026 Awesome! 円満具足のオピ樹人
文字数 1,928文字
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末節の葉と違いオピの本体には就眠運動はないらしく、照壬渾身の迷いなき提 斬りで幹から解き放たれ、自由を獲得したノキオは、照壬が連枝 の寝床で眠りこけている間も飽きることなく木剣を振り続け、夜明けを迎えた。
朝も日がかなり高くなってから目覚めた照壬は、教えた動作と剣捌きを黙黙と復習 っているノキオを、朦朦と眠り目で見下ろしつつ、しぶとい夢心地からも脱していく。
「……だいぶ様になってきたじゃないかよノキオ、モルグェンに感謝を~」
照壬はようやく包まっていたマウンテンパーカーを体から引き剥がし、アクビ交じりに声をかけた。
「あぁテルミ、起きましたか。モルグェンに感謝を」
ノキオの方は、キレのいい動作を止めることなく挨拶を返す。
「てか一晩中やってたんだろ、そこまで仕上がるには? 疲れないのか? ムチャしすぎて、腕や脚がボッキリ折れたりしないだろうな」
「それはなさそうですし、木は疲れ知らずでもあるようなので心配御無用。土を混ぜ溶いた上水を啜れば、栄養補給も完了のようです。夜明け前に休憩場まで行っても来ました──」
ちょうど、上段からの振り下ろしと見せかけての柄頭突きから薙ぎ払い、というコンビネーション動作をキメたノキオは、腰にやった左手に木剣を収めて直立の帯剣姿勢をとり、軽く礼までして見せる。
そんな剣士的所作など教えてはいないので、残る眠気を完全に吹き飛ばさる照壬だった。
「……なんだかヤケに頼もしいなぁ、いざとなったらオレが守ってもらうことになりそうだ。で、裸足とバッシュどっちがいいカンジだ? 今日一日だけなら貸すけど」
照壬は、なげ出して枝からブラつかせた足を指差し尋ねる。
「裸足で結構です。バッシュのクッション性能とやらはしっかりと憶えましたので、それに近い柔軟さをもつ足裏になるように努めている最中です」
「ガチ? ……てか、よく見れば斬った面がちゃんと背中っぽく、てかもぅ全身が軽装甲みたいになっているじゃないかよ……もしやオピの木って、万能で無敵じゃないのか?」
「それはありませんし、全ては先進的な情報を教えてくれた照壬のお蔭と言えるでしょう」
「……でもホント、不幸中の幸いだったよな、初っ端からノキオに出会えて」
「幸運なのはワタクシの方です。なのでテルミ、今日はここを離れずにいてください。森の草木たちへの挨拶がてら、食事はワタクシが人族にとびきりと評判の実をとって来ましょう。危険な気配を察知した時には、そうして枝に登り、身を隠してもらえれば必ずや事なきを得られます。悪人たちなど決して近づけさせません」
「今日は勿論ここで、おとなしくしているけど、そんなに心配するなって。悪い奴らが来やがったら銃弾を使ってみるまでだし、試し撃ちにはちょうどよさそうだからな。地獄を見せて、ここが地獄だってことを思い知らせてやるっ」
「……また夢見が悪かったのですか? 顔を洗って来るといいでしょう。乾いた涙のせいで、テルミが悪人のような目つきになっていますよ」
「てか泣いてないっての、涙が出たとしたらアクビでだしっ──」
照壬はлсДのベルトを引っ掴んで枝から飛び下り、あくまでも目元の表情を和らげるマッサージをしている体で丹念に目を擦る。
「今日は休憩場ではなく、奥の岩壁へ行ってみてください。染み出る水が溜まるように、石を積み並べておきました。今ではもう、キレイさも量も顔が洗えるくらいになっているかと思いますので」
「……てか、アウトドアマスターかよ? ヤバいぞノキオその至れり尽くせり。要らぬお節介焼きにまで高じて、ああしろこうしろとキャンプ奉行になりやがったら、キッツい一撃をお見舞いすることになるんで、今から忘れずにいてくれよなっ」
「よくわかりませんけれども、あれやこれやとやってしまうのは、動けるようになったことを感激している間だけでしょうから、高じたりはしないかと思います」
「……まぁそうなんだろうけど、親切は、頼まれてから頼まれたことだけやっても充分親切なんで、気を利かせる必要は全然ないからな。逆に、利かされた気がハズレた時のガッカリが、互いの関係を悪化させちまうことになるんだし」
「はい。わかりましたけれども、テルミは親切にもかかわらず、親切を返されることには慣れていないようですね。これも世界の違いでしょうか? 興味深いことです」
「変な興味をもつなよな。世界じゃなく、育ちの違いだおそらくは。てか顔洗って来よっと、今日のところはありがたくノキオの親切に甘えさせてもらうな」
不慣れから、ツンとデレの口調を逆にしてしまうという失敗りを犯しつつ、そう言い捨てて一時退却を図る目的でも岩壁の方へと向かう照壬だった。
末節の葉と違いオピの本体には就眠運動はないらしく、照壬渾身の迷いなき
朝も日がかなり高くなってから目覚めた照壬は、教えた動作と剣捌きを黙黙と
「……だいぶ様になってきたじゃないかよノキオ、モルグェンに感謝を~」
照壬はようやく包まっていたマウンテンパーカーを体から引き剥がし、アクビ交じりに声をかけた。
「あぁテルミ、起きましたか。モルグェンに感謝を」
ノキオの方は、キレのいい動作を止めることなく挨拶を返す。
「てか一晩中やってたんだろ、そこまで仕上がるには? 疲れないのか? ムチャしすぎて、腕や脚がボッキリ折れたりしないだろうな」
「それはなさそうですし、木は疲れ知らずでもあるようなので心配御無用。土を混ぜ溶いた上水を啜れば、栄養補給も完了のようです。夜明け前に休憩場まで行っても来ました──」
ちょうど、上段からの振り下ろしと見せかけての柄頭突きから薙ぎ払い、というコンビネーション動作をキメたノキオは、腰にやった左手に木剣を収めて直立の帯剣姿勢をとり、軽く礼までして見せる。
そんな剣士的所作など教えてはいないので、残る眠気を完全に吹き飛ばさる照壬だった。
「……なんだかヤケに頼もしいなぁ、いざとなったらオレが守ってもらうことになりそうだ。で、裸足とバッシュどっちがいいカンジだ? 今日一日だけなら貸すけど」
照壬は、なげ出して枝からブラつかせた足を指差し尋ねる。
「裸足で結構です。バッシュのクッション性能とやらはしっかりと憶えましたので、それに近い柔軟さをもつ足裏になるように努めている最中です」
「ガチ? ……てか、よく見れば斬った面がちゃんと背中っぽく、てかもぅ全身が軽装甲みたいになっているじゃないかよ……もしやオピの木って、万能で無敵じゃないのか?」
「それはありませんし、全ては先進的な情報を教えてくれた照壬のお蔭と言えるでしょう」
「……でもホント、不幸中の幸いだったよな、初っ端からノキオに出会えて」
「幸運なのはワタクシの方です。なのでテルミ、今日はここを離れずにいてください。森の草木たちへの挨拶がてら、食事はワタクシが人族にとびきりと評判の実をとって来ましょう。危険な気配を察知した時には、そうして枝に登り、身を隠してもらえれば必ずや事なきを得られます。悪人たちなど決して近づけさせません」
「今日は勿論ここで、おとなしくしているけど、そんなに心配するなって。悪い奴らが来やがったら銃弾を使ってみるまでだし、試し撃ちにはちょうどよさそうだからな。地獄を見せて、ここが地獄だってことを思い知らせてやるっ」
「……また夢見が悪かったのですか? 顔を洗って来るといいでしょう。乾いた涙のせいで、テルミが悪人のような目つきになっていますよ」
「てか泣いてないっての、涙が出たとしたらアクビでだしっ──」
照壬はлсДのベルトを引っ掴んで枝から飛び下り、あくまでも目元の表情を和らげるマッサージをしている体で丹念に目を擦る。
「今日は休憩場ではなく、奥の岩壁へ行ってみてください。染み出る水が溜まるように、石を積み並べておきました。今ではもう、キレイさも量も顔が洗えるくらいになっているかと思いますので」
「……てか、アウトドアマスターかよ? ヤバいぞノキオその至れり尽くせり。要らぬお節介焼きにまで高じて、ああしろこうしろとキャンプ奉行になりやがったら、キッツい一撃をお見舞いすることになるんで、今から忘れずにいてくれよなっ」
「よくわかりませんけれども、あれやこれやとやってしまうのは、動けるようになったことを感激している間だけでしょうから、高じたりはしないかと思います」
「……まぁそうなんだろうけど、親切は、頼まれてから頼まれたことだけやっても充分親切なんで、気を利かせる必要は全然ないからな。逆に、利かされた気がハズレた時のガッカリが、互いの関係を悪化させちまうことになるんだし」
「はい。わかりましたけれども、テルミは親切にもかかわらず、親切を返されることには慣れていないようですね。これも世界の違いでしょうか? 興味深いことです」
「変な興味をもつなよな。世界じゃなく、育ちの違いだおそらくは。てか顔洗って来よっと、今日のところはありがたくノキオの親切に甘えさせてもらうな」
不慣れから、ツンとデレの口調を逆にしてしまうという失敗りを犯しつつ、そう言い捨てて一時退却を図る目的でも岩壁の方へと向かう照壬だった。