第23章(3)
文字数 3,540文字
事前に千景からは、陣野は誰に対しても謙虚で、穏和な社長だと聞いていた。IT起業家には見えず、銀行家じみたスーツ姿の55歳。地味で目立たないものの、安心して仕事を任せられるタイプという話だ。
人となりについての評判はかなり良いらしい。一方で、最新のIT技術についてそこまで詳しいわけではなく、IT実務について直接タッチすることはないようだ。調整能力を発揮して全体を切り盛りする、まさに見てくれ通りの経営者らしい。
普通の人から見れば、定期的な給料以外で、1〜1.5億円の臨時収入というのは破格に違いない。しかし時価総額1000億円の会社を育てた人物にしてはずいぶん少ない利益しか得られないのだなと小春は感じた。もちろん口には出さなかったが。
もし創業者として自らが出資し、持株比率60%だったとすれば、単純計算で600億円の資産になっていたハズである。やはりサラリーマン社長とオーナー社長では、同じ次元に立てないほどの巨大な格差があるのだろう。もちろんサイバーゼック初期の事業安定は桜丈ホールディングスに全面的に依存していたようだから、陣野の能力はそこまで問われないだろうし、大きな創業者利益を得られないのは適正なのかもしれない。
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