第25章(4)
文字数 7,291文字
小春たちは執務室で仕事に取り組んでいた。
最近ここにいるのは小春と千景だけだが、今日は珍しく小雪と玄七郎も居残って仕事をしていた。新入スタッフを迎えるためだ。
ただし新人は11時に来る予定になっていたのだが、少し時間が過ぎていた。小雪がぶつぶつと文句を言い始めたころ……ようやく執務室の扉が開く。
■シミュレーション仮説
この世界はコンピューターによって描き出されているという仮説。AIを始めとする目先の技術進歩によって、人類が別の宇宙をコンピューター上に生み出せることから、この仮説が支持される。
ある一つのコンピューター宇宙は、無数の下部宇宙を生み出す。その下部宇宙も、さらに無数の下部宇宙を生み出す。その構造が下へ下へと無数に連なる反面で、大元の宇宙は一つに過ぎない。とすれば、この宇宙は確率的に、大元である可能性はほぼゼロに近い。
■マルチバース理論
膨大な数の宇宙が並行して存在するとした説。選択による分岐で、宇宙は無数に枝分かれしていく。一つの宇宙自体が丸ごと量子的重ね合わせの状態にあるとも言える。この理論を真剣に考慮する物理学者の割合は増え続け、数十%となっている。
■超弦理論
物質の基本要素は弦(ひも)でできているという説。量子論と相対性理論を統合できる宇宙の究極理論であるとされる。この理論が指示するところとして、宇宙は10次元で構成されているという。囚われの身にある人間の感覚では4次元(3次元+時間)しか感知できないが、他に6つの次元あるということ。物理学史上、最もメジャーな理論の一つ。
■ホログラフィック原理
2次元平面に宇宙のすべての情報が記録されていて、存在するように見えるすべての物質は、それら情報の3次元映像――ホログラムの幻影だとする説。この原理は、超弦理論の文脈において極めて重要とされる。
■ゼロポイントフィールド仮説
ゼロポイントフィールドに、過去・現在・未来にわたってのあらゆる出来事・情報が保存されているとする説。この理論は発展途上であり支持する物理学者の割合はまだ小さい。伝統宗教の経典にて類似した指摘がされ哲学として扱われたり、デジャブや占いやオカルトなど非科学的な現象を説明できるためスピリチュアル方面で不意に人気が出てしまい、科学者はこの仮説からあえて距離を取る傾向にある。
■インフレーション理論
この理論によって、ビッグバン理論の疑問点が解消された。宇宙は量子真空から誕生したか、または無から量子トンネル効果によって自発的に誕生したとされ、急激な膨張を遂げている。理論を支持する物理学者は多い。
陸は、居並ぶ4人に向かって深々と頭を下げた。
そして4人は、拍手で陸をチームメンバーとして迎えたのだった。
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