第7章(2)
文字数 4,342文字
アナウンスがなされると、広いフロアで同じように待っている訪問客たちが一斉にこちらに驚きの視線を向けてきた。それどころか、カウンター奥で作業している職員たちまでこちらを見やってくる。誰も笑うことはしなかったが、小春を見やって驚愕といった面持ちだった。
ミーティングテーブルに案内された小春は、男性の融資担当者と向き合っていた。
実績とは、確かに東京みらい信用金庫の支店長も言っていたことだ。
それから小春は、桜丈ホールディングスの代表取締役として登記されている経緯を、担当者に説明していった。一通り話を聞き終えた担当者は、驚愕の眼差しで聞いてくる。
一時は色よい感触の担当者だったが、小春が桜丈ホールディングス関係者だと聞いた直後から、あからさまに怪訝な目線に変わってしまっていた。
それから担当者は「融資検討の土俵に乗るかは不明で、後日結果を連絡する」というニュアンスの一点張りとなってしまった。小春は何とかして融資を引き出そうと切々と訴えたが、どうやっても担当者の心象を変えることはできないようで、ミーティングは打ち切られてしまった。
頃合いはすっかり夕方だ。こんなに頑張ったのに望んだような成果を上げられていないし、小雪と千景が懸命に取り組んでいるはずの清掃現場への手伝いにも行けなかったことが申し訳ない。ガックリ肩を落とした小春は、とぼとぼとした足取りで、自宅への帰路についた。
ここからだと、自宅まで歩いて30分、電車だと駅ホームまでの時間や待つことを加味すれば25分。200円が掛かるかどうかの差は小春にとって大きく、徒歩以外の選択肢はなかった。
日本政策金融公庫からの融資は無理だ――それが小春が感じた包み隠さない印象だった。桜丈の看板が足枷にしかならず、小春は忸怩たる思いに駆られていた。
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