057 マッタリこそが夕食後の醍醐味
文字数 1,992文字
深さとなると皆目見当もつかないが、何かが釣れるかもしれない気配は充分。
なので照壬は、食後の片づけを終えたあとは、明日の朝食のためにと、残り火の明かりで仕掛けづくりに忙しんでいた。
釣り糸と針は、ウタビィの勧めもあって買いとってもらわずにおいたトラウト用だが、とりあえずは、一匹でも二人分の身がとれそうなナマズ狙いでセッティングにかかる。
気温的に、焚き火を絶やさないようにする必要はない。
むしろ、襲い易い素人族がそこにいる可能性の高さを知らせてしまうだけの炎光は、最初に昇る月が低い内に消してしまうことが、ここでの野宿の基本だった。
今夜の寝床に決めた大樹の太枝も、その寝心地に
樹上から「さっさと消しちゃって~」と急き立てられだしもする照壬だが、細細と燃え残る
「……どうしたの? 異常あったわけ?」
「すまん、いやサーリグ、驚かせたな。てか、チョットおかしな折れ木って言うか、倒木が浮んでいただけ。スグ消すから、もう少し待ってくれ」
「モ~、早くしてねっ。テルミってば、変に
照壬は言い返しの口手間も惜しみ、幹に立てかけておいたлсДをベルトから抜くと、水辺へ飛んで返す。
そして深呼吸も精神統一の寸間も配らず、チャッチャと水面に浮かんだ太い枯れ木へлсДを振り下ろし、斬り剥いだその木の外皮を手に入れる。
鍋の火の消火および燃えカス廃棄も完了させて、眼を暗順応させながら、照壬は揚揚とヴォロプの下まで帰り着く。
「ほら、見てくれよこれ。使えそうじゃないかな?」
そうヴォロプへ、照壬がлсДも持つ手で掲げ見せるのは、ノキオのツリーマンの顔そっくりな枝ぶりをした倒木の表層だった。
裏側の滑らかさも、仮面にできる斬り離し具合。
「……まだ月明かりが弱くてよく見えないから、何とも言えないんだけど。てか、やっぱりガチで小童だわねぇテルミは」
「そ? 早速仕上げて、ノキオに見せてやらなくちゃ。山を下りてから、厄介な質問をするばっかで、ロクすっぽ笑えるダベりもできてないもんだからなぁ」
照壬は仮面としてきちんと仕上げるために、覗き穴と紐を通す穴を開ける細工をしようと、調理に使い、洗って自然乾燥させていた刃物を、樹の瘤の上から拾い上げ、水際とは反対側へ歩きだす。
「チョット、どこ行っちゃうのよ?」
「てか、スグそこ。この樹の枝張り自体が太くて多くて邪魔だから、月の光を遮られない、手元がよく見える所まで離れるだけ」
「てか、離れると、しゃべれなくなってつまんないでしょ。声を大きくするのもヤバさを高めるだけなんだから~」
「……つくづく女子だよな、ヴォロプもやっぱ。スグ済むし周囲への警戒は怠らないから、どうぞ一人でまったりと、初野宿の醍醐味を本格的に堪能し始めといてくれよ」
「フン、そうさせてもらうわっ。まったく、一緒にいるアタシを差し置いて、山のオピを愉しませる方が大事だなんてどうかしてるぅ。逆にアタシがテルミの世界へ行ったとしたら、スグに爆発しちゃいそう」
「ったく、女子全開にもほどがあるよな。けどまぁそんなことは心配絶無だな。きっとオレの世界でもそう言う点ではこっちと同じで、どんだけ痛い目に遭わされようが性懲りもない、女子好き野郎の方が多いだろうから」
「だからぁ、そんなテルミの世界の話を聞きたいんだってば。何せ初めての野宿なんだもの、こんな木の上でガチで眠るだなんて~」
「はいはい。たんと話して聞かせるからさ」
「ネェネェ、そのマッタリとかダイゴミってどう言う意味? 一人でしちゃうモノなの?」
「……てか、その答えをチョットの間だけ、音無しく考えていてくれよ。掠りでしたら、何か賞品を出してもいいし」
「何何、賞品って~? まだそんな物を隠しもってたわけ?」
「もっちゃいないけど、オレのいた世界で女子ウケしていた何かを、斬り出すことはできるかもだからな。ま、それもお愉しみに、だ」
そう応じた照壬が、まだオボオボしい月夜影の中にどっかりと
──刃物が尖端部まで鋭利だったために、物の一〇分で、手器用に必要な穴をノキオ面へ開け終えた照壬は、その出来映えを月で照らしながら浮かべる表情も実に満足げ。
お次は、紐になりそうな蔦草を探して喜喜と