008 ヴォーロスの与えし錯乱性覚醒
文字数 1,762文字
アレルが選んだ高級感漂う鄙 び様をした旅館で、美人若女将やら露天風呂まである温泉やらレトロな機種が並ぶゲームコーナーやら、ワクつきが収まりきりそうにないアレルの相手を早ばやと放棄して布団へもぐり込んだはずの照壬だったが、目覚めると辺りは外──。
それも鬱蒼と草木が茂り、大樹の枝葉が遮らない合間だけから日光が差し込むような深い森の中であることを、上体を跳ね起した勢いそのままに辺りを見転 べかして照壬は完全に識得する。
強烈な青臭さに雑じるカビた土のニオイ、そよと吹いてはいるものの湿気をおびた重い風、人がたてない音で充ち満ちているという意味での静寂さ……。
気を取りなおす感じに、照壬は視線を周囲から自分自身へと向け変える。
マウンテンパーカーに、黒ジーンズ。買ってもらったばかりで、もう少し観賞しておきたかったけれども覚悟の表徴として下ろしていたバッシュ。それらは旅館で浴衣姿になる前の格好ではあったが、靴下とインナーのスウェットシャツは新しい物に替えられていた。
それをしたのはアレルとしか考えられない照壬だが、アレル一人で自分をこんな場所まで運んで来たとも思えない。
ここが目指していた山中のどこかならば、自分を運ばせるためにアレルが雇った者たちにアレルが逆に誘拐され、もっとカネを絞りとるための事件へと、ずっぷり巻き込まれているのではないかとの想像も膨らみだしてくる。
しかし、少なくともそうではないだろうことを、照壬のボックス型バッグパック(容量四〇リットル)の上に横たえられていた凶凶しい物体に突きつけられる照壬だった。
それが、必要不可欠な世具をつめ込んだバックパックを圧し潰す具合から、結構な重さが目積 りできる。
そんな物まで、眠り込まされた自分とともに数人がかりで運んで来たにしては、周辺の草が踏み倒されておらず、足跡らしき地面の荒れも全く見当たらないという最大の疑問が湧きだす何よりの根拠にもなってしまう。
「……アレルの奴、一体どうやってオレを、てかオレと荷物とこんなヤバげな段平まで、ここへ運びやがったんだ?」
鋼の鈍い輝きを放つそれは、どうやら一振の大剣──。
しかし、背負うためのベルトが付いた部分的には、ただ嵌め留めるだけのホルダーゆえに窺える剣身の両側には鋭利な刃はなく、長柄の頭もヘラみたいな末広がりで、その底面は薄くも平らでもなくアーチを描いた曲面をしてガンストックを思わせた。
柄の上から両側へ張り出したソードガードも、まるで銃のグリップが付いているよう。
その中央には人差し指一本ほどの長方形の穴も開いていて、そこから剣の中心が剣先までパイプ状に細長く空洞が貫けていることも見て取れる。
以上の特徴から照壬には、それがクレイモアを偽装したライフルか、クレイモアとしてもブン回せるライフルではないかとの臆想しかできない。
臆測止まりにならざるを得ないのは、クレイモアにしては両刃がなく、ライフルにしてもトリガーやボルト、ボルトを動かすハンドルなど重要な構成部品が足りないせいだった。
ふと照壬は、バックパックの中に、手放すのがどうしても惜しくてもって来たお気に入りベスト・スリーと、アレルからもらったまだ堪能していないミニカー、計四台が入っていることを思い出す。
それらの無事を確かめるために、クレイモア兼ライフル‐モドキを退かそうとしっかり腰を入れて手を伸ばした──が、なぜか紙一枚も同然の重さのなさで、照壬は後ろへズッコケそうになるほど事の殊なまでの意表外。
しかし手応え、剣身の中ほどと長柄を自分の左右の手が思いきり掴んでいる感触自体はしっかりとある。
それはやはり、金属と、金属に確と巻き付けられた革の手触り、硬さも丈夫さも実戦用に造られた物であることが左手からも右手からもひしひしと伝わってきて、覚束ないながら照壬は武器と認めるしかなかった。
すると照壬は、そのクレイモア兼ライフル‐モドキの名称が
頭の中に知識の塊りを一擲 にブチ込まれたとでも言う感覚で、早速浮かんでくるヴィジュアルが、これまでに湧いた疑問の数数へ勝手に答え始めてもくれていて、半信半疑ながら焦燥感から不安へとじんわり駆り立てられてきてしまう。
それも鬱蒼と草木が茂り、大樹の枝葉が遮らない合間だけから日光が差し込むような深い森の中であることを、上体を跳ね起した勢いそのままに辺りを
強烈な青臭さに雑じるカビた土のニオイ、そよと吹いてはいるものの湿気をおびた重い風、人がたてない音で充ち満ちているという意味での静寂さ……。
気を取りなおす感じに、照壬は視線を周囲から自分自身へと向け変える。
マウンテンパーカーに、黒ジーンズ。買ってもらったばかりで、もう少し観賞しておきたかったけれども覚悟の表徴として下ろしていたバッシュ。それらは旅館で浴衣姿になる前の格好ではあったが、靴下とインナーのスウェットシャツは新しい物に替えられていた。
それをしたのはアレルとしか考えられない照壬だが、アレル一人で自分をこんな場所まで運んで来たとも思えない。
ここが目指していた山中のどこかならば、自分を運ばせるためにアレルが雇った者たちにアレルが逆に誘拐され、もっとカネを絞りとるための事件へと、ずっぷり巻き込まれているのではないかとの想像も膨らみだしてくる。
しかし、少なくともそうではないだろうことを、照壬のボックス型バッグパック(容量四〇リットル)の上に横たえられていた凶凶しい物体に突きつけられる照壬だった。
それが、必要不可欠な世具をつめ込んだバックパックを圧し潰す具合から、結構な重さが
そんな物まで、眠り込まされた自分とともに数人がかりで運んで来たにしては、周辺の草が踏み倒されておらず、足跡らしき地面の荒れも全く見当たらないという最大の疑問が湧きだす何よりの根拠にもなってしまう。
「……アレルの奴、一体どうやってオレを、てかオレと荷物とこんなヤバげな段平まで、ここへ運びやがったんだ?」
鋼の鈍い輝きを放つそれは、どうやら一振の大剣──。
しかし、背負うためのベルトが付いた部分的には、ただ嵌め留めるだけのホルダーゆえに窺える剣身の両側には鋭利な刃はなく、長柄の頭もヘラみたいな末広がりで、その底面は薄くも平らでもなくアーチを描いた曲面をしてガンストックを思わせた。
柄の上から両側へ張り出したソードガードも、まるで銃のグリップが付いているよう。
その中央には人差し指一本ほどの長方形の穴も開いていて、そこから剣の中心が剣先までパイプ状に細長く空洞が貫けていることも見て取れる。
以上の特徴から照壬には、それがクレイモアを偽装したライフルか、クレイモアとしてもブン回せるライフルではないかとの臆想しかできない。
臆測止まりにならざるを得ないのは、クレイモアにしては両刃がなく、ライフルにしてもトリガーやボルト、ボルトを動かすハンドルなど重要な構成部品が足りないせいだった。
ふと照壬は、バックパックの中に、手放すのがどうしても惜しくてもって来たお気に入りベスト・スリーと、アレルからもらったまだ堪能していないミニカー、計四台が入っていることを思い出す。
それらの無事を確かめるために、クレイモア兼ライフル‐モドキを退かそうとしっかり腰を入れて手を伸ばした──が、なぜか紙一枚も同然の重さのなさで、照壬は後ろへズッコケそうになるほど事の殊なまでの意表外。
しかし手応え、剣身の中ほどと長柄を自分の左右の手が思いきり掴んでいる感触自体はしっかりとある。
それはやはり、金属と、金属に確と巻き付けられた革の手触り、硬さも丈夫さも実戦用に造られた物であることが左手からも右手からもひしひしと伝わってきて、覚束ないながら照壬は武器と認めるしかなかった。
すると照壬は、そのクレイモア兼ライフル‐モドキの名称が
лсД
であることと同時に、揮い方の全てをいきなり思い取らされる。頭の中に知識の塊りを