうわ~、自分にできないことはなかなか考慮に入れられないの。早くノキオと話せるように、ガチでガンバらなくっちゃ……」
「だな。で、あの子に近寄っても大丈夫なのかな? あのムシ、より元気なオレたちに飛びかかって、寄生のしなおしってか、宿主替えとかしないよな?」
それも信じて、照壬はлсДを振り下ろす立ち位置を定めにかかり、決まると、中段から真っ直ぐに振り上げた右上段にлсДをかまえた。
そこでヴォロプも、ここから、もっとも近い魔界域と隣接するオシュウェンシムとアーゼンでも、半魔人が占める割合が多い土地の方言で、
後ろへ下がって
、動かないで
を意味する「ピ・ソポ・ティス・キネス、ミン・キニシーテ!」を空かさず告げやる。
照壬もそれを合図に、咒縛機檻の構造だけを強くイメージしてлсДを大きく振り下ろす。
──相も変わらず手応えはない。
けれどもлсДが檻の角を斬り入って、剣身のほぼ半分が、奥底へと消えてから抜き出たことは見誤りようもなかった。
照壬は、斬ったはずの前面から一〇センチ強辺りにлсДの切っ先を這わせて、あるはずの切れ目を探す。
そして、わずかに引っ掛かりを感じた箇所を、強烈な突きをたたき入れるイメージでлсДを刺し込む──。
すると、檻の前面の全体が揺れズレて、のっそりと倒れたのに反し、静寂までをも圧し裂くがごとき重重しい残響を轟かせると、檻が正方形の大口をパックリ開いた。
「……うわっ、ガチか~。悪いヴォロプ、絶対に驚かせちまったよな?」
後ろへ飛び退いただけの照壬には、まだ檻の内部がよく見えない。
全容が隈なく見えているはずのヴォロプも、驚きからフリーズしてしまっているようでもないのに、勿怪顔とも怪顛顔ともとれる表情をしているだけ。
返答をしてくれる気配も窺えないため、照壬から怖ず怖ずと檻の正面へと躙り出てみる以外にない──。
鉄檻の中には、体格や子供っぽい模様の入った薄いピンク色の服装から判断して、女子と言うより、まだ
さらに目を凝らしてよくよく見れば、長く青黒い髪が蔽い隠しきれていない顔が、人のそれとは、大きく異なっていることが疑いたくなるほど明らかになる。
それはもう、グロテスクな
照壬もさすがに、魔人少女の健康状態の心配どころではなく、ついつい眉を顰めてしまう。
「……アタシも初めて見ちゃったけど、吸魔虫だわあれ。魔族を暫くの間、動けなくするには最適な方法だけど、子供にまでなんてことするのかしらっ」
「てかムシかよ、にしてもデカッ。……あれが魔族の顔なのかってガチビビった~っ。別に顔がどうこうで助けるわけじゃ全然ないことは百も承知だったはずなのに、オレって人間の人間性が一瞬、震度七以上でグラついちまったよなぁ……」
「アタシもだわ……高がムシでも、馴じみがない魔物は苦手みたい……」
「ムシは高がじゃないっての。だから凹むのはやめようなお互い。で、どうすればいい? あのムシも、斬れば済んじまう問題なのかな?」
「そこまでしなくて大丈夫なの。アタシがラァピアで一突きすれば剥がれるでしょうけど、そのあとが大問題よ。いつからいろいろ吸われて麻痺が続いてるのかわからないし、そもそも吸魔虫なんてこの大陸にはいないんだから」
「そ? てか、そうだったのかよ」
「フリクィヤハでも奥地の魔物で……その子は、どこから攫われて来たのかしら? そこまでどうやって帰したらいいんでしょ」
「……てか、困るのは、とにかくあのムシを剥がしちまってからにしないか? あの子から話が聞ければ、ノキオに伝えてアドヴァイスってか、助言をもらえるし」
「そうね。純粋の生粋魔族なら、直接ノキオが情報を広めて、その子の親を呼べるかも知れないもの」
「その手もあるな。もし話が聞ける状態じゃないとしてもだ、既にノキオが、誘拐被害を訴えていた魔族の情報を見つけてくれているかもだしな」
「……ウン。……アタシもグラついちゃうわ~、自分にできないことはなかなか考慮に入れられないの。早くノキオと話せるように、ガチでガンバらなくっちゃ……」
「だな。で、あの子に近寄っても大丈夫なのかな? あのムシ、より元気なオレたちに飛びかかって、寄生のしなおしってか、宿主替えとかしないよな?」