第14章(1)

文字数 7,706文字

どうやらお嬢様がたは持株比率のことで四苦八苦しているご様子でございますな。こうした実務はもう少し先かと思っていたのですが、今回は持株比率のことを取り上げたほうがお嬢様たちの学びが深まるようです。
本当に悪戦苦闘してる点だから、タイムリーで助かるよ。
株式会社を完全完璧マスターしたときに私は理解した事柄だが、もう一度聞いてやってもいいぞ。別の視点から復習することで学びが深まるというものだ。
このポイントについては、先日の『財閥』講義における内容と対比させて検討していくといいでしょう。財閥は総有制によって一族すべての株式を当主預かりとし、そして出資の封鎖制で一族以外を完全排除したことは重要な視点でございます。
財閥スタイルは日本式で、これから押さえる持株比率は欧米式を輸入したもので、世界共通ルールになっていると考えればいいですね。
すでにご承知おきのことかと思いますが、会社の持株比率は、会社の所有者の割合を示しているものです。そしてこの比率には、分岐となるポイントがございます。今回はのっけから結論を書いてしまいましょう。

■100%所有

あらゆる他者から経営に対して横槍を入れられる可能性がない状態


■持株比率66.7%(3分の2以上)

株主総会の特別決議を、単独で可決できる状態

(※定款変更、増資、M&A、解散など)


■持株比率50.1%(2分の1以上)

株主総会の普通決議を、単独で可決できる状態

(※役員の選任、役員報酬変更、取締役の解任など)


■持株比率33.4%(3分の1以上)

株主総会の特別決議を、単独で否決できる状態

その他、1%を超える株主に株主総会の議案請求権、3%を超える株主に株主総会の召集請求権、10%以上では会社解散請求権、90%ではスクイーズアウトと呼ばれる株式等売渡請求権を行使できたりと細かい実務的なポイントは他にも多々ございますが、これらは必要な場面が極度に限定されてテクニカルなので、正直言って表で書き出した以外はどうでもいいです。
桜丈ホールディングスと、地球連合については、一番上の100%確保の状態だということだね。
ただ財閥スタイルだと、出資の封鎖制から外部資本は入れなかったという話だが、一族で分かれて持っていたんだろう? たとえば家族10人で100%持っていたとすれば、それは100%と言えるのか?
その家族が一体であれば100%と考えていいでしょう。もともと財閥創業者たちも、家族で株式を分割したかったわけではないのですが、相続を経れば株が散ってゆくのは避けようがなかった。やむをえず家族の憲法――家憲を定めて、一族の中で株を封じ込めたのです。
何代も続く想定だと、株の分散はやむを得ないところですよね。ただし創業者自身は、原則として自分自身が100%所有をしてきたからこそ、後の代において財閥化ができたんだと思います。もし最初の時点から株が方々に散っていたら、代替わりごとに目に見えて影響力が弱まっていき、3代目か4代目のあたりにはほとんど無関係になってもおかしくないです。
代替わりのとき、長男か長女に100%相続というのはできないのか? そうすれば100%のままどこまでも続くではないか。
会社の株式の価値にもよるでしょう。相続時点で価値がゼロなら、誰かが100%を引き継いでも兄弟姉妹間で争いは起こらないでしょうが、これが仮に10億円の価値がついたとすれば、奪い合いはどうしても発生してしまうものです。なるべく争いを避けようするならば株式を配分せねばならず、一族間で株が散らばってしまいます。
そこで桜丈ホールディングスの場合には、膨大な借金や債務超過が活きてくるということなんでしょうね。価値があるのかないのか不明瞭な感じですが、価値ゼロと言い張ったって不自然ではないですからね。
ただし、小春お嬢様に代表を強引に譲ったことで、旦那様が完全に守りに入ってしまったことが重大な問題になりかねません。もし桜丈ホールディングスがこれから30年、BSの拡大を完全に封じ込めてしまったとしたならば……借入金の返済が進んでしまい、債務超過が解消されてしまうタイミングもあるでしょう。もしそんな素晴らしい経営状態に転換してしまった暁には……相続税1兆円ということも……想像するだに恐ろしい……。
い、1兆円……。
会社の状態が良いものに変化していく反面で、小春ちゃんには苛烈な徴税が下されるということですか。良いんだか悪いんだか。
オヤジが消し飛んだほうが会社はどんどん良くなるが、オヤジがいた方が会社は低位安定するから相続のときは楽なのか。どちらにしてもオヤジはやっぱりダメなヤツという証明だ。
納税するために幾つか方法があるでしょうが、おそらく最も現実的かと思われるのは、桜丈ホールディングスを東京証券取引所に上場させてしまうことでございましょうか。そして株式を市場に大規模に放出して納税資金を確保します。
でもそれは会社を売り渡すことに近いんだよね?
もちろん外部資本が大量に入るわけですから、それはもう桜丈家のファミリービジネスとは言えませんな。これは一般的な欧米式スタイルであって、日本式財閥スタイルとは完全に別の道でございましょう。そうなれば賞味な話、桜丈ホールディングスと小春お嬢様はほとんど関係がなくなるだけでなく、桜丈ホールディングスは100年どころか50年すら保ちますまい。
欧米の財閥って、日本風味の曖昧性がないから、急に弱くなる家とかも結構あるんですよね。クルップ財閥とか家憲で守ろうとした家も一部あるんですが、そこは欧米、やっぱり個人主義が強いので、どうしても分割されるタイミングが来るみたいです。
これらの問題はすべて徴税と相続に起因しています。桜丈家のように中途半端な状態だと、代替わりの際の徴税から逃れることはできません。一方で、もはや所属する国家が不明瞭だったり、資産のほぼすべてを形式的な慈善団体化していたりして、徴税を完全に逃れるスキームを作り上げている家というのも現実としてございます。当然そうしたファミリーにおいては途方もない資産を確保し続けることに成功しています。世界100ヵ国に巨大な邸宅を持っているファミリーというのもごく普通におり、私のベイグランディアホテルズで常にスイートに定期的に長期滞在してくださっていたある欧米ファミリーのご家族なども、そうした方々の一角でした。
うちの家は中途半端すぎるから、この悩みから逃れられないんだね。
徴税……そうか! 玄七郎は以前、私が世界の富豪ランキングを検索したとき、それは『大衆向けゴシップに過ぎない』と言ったな? アレは単に高額納税者番付であって、要するに半端者のランキングに過ぎず、しょせん田舎のヤンキーみたいなハナタレどもだ。納税していなければ、そもそも高額納税者に出てこないんだから、頭の劣ったマスメディアの連中に追える手段がない!
メディアの方々に追う意識があるかどうかはともかく、それ以前にPL脳の方々にはその仕組みに関して想像力を働かせることができないでしょう。現実として正真正銘そうしたファミリーは普通にいるのですが、メディアに勤務する程度の方々には死ぬまで目に触れる機会などないのですから。私が知るそのファミリーは、各国にある邸宅の管理人・使用人として3000人を常時雇用しているそうでございます。
生活のために3000人を雇用なんて発想が追いつかない……。管理のためにかえって生活が大変になりそうな気が……。
私のような忠実極まる執事が一人付いていれば、直接管理する必要などございませんが。ただし桜丈家は非常に嘆かわしいことに貧しいので、私が管理すべきスタッフが誰もいないだけでございます。
どこのどいつが忠実な執事だっていう話だ?
中途半端ってことなら、経営一家の桜丈家ってまだまだマシなほうなんだと思いますよ。法人の色んなスキームが使えますし、債務超過を維持することによって一部の徴税を逃れてきたとも言えますからね。最高に中途半端なのは、私たちサラリーマンだと思うんですよ。もうどうやっても徴税から逃れる術がない!
しかも徴税される額は日に日に増えておりますしな。給料から強引に天引きというわけで、しかも国は徴税の役目を会社に無理やり押し付けてしまっており……実に空恐ろしい監獄でございます。
檻から出ようという発想を持っていないのだろう。だが檻のスケールこそ違えど、囚われているのは私とて同じだ。私はこの檻を認識し、そして蹴破らんとする決意がある、さすが私。
株式100%の話から少し膨らんじゃったけど、関係ある流れだったのかな?
これらの話は、まったくの無駄話でもございません。こうしたファミリービジネスを実現できるのは、一家の中核・分身となるべき法人を100%確保している状態でしか実現することは難しい。
1株でも外部資本が入れば、株主代表訴訟を起こされたりする可能性が出てくるわけですからね。途端にファミリーのためにお金を使う余地が封じられてしまいます。ある意味、外部資本を導入することは、社会の公器となるわけですか。
地球を行き来するファミリーの話はいささか極端なケースですが、通常の中小企業においても、100%確保し続ける意思があるのかどうかで企業のスタイルには大きな影響があります。100%を今後も継続して確保するのであれば、その法人はある意味において、100%を支配する人物の財布のような側面があるでしょう。
個人の財布……。
しかし財布を他人と共有するのであれば、それは冷徹なルールを守らなくてはなりません。ルールを破れば訴訟や、場合によっては刑務所行きまであります。その点で、100%か99.9%以下かという違いには、世の中で想像されているよりも途方もない違いがございますな。
財布を自由に使えるかどうかという話だけでは済まないはずだ。誰にも横槍を入れられない、そして大衆やメディアから少しでも視線を遠ざけておけるということは、私には至上の価値のようにも感じられるな。
小雪お嬢様は良い点を付きました。もし桜丈ホールディングスが旦那様100%の会社でない状態で、小春お嬢様が代表取締役社長に就任していたとするなら、外部株主があることないこと騒ぎ立て、週刊誌のバカバカしい記事になっていた可能性があります。しかし旦那様100%ということは、一家内でしか確実な裏取りができず、一家内に裏切りが出るような特殊なケースでない限り、部外者が騒ぎ立てようがないのです。
株主対策を一切放棄できれば、その分のコストと時間の節約に繋がるし、経営の自由度も圧倒的に増しますね。
財閥の講義にあったように、超長期的視野に立った経営を行えるというのも一つの価値だよね。だったらやっぱり、できる限り100%を守るということは正解に近いと考えていいんだよね?
それは経営者の考え方次第で、正解とは言えない場合もあるのではないですか。その経営者が法人を社会の公器だとする信念を強く持っていたならば、株式を多くの人々に解放し、広く資本を集めるほうがいいという考え方もございましょう。また、元々100%を所有していたにもかかわらず、社員らと分かち合いたいからと思わず従業員持株会を作ってしまうのも、経営者の特定の信念です。
なるほど、ここで信念が出てくるわけだな……。信念ということなら、地球連合の目的は世界征服だ。その辺の金を儲けたいだけの投資家とは、そもそも相入れない信念であろう。やはり地球連合の場合では、株式は100%押さえなくてはならないということだ。
だけどマンガAI事業を形にしていくためには、やっぱり資本がいる。自分たちに資本がないんだから、どうしても外部資本を入れていかざるを得ないよね。そんな時は、どこまで資本を入れればいいんだろう?
本日冒頭に挙げた結論をご確認ください。100%を守れなかった場合において、66.7%、50.1%、33.4%の3つの防壁があるのだという理解でよろしいかと思います。これらの防壁は、株主総会における特別決議と普通決議に関しての壁となっています。
特別決議や普通決議と言われても何がなんだかわからないぞ。株式会社をマスターした私でも、そんな細々とした部分まで記憶しているわけではない。
まさに細々とした部分なので、記憶が曖昧でも別に困らないと思いますが。記憶するほどでもなく、実際のところ、必要になったとき都度調べれば十分かと。
唐突に解説を投げ出すな。100%のときは詳しく話したはずなのに、3つの防壁についてはずいぶんサラッと済ませるではないか。
100%か、99.9%以下かが最大の分岐点です。ひとたび外部資本を入れると決意したならば、いちおう守るべき防壁が3つある、そして防壁は高いに越したことはない――正真正銘それで十分かと。
なんだそれは。特別決議や普通決議の中身は記憶しなくていいのか?
自己満足したいなら記憶をどうぞ。この程度は、実務をやっていれば自然に身につくものです。仮に暗記したからと言って、だから何だという話でございますし。
要するに、外部資本を入れるなら66.7%を出来るだけ守って、それもダメなら50.1%、そこも破れるなら最終防衛ライン33.4%って風に知っておけばいいのかな?
十分でございましょう。ただ、33.4%となれば、最終防衛ラインなどという何か期待感を持たせるようなレベルではなく、防壁としては弱いものです。なるべく過半数である50.1%のラインを守ったほうがいいでしょう。
防壁は、高ければ高いほどいいと。
現実の攻城戦をイメージされれば当たり前のことかと。そして33.4%も破れるようなら、いっそもう支配権にこだわる考えを一切放棄し、個人としていかに利益を残すかだけに特化していく気持ちの切り替えが必要かもしれません。こうなった時点で、その会社は関係者個々人が儲けを確保する箱のような存在となり、命脈を長く保つのは難しいものになろうかと。
なるほど! 最終的にその企業を支配する人がいなくなると、経営者にとっても株主にとっても利益を引き出すための箱になるわけですね。人情として理解はできます、別に自分のものじゃないなら、他の人より早く利益を確保してしまったほうがいい。
それだけ聞くと、株主が分散していく欧米式経営はどうしようもないな。日本式経営のほうがいいではないか。
あくまで企業存続の観点に限った話でございますぞ。欧米式経営は原則として万人にルールが整備されているので、その範囲内なら乱暴に振る舞ってもいいのです。公正にしようとする努力がうかがわれ、世界共通ルールとするには欧米式しか想定できませんな。
まぁ日本式ルールっていうのは慣習の範囲内ですからね。これを世界共通ルールにするのは無理だと思います。
また押さえておくべき点として、世の中には代表取締役社長といえど、33.4%のラインどころか、その会社の株をほとんど持っていない方――要するに1%未満の方も結構いらっしゃるものです。特に株式を公開している大企業には多くなりがちです。こうした方は代表者といってもPL脳のサラリーマン思考で動いている方も少なくありません。その人の本当の格を測るには、大企業の代表者かどうかではなく、支配的な株式を持っているかどうかだけに着目ください。
やはり会社をある程度は支配しないと、サラリーマンと変わらないということだ。
株式を公開しているレベルの大企業だと、社内の出席コースに乗って代表まで上がる人が多いですからね。疑いようもなくサラリーマン社会におけるスーパースターでしょうけど、個人のBSとしては庶民レベルが多いと思います。
あるいは創業者が責任を回避するため、代表取締役、または役職としての社長を、特定の社員に投げ渡してしまうパターンも案外あります。そうした形で代表や社長になった元社員は、ほぼほぼサラリーマンです。地位を禅譲されたと勘違いしたその元社員は忠誠心が増し、懸命に社業に務めてくれるようになることが期待されますので、絶対に確保しておきたい有能な社員がいる場合には有力なテクニックになります。
マスメディアどもから身を隠す上でも有効だな。代表取締役社長の肩書に惑わされず、その相手の真相を見極めるよう努めることにしよう。
質問していいかな? 資本金48万円しかない私たちが、仮に1億円の出資を受けたとして、持株比率66.7%を守る方法って、あるのかな?
理屈上は幾らでもあるのでは? 地球連合の発行済株式数はどのくらいでしたかな?
4800株だよ。
ということは1株100円で出資なさったわけですな。でしたら株主を外部に募集するにあたって、1株3万5000円で3000株を募集すれば……幾ら集まるでしょうか水無月様?
3万5000円掛ける3000株ですから、1億500万円です!
1株が3万5000円!? 私たちが100円で出資したのに?
ふむ、金額は足りていますな。全体の発行済み株式総数は7800株になりますから、お嬢様たちが4800株を所有しているとすれば、その持株比率は水無月様?
61.5%です。66.7%にはちょっと足りませんねー。
ならばいっそ1株5万円にしましょう。それで2000株を募集すれば、調達金額はちょうど1億円です。これなら持株比率は?
70.59%! 第一の防壁は守られましたね。
私たちが1株100円だったとして、いきなり投資家から1株5万円での募集なんて出来るの!?
それだけの価値があるなら、当然に問題ないでしょう。ただし地球連合の場合には、大した売上や利益があるわけでもなし、マンガAI事業とて先行き不明でしかないのですから、現実としては無理でございましょうな。せいぜい1株130円くらいなら可能な範囲かもしれませんが。
出資を募集するときの株価を極端なほど上げてしまえばいいんだ……。
株価は投資家が納得しさえすれば、そこが適正金額だよ。だけど現実的には極端な値付けだと投資家に無視されるだけ。事業のスタートアップなら、起業家側とほぼほぼ同じ株価になるんじゃないかな。
そ、そうなんだ……。まぁ私が投資家でも、確かに創業者が1株100円なのに、まだ実績もないなかで1株5万円と言われたら困るかな……。
さらにテクニカルなことを言えば、ストックオプションなどを付与しておき、持株比率を守る方法もあります。自社株を予め定められた価格で取得する権利です。ただし、ストックオプションを発行できる限度もありまして、発行済株式数の15%くらいまでが適正な範囲内とされていますな。資本金48万円の地球連合には、ほとんど意味をなさない手法でしょう。
資本金が低いというのは、こういうとき辛いものだね。まさにそのことで玄七郎に相談があるんだけど……。
本日のお悩み相談のコーナーですかな。かしこまりました、持株比率の確認はここまでとさせて頂きまして、休憩後に小春お嬢様の泣き言を聞くといたしましょう。
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登場人物紹介

桜丈 小春(15)おうじょう こはる

「今日から私が桜丈ホールディングス代表取締役社長ってホントなの!?」


イラストやマンガを描くのが好きで、ほのぼの系キャラクターデザインを得意としている。大手新聞社&大手出版社が共催の日本最大のイラストコンテストでは、中学生部門で2年連続の最優秀賞に輝いた。

中学生にしてお小遣い帳をつけるほどの貧乏性。質素倹約、モノは擦り切れるまで使い、中古品を愛用する。趣味は、癒し系イラストを描くこと、古着屋巡り、貯金箱に500円玉を貯めること。

総資産4兆5000億円の桜丈ホールディングス株式会社、代表取締役社長。企業グループとしては日本国内だと50位、グローバル視点なら1000位に入る規模感だが、ホールディングス本体も傘下企業の大半も未公開企業で構成されているのが特色のため、表面上(バランスシート上)の総資産は市場価値を正しく反映していない。

桜丈 小雪(13)おうじょう こゆき

「いずれ歌舞伎町の闇王として君臨するのが、私という存在に課せられた哀しき宿命なのだ」


生まれてこの方ペーパーテストは満点以外をほとんど取ったことがなく、剣道やギターなど幅広い素養もあり周囲からは天才と思われているが、実は隠れて大変な努力をしている。まだ幼さの残る面影ながら誰もが振り向く美貌の少女。まさに才色兼備を地でいく女子に見えるものの、重度の厨二病を患っている。好きなコンテンツは『首領(ドン)への道』。いつの日か新宿区歌舞伎町に影を潜めて暮らし、自分の組を持ちたいと夢想する。

源 玄七郎(67)みなもと げんしちろう

「強いていえば、通りすがりの執事でございます」


桜丈家にやって来て12年目の、長身の自称執事。自分に常に厳しく、他人にも恐ろしく厳しい。

日本有数の格調の高さで知られる五つ星ホテルブランド――ベイグランディアホテルズの創業者にして元代表取締役社長。かつてベイグランディアホテルズは経営に行き詰まり、巨額の負債を抱えて民事再生法を申請したことで連日経済ニュースで取り上げられた。ある意味で名士であり財界有名人。ベイグランディアホテルズは、桜丈ホールディングスの傘下に組み入れられて経営再建中。

水無月 千景(28)みなずき ちかげ

「パワハラで会社訴えてやるぅ! めちゃんこ慰謝料請求してやるんですドチクショー!」


東京大学理学部卒のアラサー。経済産業省資源エネルギー庁に在職経験のある元官僚。桜丈ホールディングスの管理部門に勤めるかたわらで、会社の意向(業務範囲として)で小春と小雪の家庭教師をしている。絶賛婚活中だが程良い相手が見つからず、念のため生涯独身にも備えて最近4500万円で東京の真ん中に中古1LDK49平米を購入した。

桜丈 陸(58)おうじょう りく

「ぼくは当てもなく荒野を彷徨う金鉱堀さ。泥に塗れた地べたで過ごし、何度かグッドラックを引き当てた、それだけのことだよ」


桜丈ホールディングス元・代表取締役社長にして、現・無職ニート。明治後期から続く旧・桜丈財閥の本家筋にあたる四代目。桜丈財閥は繊維産業を中核とした中規模な産業複合体にすぎなかったが、軍需衣料品に経営を過度に依存していたためGHQに目を付けられ、太平洋戦争後の財閥解体で主要企業のすべてを切り離され、いくつかの不動産を残すだけで有名無実化していた。だが陸の代で、手持ちの不動産を担保になりふり構わぬ賭けに出て、急激な膨張を成し遂げた。その規模感は、戦前の桜丈財閥のスケールに比肩する程度にまで戻ったとされ、日本経済界の一つの奇跡と受け止められている。

さも意味深な言い回しをするものの、大して深い意味はない。自らが創り上げたグループの代表を、ある日突然に辞任してしまった。一見自分勝手な引退のように見えて、強引に幕引きしてしまったのには、実は本人の狙いもある。

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