069 またいつか会えることを祈って
文字数 1,843文字
「偶然のイタズラで誕生した祖先から、魔族でも、トリウネが守護する国でヘッチャラに生きられるようになった運命の皮肉を、これからは逆手にとって活かせちまえるんだ」
「……まずは、その、要らんことを叩きまくる頤 を貫いてやるかねぇっ……」
「そんなシケたこと言わないで、全土に轟く浮名でも、ドド~ンとブチ立ててみりゃいいのになぁ、折角のサキュバス系なんだからさ」
「……アァ~ッ? 何だってのさ! こんの、素チクショウめがぁ」
「へぇ~。犬チクショウとは言ったけどな、人素族にはそう言うんだ?」
「ほんに怨むよ、人素族なんかぁ。ワチキに毒があれば、こんな、扇情攪 てが微微とも効かない、不粋な片生り小僧に挵 らかされることなんかないってのにさぁ。これも、長いこと人族からいいように使われてきちまった咎殃 だぁ……」
泣き言を最後に、エシャは照壬へと突進を図った。
全身を幾本もの槍みたく突い立たせて、それら数本毎に時間差を入れて、照壬の上下左右から強襲する。
鋭い触手の束に包み込まれる格好になる照壬だったが、蛍光グリーンに照り映えるエシャの攻撃は、照壬の両眼に明明と捉えられていた。
軽く突き出したлсДに、次から次へほぼ自動的に撫で斬りにされて、音もたてず蒸発するかのように消え失せていく。
そしてエシャは、一切の刺し突きを照壬に斬り散らされて、その体をラグビーボール程度のサイズにまで減耗させてしまった。
宙を足掻きながら地面へ落ち触ればうと、弾んで再びホワワ~と浮き上がりながら、せめてもの一矢を報いるために、残る総身で照壬への突き立てに出る──。
照壬はクリケットのバットよろしく、側面を向けたлсДをすんがりと大振りにして、そのエシャをベッチャンッ! 岩盤の地面へ打ち平めて、粉微塵に跡形もなく砕き消しおおせた。
かまえを解いた照壬が、лсДを弛緩させた右手一本で提げ持つと、岩盤の表面をチョロチョロ伝い流れる水のたてる音だけが、二人の耳に染み入りだす……。
「なんだか物悲しくもカンジちゃうけど、お見事ねテルミッ。ガチに一人で、一方的に斃しちゃうなんて」
「そ? てか──」
「ンン? 何なのよ」
人族に隷従するために生まれた存在だけに、人からの言葉を、完全に聞き捨てることなどできなかったエシャが、照壬には不憫に思えてきてしまっていた。
それも、無性なまでに……。
「てか、あまりに婀娜洒落 かました人族女性っぽすぎる魔族だったってだけだな。男を喰いモノにし慣れている分、戦闘慣れはさほどしていなくて助かった。エシャ自身が嘆いていたとおり、毒なんか使われたらヤバかったって」
「そ? けど、そうだった時でも大丈夫ぅ、毒消しのカルタードを使ってたもの」
「そんなのまであって、もたせてくれていたのかよ? この先も用心は欠かせないなぁ……」
「そ。それでは、いざ乗り込みましょ。解放するだけとは言っても、お次はガチ魔族なんだから、同じように行くとは思わないでよ。魔人ってことだけど、ちゃんとした人っぽくても、この言葉が通じるとは限らないんだからっ」
「……了解。だけど、オレがまた先に立つ。ヴォロプはレギナ様だから、ほかの言葉も話せるんだったよな? オレを盾にして、あれこれ声をかけてみてくれ」
「了解だけど……テルミも、レギナでも教わる機会がなかったことをあれこれ知ってて、やっぱりディスロケーター様だったのよねぇ」
「てか、あんなのは全部、オレの祖父サマが、駄駄こねするオレをやり込めるために、その場凌ぎで吐きタレていた講釈の一つにすぎないっての……」
「まぁ大変、テルミは小童だものねぇ」
「……でも、あんな、ヘタこきゃ一気にヤバくなるような場面だったってのに、ありありと思い出されたから不思議だよな。女を武器にするような女性に騙される男は、結局一生孤独に生きるハメになるとも叩き込まれたしな……」
「そ? てか、もう勿体ないし驚かすといけないから、テルミを信じて溢光のカルタードは使わないわよ、しっかりと目も馴らしながら行ってちょうだいね~。荷車には見当たらなかったし、きっと入ってスグのどこかに、あの三人が使ってた灯具があるはずぅ」
「馴れるような暗さなのかな? 入口の辺りからして真っ黒にしか見えないんだけど……」
「そうなの? 眼はアタシほどじゃないんだぁ」
荷物を下しながら鮮やかな一粲を披露するヴォロプに、照壬も軽く顰笑 で応えて、闇黒に口を開いた岩盤の裂け目へと、二人は警戒心を高めながら歩 み連 る。
「……まずは、その、要らんことを叩きまくる
「そんなシケたこと言わないで、全土に轟く浮名でも、ドド~ンとブチ立ててみりゃいいのになぁ、折角のサキュバス系なんだからさ」
「……アァ~ッ? 何だってのさ! こんの、素チクショウめがぁ」
「へぇ~。犬チクショウとは言ったけどな、人素族にはそう言うんだ?」
「ほんに怨むよ、人素族なんかぁ。ワチキに毒があれば、こんな、
泣き言を最後に、エシャは照壬へと突進を図った。
全身を幾本もの槍みたく突い立たせて、それら数本毎に時間差を入れて、照壬の上下左右から強襲する。
鋭い触手の束に包み込まれる格好になる照壬だったが、蛍光グリーンに照り映えるエシャの攻撃は、照壬の両眼に明明と捉えられていた。
軽く突き出したлсДに、次から次へほぼ自動的に撫で斬りにされて、音もたてず蒸発するかのように消え失せていく。
そしてエシャは、一切の刺し突きを照壬に斬り散らされて、その体をラグビーボール程度のサイズにまで減耗させてしまった。
宙を足掻きながら地面へ落ち触ればうと、弾んで再びホワワ~と浮き上がりながら、せめてもの一矢を報いるために、残る総身で照壬への突き立てに出る──。
照壬はクリケットのバットよろしく、側面を向けたлсДをすんがりと大振りにして、そのエシャをベッチャンッ! 岩盤の地面へ打ち平めて、粉微塵に跡形もなく砕き消しおおせた。
かまえを解いた照壬が、лсДを弛緩させた右手一本で提げ持つと、岩盤の表面をチョロチョロ伝い流れる水のたてる音だけが、二人の耳に染み入りだす……。
「なんだか物悲しくもカンジちゃうけど、お見事ねテルミッ。ガチに一人で、一方的に斃しちゃうなんて」
「そ? てか──」
「ンン? 何なのよ」
人族に隷従するために生まれた存在だけに、人からの言葉を、完全に聞き捨てることなどできなかったエシャが、照壬には不憫に思えてきてしまっていた。
それも、無性なまでに……。
「てか、あまりに
「そ? けど、そうだった時でも大丈夫ぅ、毒消しのカルタードを使ってたもの」
「そんなのまであって、もたせてくれていたのかよ? この先も用心は欠かせないなぁ……」
「そ。それでは、いざ乗り込みましょ。解放するだけとは言っても、お次はガチ魔族なんだから、同じように行くとは思わないでよ。魔人ってことだけど、ちゃんとした人っぽくても、この言葉が通じるとは限らないんだからっ」
「……了解。だけど、オレがまた先に立つ。ヴォロプはレギナ様だから、ほかの言葉も話せるんだったよな? オレを盾にして、あれこれ声をかけてみてくれ」
「了解だけど……テルミも、レギナでも教わる機会がなかったことをあれこれ知ってて、やっぱりディスロケーター様だったのよねぇ」
「てか、あんなのは全部、オレの祖父サマが、駄駄こねするオレをやり込めるために、その場凌ぎで吐きタレていた講釈の一つにすぎないっての……」
「まぁ大変、テルミは小童だものねぇ」
「……でも、あんな、ヘタこきゃ一気にヤバくなるような場面だったってのに、ありありと思い出されたから不思議だよな。女を武器にするような女性に騙される男は、結局一生孤独に生きるハメになるとも叩き込まれたしな……」
「そ? てか、もう勿体ないし驚かすといけないから、テルミを信じて溢光のカルタードは使わないわよ、しっかりと目も馴らしながら行ってちょうだいね~。荷車には見当たらなかったし、きっと入ってスグのどこかに、あの三人が使ってた灯具があるはずぅ」
「馴れるような暗さなのかな? 入口の辺りからして真っ黒にしか見えないんだけど……」
「そうなの? 眼はアタシほどじゃないんだぁ」
荷物を下しながら鮮やかな一粲を披露するヴォロプに、照壬も軽く