001 思いあがりも罪のウチ
文字数 1,912文字
ホームルームが終わり、
「チョット待ちなさいよ照壬クンッ。まさかこのまま帰ってしまうつもり?」
呼び止めたのは、先日、自ら立候補してまでクラス委員になった
反射的に立ち止まりふり返っていた照壬だが、そんなヒロイン気取りたがりのお節介全開女子は完全にどうでもいい照壬なので、氏名は当然ながら、クラス内で定着している愛称‐
あやテア
さえも記憶に留まってくれていない。そのため、言い返しに野暮堅くなるほどの間が空いた……。
「勿論な。帰るけど、何かオレに用なのか?」
「私じゃなくて、担任に職員室へ呼ばれていたでしょっ。今日も遅刻したからじゃないの? それを、まさか忘れちゃったわけ? って言ってるのよ私は」
「……忘れてない。でも何で担任の指図に従わなくちゃならないんだ?」
さらりと真顔で言って退ける照壬に、指神は愕然。しかし、もちまえの気の強さが唖然とまではさせず終い。
「……ウソでしょっ、マジで言っちゃってるわけ照壬クン……」
「マジもガチだけどな。ならあんたは、担任にラヴホで待っていると言われて行くのかよ?」
「……話が別だわ、極論を言わないでよっ」
「突き詰めれば同じだろ。それにそもそも、あんたには関係ないな」
「……ないことはないわよ関係は、私はクラス委員だもの。照壬クンもクラスの一員だし」
「ならオレの代わりに行っとけば? 担任によろしくな」
そう言い捨てて前へ向きなおり歩きだした照壬に、今度ばかりは「そんな……信じられないぃ……」と言葉を失っていく指神だった。
そこへ駆け寄って来たのが寺井厚太、照壬の前席に座る身勝手野郎で「おいおい~、まぁたノりの悪さでシラけさせてやがるのか照壬ぃ? それも、あやテアのハイ‐マインデッドな美貌を曇らせてまでって、どういう根性してんだよっ」と、すっかり慣れた手つきで照壬の後頭部へスナップを利かせた平手打ちによるツッコみを入れる。
それは結構な痛さにもかかわらず、これまで黙って受けるままでいた照壬だが、今のが照壬にとって堪忍袋の緒がブチ切れるトリガーとなる一〇回目。
しかも即応、照壬は遠慮も容赦もない全力で通学バッグを打ち振って、教科書が重なりそろい重く硬くなっている面でも角の近くを、寺井の右こめかみへとブチ込み返す──。
寺井は吹っ飛びそうになりつつも、中肉ながら照壬より五センチ高い一八〇センチ足らずの図体を鯱張り返らせて踏み堪えた。
が、それは脳震盪を起す寸前の、これ以上は脳をゆらされたくないという反射的な
敢えなく窓際までひろろいだ寺井は、壁へも自ら後頭部を打ちつけて崩れ落ち、今度は完全に気絶してしまった。
それでも照壬のやり返しは終わらない。数歩ながら助走をつけたインステップキックで寺井の左手首を蹴りぬき、そのあとも同じ箇所にストンピングを入れにかかる。
「……やめて、やめなさいよ照壬クン! 何しちゃってるのっ」
周辺に居合わせていた女子たちからも、いきなり起きた目の前の惨況が理解できない混乱からの控えめな「キャーッ」があがり、廊下の行き交いはフリーズ状態に。
「やれやれだな。見てたろあんた? 先に手を出したのはこいつだ。それも今さっきだけじゃない、入学からほぼ毎日あんなカンジで、何の躊躇いもなく軽軽しくオレの頭をはたき続けてくれていやがったんだから自業自得だろ。骨にヒビを入れてケツが拭けないもどかしさくらい味わわせてやらないと、スグに忘れちまうに決まってるからな、この手のヤカラは」
逆に呆れ入っている照壬の口ぶりに、指神の舌も翻りきれなくなる。
「けどそんな……なんてこと……」
「なんてこと? オレにはこれがあたりまえだな。人を見た目で判断してナメんじゃねぇよ、てか、何で高校生にもなってワザワザこうしてオレが教え込んでやらなくちゃならない? ナメ腐ってるあんたも、こいつと並んで転がりたいわけか?」
「エェッ……そんなことしたらタダじゃ済まないんだから、って言うか済まないわよもう、何週間もの停学か、最悪、退学処分よきっとっ」
「そ? じゃぁ明日からはもう来なくていいんだな……あんたも、ヘタにシャシャってオレを呼び止めなければこんな様にはならなかったってこと、一生忘れんな。すぎたおせせは単なる自己満、人生を歪ませるんだ。いい加減思い知っとけっ」
そう捨てゼリフする照壬は既に、指神に背を向けて歩きだしていた。