第52話 絶え間なくやってくる試練

文字数 1,099文字

翌朝には今度は新しい試練が待っていた。
翌朝早く来てトラブルのあったパソコンの調子を見た。
パソコンは順調に快適に動いている。

その日の朝8時半ごろだった。教室の前にタクシーが横付けされた。
中から70歳くらいの年配の婦人が降りてきた。
少し足が不自由なようだ。運転手さんが降りるのを手伝っている。
ガラスの引き戸を開けて迎えいれる。
「パソコンを習いたいんですけど」
「はい、いつからでもどうぞ」
「ちょっと手が不自由なんですが」
「え、どこがですか」
「リュウマチで両手の指が開かないんです」
「そうですか」
「それでも、できますか・・・」
「えええと、う~ん。何とかなると思います」
「自分の歩んできた道を本にして出版したいのです」
看護婦として過ごしてきた今までの人生を綴っておきたいと言った。

指が使えないのでないのでマウスが持てない。
曲がった人差指の第2関節の先でキーボードを押してもらった。
なんとかキーボードは押せるようだ。
「明日の朝9時から毎日来ますので宜しくお願い致します」
「わかりました。お待ちしています」

待たせてあったタクシーで帰っていった。
毎日タクシーで送り迎え。よっぽどの覚悟できたのだろう。
マウスを使わないで操作をする方法を、一覧表にしなければならないようだ。
昔はマウスのない時代があった。何とかなるだろう。
インターネットで「マウスを使わない操作」を調べる。
今夜もちょっと遅くなりそうだ。

今日から手が不自由な人がやってくる。名前は川内さんといっていた。
年齢は71歳。あの真剣さに応えなければならない。
昨夜のうちにマウスを使わない操作方法の一覧表を作っておいた。


A4用紙で10枚位になった。手が不自由な事を感じさせないように進めてみたい。
パソコンはマウスのない時代があった。パソコンは全部キーボードの操作で出来る。
一覧表づくりは自分のためにもなった。

朝9時は谷川さんの息子と川内さんの二人だ。
谷川ジュニアには応用問題を出して、自習をお願いすれば何とかいけるだろう。
谷川ジュニアは私が傍にいると緊張して先に進まない。
テキストの要点だけを説明し、あとは一人にして自由に進めている。
谷川ジュニアは、年齢は40代だが自閉症で谷川3段が生活の面倒を見ている。
「師匠、息子は自閉症なんですが師匠のとこなら安心です。お願いします」

谷川ジュニアは週に1回やって来る。谷川ジュニアの笑顔を引き出すまで教えたい。
人は何かに夢中になり、それができた時に感動する。感動すると笑顔になる。
週に1回のパソコン学習でも、生活にメリハリができ、人生が変わるかもしれない。
自閉症を直せるとは思えないが、少しでも自閉症改善の役に立てば本望だ。
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