第37話 上尾のパソコン教室で腕試し

文字数 1,849文字

教室内にパソコンが勢ぞろいした。テキストの作成もあと少しで終わる。
これから先は細かい書類作りに入っていく。
受講案内、入会書類、予約表、チケット。考えられるすべてを書き出していく。

2001年9月16日(日)大安の日を「教室開校日」と決めた。
オープンまであと2ヶ月になった。最後の詰めの作業に入っていく。
集客方法が最優先課題となる。お客様となる受講生がいなければ先へ進めない。
集客方法をどうするかだ。最初に考えられるのは新聞折り込み広告。

朝刊の新聞の折り込み広告を見て参考となるものを探した。
ある日、上尾駅の近くのパソコン教室で臨時講師を募集していた。
「有資格者」「経験者歓迎」「年齢30歳位までの方」
好奇心が湧いてきた。パソコン講師としての腕試しがしたくなった。

職業訓練時代に取った資格とMOUS上級資格も取得している。有資格者OK。
(現在はMOSと呼称が変更されました)
鴻巣の教室での実務経験がある。大丈夫だろう。実務経験OK。
「年齢30歳位までの方」は行って話せばわかる。
これに気後れして対象から外してしまうのは勿体無い。
年齢制限は目安で載せている事が多い。人間一度経験すると変にくそ度胸がつく。

今回は迷わずに担当窓口に連絡した。
自信満々で話したせいか特に年齢は聞かれなかった。
その日の午後1時に面接日が決まった。

上尾駅近くのパソコン教室に約束の時間に到着した。
結構大きな教室で受付には案内嬢がいる。
「午後1時に約束をしている、早川と申します」
「承っております、こちらへどうぞ」と応接室に案内された。

5分位で30代の細面の青年が現れた。履歴書を提出する。
「先生らしい風貌ですね」とお世辞を言って、年齢の値踏みをしている。
「いやあ、そうですか」と自信満々に答える。
青年は提出した履歴書に目を通した。
「簡単なテストですが、お願いします。30分くらいしたらまた来ます」
机の上にテスト用紙をおいていった。問題は100問ある。


鴻巣教室での実務経験のほか、MOUS試験も徹底的に学習した。
新教室のテキスト作り等で力がついてきた。特に解らない問題はない。
10分位で回答を作成し、辺りをキョロキョロ見回した。
ここは一斉授業のようだ。大スクリーンで説明しながら一斉に生徒に教える。
私がやろうとしているのは個別授業だが、一斉授業も経験したかった。

30分後、先ほどの面接した青年がやってきた。
テスト結果なら自信がある。しかし年齢は50歳。扱う生徒は小学生。
その講師としてふさわしいかどうかが判定基準になるだろう。
青年講師は「先生らしい風貌と言った」第1印象はよかったと考えていいだろう。
それでも本人の口から聞くまでは、心の中で少し不安がある。早く知りたい。
青年は教室を案内してくれた。見るもの聞くものみんな自分の教室の参考になる。
宝物の山だった。今まで気が付かないものが、ここの学習現場を見て気が付いた。
生徒用の名札、学習進行表、予約表、カレンダー。参考となる情報が一杯がある。
青年講師は教室を案内しながら、私の物腰態度、講師としての素養を試している。
「そろそろ採点の結果が出ていると思いますので、またここでお待ちください」
「よろしくお願いいたします」
青年講師は今の私の印象を採用担当者に報告し、最終的な判断を聞いてくるようだ。

採用の結果を待っている間に、もう一度教室内を見直してみる。
いくら見ても飽きない。同業者のすべてに興味がある。
人は興味のある事には細心の注意が行き届き、小さなことでも参考になる。
一つの教室を開業し経営するのは思っていたよりも雑事が多かった。
今までは会社の組織がそれぞれ専門の仕事を分担していた。
決められた仕事さえしていれば煩わしい雑務はなかった。
これからは全て自分の仕事となる。一つでも手を抜けば廃業の道を進むこととなる。

この苦労から得られるものは、会社時代よりかなり多くなる収入と充実感だ。
自分ですべて方針が決められるし、したい事が好きなようにできる満足感もある。
命令され指示されて動くのが嫌だった。上司のご機嫌を伺う事も苦手だった。
パソコン教室は仕入れがない。仕入れがなければ倒産がない。
自分の知識が売り物となる。知識は無料で手に入る。
ただ教室を経営持続していくためには、永遠と続く新しい知識の学習が必要となる。
諦めたら教室は終わる。意思があれば継続できる。

もう私はすでにパソコン教室の経営者として歩み始めている。
経営は知識と情報の豊富さが継続の鍵となる。ここでの腕試しも情報収集となる。
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