第25章(2)
文字数 6,962文字
熱海ホテルの最上階バー。日中は、海を一望できる喫茶店として観光客に開放されている。
前回もここで待ち合わせていたから、父――桜丈陸がどこで待っているのかは分かっていた。バーの最奥に進んでいくと、また同じ場所に、ジャケットの後ろ姿を小春たちは見つけた。
海を前面にしたカウンター席、2人は無言で父の隣に腰掛けると、おそるおそる陸は視線を向けてくる。
小雪がドンとテーブルを叩いた。
再び陸はうずくまるようにして、突っ伏してしまった。
陸は、2人に向かって頭を下げてきた。
いきなりの陸の態度に、さしもの小春もギョッとした。父が急に涙したのも予想外だし、頭を下げられるようなことを話した覚えもなかった。同様に小雪も意表を突かれた面持ちで陸を見遣っていた。しかし小春は態度に出さないよう努め、笑顔で応じる。
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