第1章(1)
文字数 3,910文字
ふいに……ガタッと執務室の扉が振動し、大きく押し開かれた。
ドラマやアニメやマンガなどで頻繁に登場する魔物じみた金持ちキャラクターたちの影響のせいで、何か特殊な生活を送っていたり、メイドに囲まれていたり、やたら権力があったりすると誤解する友人たちも少なくない。だが実際のところ自分たちが異形だとは思い難いし、メイドを雇わなくてはならないほどの業務量があるわけではない。
RC3階建の本宅は都心にしては広いものの建坪250平米プラス庭といった程度で、掃除については月に2度、桜丈グループ内のビル清掃会社から2人派遣されてきて、2時間もかからず対応してくれる。買出しや食事は玄七郎の担当だが、元々望んでそうなったわけではなく、あまりに玄七郎が食事関連マナーに煩いため、恐ろしくて他に誰も手出ししなくなっただけである。ほんのいっとき父親が、生活効率化のためケータリング会社に夕食をアウトソースしようと検討したこともあったが、玄七郎の厳しい指摘の数々に根を上げて業者が逃げ出してしまった。昔、玄七郎は超高級ホテルの経営者をしていたらしく、下手なプロより料理や食材の造詣が深く、しきたりにも異様に忠実なのだ。
さらに言えば、玄七郎が勝手に執事を自称しているものの、実のところは単なる居候に過ぎないはずだった。それが12年も続いているのだが。
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