031 気づけないのがフツウでしょうに
文字数 2,005文字
〈すみません。水クサすぎるとしても、人族の悪を正すために、同族となるテルミの力を借りるわけにはいかないのです〉
「……まぁな、その理屈はよくわかるんだけどさぁ」
〈オピのツリーマンが出現したとなれば、
「あ~そうなんだな、まだそんなに善き時代かよこの世界は……」
〈そうでしょうか。森の木が、何年も怒りをためて悪人を懲らしめなければならない時代ですけれども〉
ノキオの口調にも、照壬に増しての呆れが込められていた。
「てか……やっぱ、効果なんてないんじゃないか? ノキオに対して畏怖がないから、エグい魔法を使ったんだろあの御者の女は」
〈御者ですから、ワイヴァーンの生息地である荒野で育ったのでしょう。森がなければ、オピの伝承も聞き耳遠くなりますので〉
「そうなんだ? ふぅ~ん、荒野育ちな……」
〈となれば、オピのツリーマンは天魔も同然、魔王級魔族の認識でしょう。命を懸けて巣から孵化寸前の卵を入手し、長年かけて飼い慣らしたワイヴァーンを守ろうとしたにすぎません〉
「けど、それを悪事に使っているんだから、全く憐れめないけどなっ」
〈とにかく、陽 の一方が正中もしない内に空から来るとは考えていませんでしたし、ワタクシが知るよりも先に、テルミが気色取ったかのように起き出したので、全てが粗雑になってしまいましたね〉
「あぁ悪かった。オレ、変に悪運が強いみたいなのに、それが何のタイミングか気づけないもんだから、間が悪くなるだけなんだよな」
〈けれども、果たすべきことは、一つを除き果たしおおせました。その一つは、分身が健在だったとしてもワタクシでは果たせませんから、満足するしかありません〉
「……何だよその一つってのは? オレにノキオの本音や裏事情を悟られちゃ、計画を完遂してもカッコつかないってか?」
〈いえ、そうではありません。ワタクシでは、助けた彼女を、最後まで無事に送り届けることができないと言うことです〉
「……どうやったって、目立っちまいそうだもんな。それは狙われ易くなるってことだし」
〈野歩き遊山も、家に帰り着くまでが野歩き遊山。その彼女を一人で帰して、別の悪人に拐 かされては、何一つ果たせていないのと同じになってしまいますので……〉
照壬は右耳からも幹からもノキオの鼻がはずれないように振り返り──スグそこに、赤髪女子が佇んでいたことを円くなる目で確認。
全く動じていない体 を装いながらも、低くなる声でノキオとの会話を続ける。
「……てか、要はオレに送って来いと言うわけ?」
〈いえ別に、ワタクシは言っていませんよ。けれども、行ってもらえたらば感謝感激、和鳴 爛漫です。何しろ彼女はボムバーナですので〉
「…………」感激とも爛漫とも対極と言えそうな不興顔になる照壬だった。
〈この森や山のみならず、延いてはデウツクランの安寧と平和のためにも、丁重で穏やかな罷 り路 になるよう努めつつテルミに御帯同願えれば、ワタクシも、でき得る限りの助力はさせていだだきます〉
「……キナ胡散クサ~、てか何だよその、ボムだなんて? この人フツウの、てか人素族に見せて実はマジヤバな、ガチの赤鬼だったりとか? 助けてから気づいて、あとの祭りの尻拭いをオレにしてくれってかノキオッ」
照壬は、あらためて赤髪女子を流眄 ──。
〈ヴォロプ‐イメージイラスト〉
「誰が赤鬼よ……この類い稀に奇霊 ぶフワム一族の髪色を貶すだなんて、ホンット無知蒙昧で非常識なディスロケーターねっ。アタシを怒らせたらどうなるか、そのオピにしっかり叩き込んでもらうといいわ!」
一度大きく地面を踏みつけながらそうガナリ立てた赤髪女子を二度見してしまう照壬だが、それは、彼女の意味不明な言いぐさからではなく、今の今まで気に留まらなかった彼女の意気が揚がり大胆さも現れた立ち姿のせいだった。
赤も厳密には紅蓮と言える長い髪は、ゆんる~いウェーヴで胸までのレングス。
その毛先がうねりくねってかかるバストは、照壬にとって実に理想的シェイプの脹 よかさときていた。
なのでつい、よくよく見てしまえば、干し皮製のセパレート水着みたいな猥 りがわしい服装だったにもかかわらず、違和を全くカンジさせない、ウエストからエスパドリュー型サンダルのリボンを結んだ足首まで、非のうち所がないラインが描く豊艶なプロポーション──。
照壬はあんぐりしかけるも、ムリにヒネっていた首がヒクと攣 って、差し強 る目を顔ごと伏せ戻すことがどうにか叶う。
何よりは、血の気が回復した赤髪女子の眉目秀麗さで、未だかつて神と称されたイラストですら観賞したことがない美女子であったという衝撃に、忽 ! と照壬は頭痛がしてきてしまうあり様だった。
「……まぁな、その理屈はよくわかるんだけどさぁ」
〈オピのツリーマンが出現したとなれば、
絶奇の一大事
とも認識されます。周辺の村から町へと噂が広まり、世代が変わって新たな悪人たちが育つまでは、この山の平和は保たれるでしょう。テルミの協力が知られては、その効果も危うくなってしまいます〉「あ~そうなんだな、まだそんなに善き時代かよこの世界は……」
〈そうでしょうか。森の木が、何年も怒りをためて悪人を懲らしめなければならない時代ですけれども〉
ノキオの口調にも、照壬に増しての呆れが込められていた。
「てか……やっぱ、効果なんてないんじゃないか? ノキオに対して畏怖がないから、エグい魔法を使ったんだろあの御者の女は」
〈御者ですから、ワイヴァーンの生息地である荒野で育ったのでしょう。森がなければ、オピの伝承も聞き耳遠くなりますので〉
「そうなんだ? ふぅ~ん、荒野育ちな……」
〈となれば、オピのツリーマンは天魔も同然、魔王級魔族の認識でしょう。命を懸けて巣から孵化寸前の卵を入手し、長年かけて飼い慣らしたワイヴァーンを守ろうとしたにすぎません〉
「けど、それを悪事に使っているんだから、全く憐れめないけどなっ」
〈とにかく、
「あぁ悪かった。オレ、変に悪運が強いみたいなのに、それが何のタイミングか気づけないもんだから、間が悪くなるだけなんだよな」
〈けれども、果たすべきことは、一つを除き果たしおおせました。その一つは、分身が健在だったとしてもワタクシでは果たせませんから、満足するしかありません〉
「……何だよその一つってのは? オレにノキオの本音や裏事情を悟られちゃ、計画を完遂してもカッコつかないってか?」
〈いえ、そうではありません。ワタクシでは、助けた彼女を、最後まで無事に送り届けることができないと言うことです〉
「……どうやったって、目立っちまいそうだもんな。それは狙われ易くなるってことだし」
〈野歩き遊山も、家に帰り着くまでが野歩き遊山。その彼女を一人で帰して、別の悪人に
照壬は右耳からも幹からもノキオの鼻がはずれないように振り返り──スグそこに、赤髪女子が佇んでいたことを円くなる目で確認。
全く動じていない
「……てか、要はオレに送って来いと言うわけ?」
〈いえ別に、ワタクシは言っていませんよ。けれども、行ってもらえたらば感謝感激、
「…………」感激とも爛漫とも対極と言えそうな不興顔になる照壬だった。
〈この森や山のみならず、延いてはデウツクランの安寧と平和のためにも、丁重で穏やかな
「……キナ胡散クサ~、てか何だよその、ボムだなんて? この人フツウの、てか人素族に見せて実はマジヤバな、ガチの赤鬼だったりとか? 助けてから気づいて、あとの祭りの尻拭いをオレにしてくれってかノキオッ」
照壬は、あらためて赤髪女子を
〈ヴォロプ‐イメージイラスト〉
「誰が赤鬼よ……この類い稀に
一度大きく地面を踏みつけながらそうガナリ立てた赤髪女子を二度見してしまう照壬だが、それは、彼女の意味不明な言いぐさからではなく、今の今まで気に留まらなかった彼女の意気が揚がり大胆さも現れた立ち姿のせいだった。
赤も厳密には紅蓮と言える長い髪は、ゆんる~いウェーヴで胸までのレングス。
その毛先がうねりくねってかかるバストは、照壬にとって実に理想的シェイプの
なのでつい、よくよく見てしまえば、干し皮製のセパレート水着みたいな
照壬はあんぐりしかけるも、ムリにヒネっていた首がヒクと
何よりは、血の気が回復した赤髪女子の眉目秀麗さで、未だかつて神と称されたイラストですら観賞したことがない美女子であったという衝撃に、