第9話 教室の仕事は雑用と掃除

文字数 1,566文字

2000年 4月中旬 
全国チェーン展開している大手のパソコン教室に入れた。
採用が決まった週の日曜日。朝10時から事前研修がある。
今度採用したインストラクターは全員教室にくるように言われていた。
若い女性インストラクターに囲まれて仕事をする事になりそうだ。
少し緊張感はあるが気分はルンルンだ。
桶川市の自宅からパソコン教室までは車で20分ぐらいの所だ。
余裕を持って家を出て9:30には 鴻巣のパソコン教室に着いた。

すでに教室には下田さんが来ていた。下田さんは教室の主任インストラクターだ。
若いがかなりパソコンに詳しいらしい。痩せぎすで目が鋭い。
この教室のパソコン8台は下田さんが自作したといっていた。
下田さんから教え方のマニュアルとテキスト等6冊渡された。
部屋の中には8台のパソコンの他、観葉植物、丸テーブル4台が配置されている。
全体的にはこざっぱりときれいになっている。
自分がパソコン教室を経営すると思うと、すべて細かいことまで興味がわく。


書類棚、販促書類、チラシやポスター、パンフレット類、すべて情報の宝庫だ。
ワクワクしながら部屋中を眺め回した。
下田さんはスタッフ研修のための書類を準備している。

9時40分頃 年配の紳士と私と同世代くらいの女性が入ってきた。
そのあとすぐに先日会った石岡校長が教室に着いた。
あれ、なんか変。
そのおじさんとおばさんも「運営マニュアル」と「テキスト」を持っている。
ウソォ! この二人も今度採用されたインストラクターなんだ。
一人は61歳の金部さん。前職はシステムエンジニア。
もう一人は52歳の家庭の主婦新井さん。
ウソー! ショック。みんな中高年のインストラクターだ。
私が一番年少だ。そうか今回の募集の狙いは中高年のインストラクターだったのだ。
「無給でもいいです」の殺し文句はいらなかったのだ。
現実はこんなもんだな。でもいいか自分には夢がある。
色々ここでノウハウを吸収するんだ。お金なんていらない。

石岡校長から私一人だけが呼ばれた。
「将来パソコン教室を開くというようなことはないですよね」
「とんでもないです、そんな力はありませんしそんな年でもありません」
「では、ほんとに無給でいいんですね」
「はいそうして下さい」
「それでは朝30分前に来て掃除をお願いします」
「はい、がんばります」
「それと教室の床、机の上、外回り、目に付く所全部きれいにして下さい」
「トイレもですか」
「ええ、それから花に水もお願いします」
「はい、わかりました」
「それから、夕方からアルバイトの学生が来ます」
「ああそうですか」
「その子たちが帰ったら、後片付けしてから帰って下さい」

石岡校長は無給の私だけは、研修生という名目で雑用係として使おうとしている。
石岡校長は私より4~5歳若いだろう。背は高くて恰好はいいが、顔の体裁は悪い。
細面で髪が薄く、黒縁のメガネをかけて神経質そうな顔をしている。
仕事は何でもいい。パソコン教室のノウハウが身に付くと思えばなんでもない。
フランチャイズの権利を買ったとしたら何百万円もかかる。

一通り教え方や受講生に対する対応などを説明受けた。
午前2時間は、受講生との会話の仕方や教え方のマニュアルだった。
午後3時間は、各科目毎の教え方の要点と進め方等、4時に研修が終わった。

午後5時 自宅に戻った。
初めて手にしたインストラクター用テキスト6冊を持ち帰った。
テキストを小脇に抱えて教える姿はあまり見栄えが良くない。
このテキストも完璧に覚えてしまおう。
ドキドキしながら自分のパソコンでその内容を練習しはじめた。

大手パソコン教室のノウハウの詰まったテキストを盗作するような気分だ。
講師用なので教えるポイントも赤くコメントが入っている。
教えるのと教わるのでは、気持ちに天と地の違いがある。
パソコン教室開業の夢が一歩近づいてきた。

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