第31話 性能の良いパ自作ソコン

文字数 1,708文字

2001年 6月中旬
梅雨の時期に入っている。窓の外では雨がしとしと降っている。
テキスト作りは延々と続いている。
6月に入り、テキスト作りを開始した。すでに3週間経った。

東北オヤジに語りかけるように作っていく。
何をどこに配列してどんなページ構成するか。
難しいところはないか。分かりにくい説明はないか。
なるほど!と感動する所を少しずつ織り込む。
だんだんパソコンに興味を持てるようにする。
気がついたらパソコンができるようになっていた。
そんなテキストを作っていく。

下田さんにはどんな物を準備するのかをお願いしてある。
パソコン、プリンターやスキャナー、インターネットやメールをするための準備。
ハード関係は下田さんにすべてを頼るしかない。

パソコンは自作で予定している。
下田さんの得意の分野だ。8台のパソコンをすべて組み立てる。
パソコンを自分で組み立てるなんて信じられない世界だ。
「何でそんな事ができるんですか」
「人が思うほど難しくはないですよ」
「自分から見れば神様に見えますよ」
下田さんは25歳も年下だが、私は当然敬語を使って会話する。

「ぼくは、学校の成績は中以下でしたよ」
「下田さんはいつからそういう事ができるようになったんですか」
「10歳の頃 親から買ってもらって玩具のようにパソコンいじってましたから」
「ほんとに今回は全部お任せしていいですか」
「はい、好きなことなんで自分からお願いしたいくらいです」
「それじゃ、宜しくお願いします」
「早川さんだってあんな有名大学を出たなんて僕から見たら夢の夢ですよ」

下田さんは私を面接した人なので自分の履歴をみんな知っている。
その中から思い出すように自分の長所を褒めてくれる。
「下田さんがパソコンに夢中になるのと、私が勉強に夢中になるのは同じですね」
「僕はパソコンを組み立てるのが好きなんですよ」
「自分は勉強するのは好きではありませんけど、頑張るしかなかったんです」
「でも早稲田大学なんて信じられないですね、すごいですよ」

しばらくはお互いにほめっこが続く。
ほめっこはお互いに気持がよくなり信頼関係がどんどん増していく。
気になる所でも言葉を換えればほめることはできる。
注意されて発憤するより、ほめられてやる気を起こしたほうが能率はあがる。
その人を好きになり尊敬すると、欠点が見えなくなるのはわかる気がする。

一度下田さんの自宅に伺ったことがある。
4畳半の部屋にパソコン4~5台、部品類やケーブル等がゴチャゴチャだ。
パソコン雑誌等が散乱していて足の踏み場もない。


下田さんがすっと立ってボタンを押すと、パソコンが何台も軽快に動き出す。
長い歴史の中で積み重ねて今の形になっている。
複雑に見えるが自分の中ではちゃんと整理できているのだ。
見るもの聞くもの驚きの連続で別世界に入ったようだった。
散乱している荷物が気にならなくなった。

娘と同じ年代だが大先輩に見える。下田さんは私と違い軽い冗談も言わない。
冗談をそのまま実行してしまうのであとで恐縮してしまうことが多かった。
時々日曜日に会って話をする。教室開業のための下準備を打ち合わせる。

「こんなことができるといいですね」
「こんな風にやってみたいですね」
「こんなソフトがあれば便利ですね」
その夢のような取り留めのない話を軽く頷きながら聞いている。
特にメモをしているわけではない。
ところが次の週にはその資料とソフトを全部準備してくる。
もう頭が上がらない。それからは絞りに絞り込んで話をするようにした。
「何でも言って下さい。今度秋葉原に見に行きましょう」
「どくらいお金を持っていけばいいでしょう」
「8台ですよね。今回は100万くらいどうでしょうか」
娘の下ろしてくれたお金が手元にある。
パソコンを自作する。夢みたいな話だ。そんな現場を見たことがない。

パソコンの部品の組み立て作業は複雑だ。
インターネット接続・LAN設定・サーバー設定。
OSインストール・OFFICEインストール。
ドライバー設定、グラフィック、サウンド設定。見たことのない作業ばかり。


その現場をこの目で見られる最大のチャンスが来る。
それも8回も見られる。ワクワクしてくる。また未知の体験ができそうだ。

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