022 異世界も何かとウザクサそうなんだが
文字数 1,907文字
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ビクンッ、と驚覚して上体を跳ね起す照壬だった。
その弾みで、枕上 に寝かし置いていたлсДも落下させてしまい、完全に目を覚ます。
次の瞬間、照壬は、何に怯えあがってそんなハメになったのかさえすっかり忘れている自分にムカつきまで覚えてくるが、悲愁な悪夢を見ていたことだけは確実で、滲む視界を手の甲で擦り拭いつつ欠伸よりも先に溜息を吐いた。
「モルグェンに感謝をテルミ。しかしながら、夢見が悪かったようですけれども」
「……それがこっちの朝の挨拶か、モルグェンに感謝をノキオ」
「モルグェンとは、朝を招いてくださる神の名なのです」
「そ? てか、ゴメンなлсДなんかを落としちまって……悪夢から、目覚めてのがれられない状態が地獄なんだと言っていたけど、祖父サマはつくづく正しかったな……」
今度は溜息混じりのアクビと伸びをする照壬だが、ノキオに「テルミ! 急いで剣をっ」と大呼されて、竦 ませた自身をも枝から落としそうになる。
ノキオがふためいて促した理由もすぐ様わかる──落ちたлсДへ飛びつき、奪い去ろうとしている小柄な影が、地面へ顔から激突したくない一心で枝の上に必死に留まる照壬にも見て取れた。
「……これがデヴィルキンかよ? 皮膚が緑じゃなく、青黒い灰色なんだな。確かにヤマネズミ、てかイオークとサルの合いの子っぽいかも、全身が毛に覆われてて……」
照壬の声に反応して枝を見上げたデヴィルキンのドングリ眼 には、白眼がなく小動物特有の愛嬌があるものの、尖った耳は人間と同じく側頭部についており、腰も立ち、背筋の伸びた二足歩行をしている。
材質は布ではないが、袋を被り頭と両腕を突き出しただけという感じの服まで着ていた。恰も特殊メイクだけを本格的に施された幼児のよう。
「やはり、照壬の剣に目をつけていたようですけれども……」
「てか、大丈夫そうだノキオ。さすがは聖剣の疑いがあるオレ専用剣、ほかの誰かじゃとんでもなく重くなって、絶対に持ち上げられないってのはガチらしい。こりゃ完璧な盗難防止セキュリティーだな」
デヴィルキンは、強引に指先で土をも掻き掘るようにして握ったлсДの柄を、全体重をかけて引っ張り運ぶ作業に戻っていたが、лсДはピクとも動かない。
数回大きく体をふって引いても全くダメなことからあきらめて、ネズミのすばしこさで茂みへと駆け消えた。
照壬は尻を軸にして体を回し、枝の上から両足を垂らして腰掛けた恰好になってから飛び下りる。
そしてлсДが収まる帯剣ベルトの一端を掴んでлсДを難なく拾い上げ、シャツを羽織るかのように軽らかに脇掛けた。
「もう二度と、この山のデヴィルキンたちがテルミの物を狙うことはないでしょう」
「なら、ありがたいけど……変に有名になっちまうのは落ち着けないよなぁ」
「変でしょうか? けれどもワタクシもあきらめなくてはなりませんね、その剣を少しお借りして、テルミに教えていただいたワザを実演してみようと思っていたので」
「てか、オ~ッ。オレが眠っている間に、また随分と幹から浮き上がったじゃないかノキオ。この分なら今日、日が暮れる前に斬れるんじゃないかな? ならそれまでに、オレが適当な倒木を見つけて、振り易い木刀をつくってやるよ。それで充分事足りるって、教えたのは斬るワザじゃないからな」
「……ボクトウとは、木剣を意味する言葉でしょうか?」
「まぁそう。てか、片刃の剣を刀と言ってな、サムライやニンジャも使っていたはずだ。こっちではレイピアとかブロードソードっぽいと説明すればわかるかな? 細身で、でもサムライのはチョット反ってたりもする、ニンジャのはそれより短めで真っ直ぐだけどな、刀と剣をひっ包めてオレの国では刀剣と言い表したんだ」
「はい、わかりました。デウツクランではラァピア、バーツスデァーツと言うのが一般的ですけれども。テルミの言葉は、あちらこちらの訛りが雑じるようですね」
「フ~ン、てかゲロヤバじゃないかよ。博識なノキオ相手だから、一応ちゃんと成立しているわけかオレとの会話は? オレはまだ訛り方の違いが全然わからないけど、そうした剣があるってことは、貴族もいて騎兵もあるってことだよな?」
「はい。騎兵は軍制の一部隊として王や国家の下で組織されるだけでなく、私財で設けている大貴族もいます。大貴族ともなれば、所有する領地が広く大きな世業施設も数多くありますから、守りは自分で堅めなくてはなりませんので」
貴族という言葉や存在には、漠然とながらも忌避感が湧くまでのゲスなイメージしかない照壬なので、それに
ビクンッ、と驚覚して上体を跳ね起す照壬だった。
その弾みで、
次の瞬間、照壬は、何に怯えあがってそんなハメになったのかさえすっかり忘れている自分にムカつきまで覚えてくるが、悲愁な悪夢を見ていたことだけは確実で、滲む視界を手の甲で擦り拭いつつ欠伸よりも先に溜息を吐いた。
「モルグェンに感謝をテルミ。しかしながら、夢見が悪かったようですけれども」
「……それがこっちの朝の挨拶か、モルグェンに感謝をノキオ」
「モルグェンとは、朝を招いてくださる神の名なのです」
「そ? てか、ゴメンなлсДなんかを落としちまって……悪夢から、目覚めてのがれられない状態が地獄なんだと言っていたけど、祖父サマはつくづく正しかったな……」
今度は溜息混じりのアクビと伸びをする照壬だが、ノキオに「テルミ! 急いで剣をっ」と大呼されて、
ノキオがふためいて促した理由もすぐ様わかる──落ちたлсДへ飛びつき、奪い去ろうとしている小柄な影が、地面へ顔から激突したくない一心で枝の上に必死に留まる照壬にも見て取れた。
「……これがデヴィルキンかよ? 皮膚が緑じゃなく、青黒い灰色なんだな。確かにヤマネズミ、てかイオークとサルの合いの子っぽいかも、全身が毛に覆われてて……」
照壬の声に反応して枝を見上げたデヴィルキンのドングリ
材質は布ではないが、袋を被り頭と両腕を突き出しただけという感じの服まで着ていた。恰も特殊メイクだけを本格的に施された幼児のよう。
「やはり、照壬の剣に目をつけていたようですけれども……」
「てか、大丈夫そうだノキオ。さすがは聖剣の疑いがあるオレ専用剣、ほかの誰かじゃとんでもなく重くなって、絶対に持ち上げられないってのはガチらしい。こりゃ完璧な盗難防止セキュリティーだな」
デヴィルキンは、強引に指先で土をも掻き掘るようにして握ったлсДの柄を、全体重をかけて引っ張り運ぶ作業に戻っていたが、лсДはピクとも動かない。
数回大きく体をふって引いても全くダメなことからあきらめて、ネズミのすばしこさで茂みへと駆け消えた。
照壬は尻を軸にして体を回し、枝の上から両足を垂らして腰掛けた恰好になってから飛び下りる。
そしてлсДが収まる帯剣ベルトの一端を掴んでлсДを難なく拾い上げ、シャツを羽織るかのように軽らかに脇掛けた。
「もう二度と、この山のデヴィルキンたちがテルミの物を狙うことはないでしょう」
「なら、ありがたいけど……変に有名になっちまうのは落ち着けないよなぁ」
「変でしょうか? けれどもワタクシもあきらめなくてはなりませんね、その剣を少しお借りして、テルミに教えていただいたワザを実演してみようと思っていたので」
「てか、オ~ッ。オレが眠っている間に、また随分と幹から浮き上がったじゃないかノキオ。この分なら今日、日が暮れる前に斬れるんじゃないかな? ならそれまでに、オレが適当な倒木を見つけて、振り易い木刀をつくってやるよ。それで充分事足りるって、教えたのは斬るワザじゃないからな」
「……ボクトウとは、木剣を意味する言葉でしょうか?」
「まぁそう。てか、片刃の剣を刀と言ってな、サムライやニンジャも使っていたはずだ。こっちではレイピアとかブロードソードっぽいと説明すればわかるかな? 細身で、でもサムライのはチョット反ってたりもする、ニンジャのはそれより短めで真っ直ぐだけどな、刀と剣をひっ包めてオレの国では刀剣と言い表したんだ」
「はい、わかりました。デウツクランではラァピア、バーツスデァーツと言うのが一般的ですけれども。テルミの言葉は、あちらこちらの訛りが雑じるようですね」
「フ~ン、てかゲロヤバじゃないかよ。博識なノキオ相手だから、一応ちゃんと成立しているわけかオレとの会話は? オレはまだ訛り方の違いが全然わからないけど、そうした剣があるってことは、貴族もいて騎兵もあるってことだよな?」
「はい。騎兵は軍制の一部隊として王や国家の下で組織されるだけでなく、私財で設けている大貴族もいます。大貴族ともなれば、所有する領地が広く大きな世業施設も数多くありますから、守りは自分で堅めなくてはなりませんので」
貴族という言葉や存在には、漠然とながらも忌避感が湧くまでのゲスなイメージしかない照壬なので、それに
大
が付くとなれば、照壬の面持に浮かぶ疎ましさも格段に──。